一章 黒鉄鉱山

第2話導入

 岩壁に突き立てられるツルハシの音が、魔光石にほんのり照らされた洞窟内に響く。壁に少量含まれた魔光石のおかげで洞窟内はぼんやり明るい、ここはそんな洞窟の支路の一つ、袋小路の突き当りである。

 見ると3人の女の子が壁に向かって座り込みツルハシを手に周囲と色の違う壁を崩していた。手元に置いた魔光石のランタンのお陰で3人の周囲は他より明るい。

 


 メグミはいい加減切れそうだった……後ろからは、

「痛!!」

「引っかきやがった血が出てるっ!!」

「ヒール!! ヒールっ!!」

「くっ! 数が多い」

男共の声が大変喧しい、ワフッワフゥ、コボルトの吠える声も喧しい。


 気分を落ち着けるために頭を一振りし、後ろのことをサクッと無視して目の前の壁に向き直る。ツルハシで、ザクザクと黒い壁を崩す。コロリッ! 結構大きめの黒い鉄鉱石が転がった。


「お!! 取れたっ♪」


 少し機嫌を直して、その鉄鉱石を手に取り隣で同じく採掘している少女『サアヤ』の背後に居る魔道スライムに手を伸ばす、


「プリンちゃんよろしく」


 メグミが手にした鉄鉱石を『プリン』と呼ばれる魔道スライムの上に乗せると、どういった仕組かメグミには未だに良く分からないが、ゼリーのようなにプルプルした体に、チュルン! 鉄鉱石が吸い込まれる。

 プリンの周囲を見れば精錬された鉄の塊が幾つも転がっている。楕円の卵のような形状な為、まるで鉄の卵をプリンが産んでいる様にも見える。


「プリンちゃんは働き者だねぇ、私も欲しくなっちゃうよ魔道スライム」


 メグミはその鉄の卵をチョン、指でつつきながら呟いた。

 


 『プリン』と名づけられたこの『魔道スライム』は、大きさは直径60センチほどお餅型、全体が透き通ったゼリーのような体に、薄いピンクの色が付いており、体の中心にある黒い核の周りに六芒星の模様がうっすらと光っていて、その見た目は少し幻想的で綺麗だ。

 『プリン』の名前の由来はサアヤの一番好きなデザートなのだそうだが、別にカラメルの掛かったプリンの様に2色に分かれているわけではない。以前メグミが、


「ねえ、サアヤ? 何で『プリン』なの? どっちかってーと、ゼリーじゃない? ジュレとかでもいいし?

 まあ、触った感触はわらび餅っぽいけど、ほんのりピンクで透明な所はやっぱりゼリーよね?」


プリンをなでなでしながらそう言うと、


「メグミちゃん、『ゼリースライム』の亜種と言うか、その『ゼリースライム』を元に人工的に造られたのが『魔道スライム』ですよ。ゼリーなんて名前だと退化してるみたいじゃないですか?」


プリンをフニフニしながらサアヤが答える。


「人工的に造られてて進化とか退化とか有るの? そもそも『ゼリースライム』が天然のスライムを、何だっけ? 品種改良ってより魔改造して造ったスライムなんでしょ?」


 プリンを揉み揉みしながらメグミが尋ねる、するとサアヤは、


「まあ、そうですけど、けどゼリー見たいな見た目にゼリーって名前を付けるのは安易でしょ? プリンちゃんはプリンで良いんです!」


プリンをむぎゅっと抱きしめながら断言する。


「この子のどこら辺がプリンなのよ? それにデザート系ってのと、プルルンッとした触り心地と見た目から名前つけてるなら一緒じゃない?」


 触りたそうに手を伸ばすメグミだが、サアヤがむぎゅっと抱きしめたまま横を向くので触れない、


(ヤバいわ、この子の触り心地、癖になる! ああ触りたい、揉みたい!)


「プリンを馬鹿にするとメグミちゃんでも許しませんよ! プリンをゼリーなんかと一緒にしないでください! 『プリン・ア・ラ・モード』は究極のデザートですわ!」


 プリンはサアヤの大好物だ、以前冷蔵庫に入っていたので、ついメグミが黙ってつまみ食いをしたら、友情に亀裂が入りそうな勢いで怒られた、五つあるなら一つ位食べても良いだろうと思ったのだが、サアヤが一回で食べるプリンの分量が五つなのだそうだ。いやいくら好物でも食べ過ぎだろう………


「………ねえサアヤ、その今言ってるプリンってデザートの方? それともスライムの方? どっち?」


「どっちもです!! お師匠様にお願いして譲って貰った、珍しい赤系の『魔道スライム』なんですよ」


 三倍速いとかは無いのだが、『魔道スライム』は若干その色によって属性や性格に差が生まれるらしい。

 特に赤系の『魔道スライム』は魔力が高く、成長すると魔法が使える様になるので珍重される。ただ気難しい子が多く、主人を非常に選り好みする為、所持者が極端に少ない『魔道スライム』だ。


 ただ『魔道スライム』自体は結構メジャーなペットの一種で、メグミ達の様な初心者、見習い冒険者も良く連れて歩いている。

 なにせ『魔道スライム』は別名『錬金スライム』と言い、様々な錬金術の素材錬成の手助けをしてくれる、メグミ達も今はプリンに鉄鉱石から鉄の錬成をしてもらっている、迷宮内で錬成出来れば単位重量当たりの買取価格も上がる。安い重い素材を抱えてえっちらおっちら迷宮外に持ち出す必要がなくなる、非常に便利な、有用なペットなのだ。


 プリンは今もその体内に複数の鉄鉱石を抱え込み、シュワシュワと音がしそうな勢いで何やら溶かしている。鉄の卵に成りかけの物もあり結構な個数の鉄の卵が取れそうだ。


◇ 


 メグミがそんなことを呟いたためかは定かでないが、その瞬間、


ガフッっ!! 


背後からコボルトの断末魔とも言えぬ空気の漏れる音がした。更に、


ゴキンッっ!! 


何か固い物の折れる音がしたので振り返ってみれば、『黒星狼』の幼生体が、コボルトの喉笛に噛み付き首を噛み折っていた。


「ワンッ!!」


 こと切れたコボルトの喉から口を離し、どや顔で『黒星狼』の幼生体がメグミの方を見る。


「うんうん、ソックスも偉いよ、働き者だ! お利口さんだねえ」


 メグミはそういいながら、「僕は? 僕も偉い?」とでも言いたげな顔で尻尾をブンブンと振る、『黒星狼』の幼生体の『ソックス』の頭を撫でてやる。


「ムフン!!」


 満足そうに尻尾を全開で振りつつ、こっちを見るソックスの、口の周りは返り血で血だらけだ。メグミはウッと気付かれないように気持ち引きながら、


(これがなければすっごいかわいいんだけど……グロいよね……ま仕方ないんだけどね)


 『黒星狼』の主な武器は牙である、その為攻撃は口で行われる。成体ともなれば大きさは今の中型犬程の大きさの数倍、そのころには前足の爪も結構な武器になるらしいが、今のソックスは幼体で犬例えると生まれたての子犬も良いところでヨチヨチ歩き程度らしい。


(既に中型犬位の大きさなんだけどねぇ)


子犬なので爪で引っかいても痛くもないから、口の周りが返り血で血だらけになっても仕方ないのだろう……



 『黒星狼』は全身がほぼ黒色で、額に十字の星型に白い模様のある魔物である。この見た目が黒星の由来らしい。


(黒地に白い星なんだから白星じゃないの?)


 そうメグミは思ったりするが、まあ白星狼なのに全体的に黒いってのも、名前詐欺なので黒星で正いのだろう。


 ソックスはメグミが『大魔王迷宮』の地下一階で鍛冶修行で前日に鍛錬しまくった剣の試し切りを行っている時に見つけた。

 寄ってくる魔物を片っ端から切り裂いて、試し切りをしていたメグミに、魔素樹の影から現れたソックスがヨチヨチ歩み寄って来たのだ。


「あれ? 魔物じゃない? ん? マメシバ? 黒いマメシバなのかな? お前何処から来たの? 迷宮の中は危ないわよ?」


「ワン!」


一声鳴いたその手足の太いコロコロした子犬は、メグミの足元にすり寄ってくる。


「ん? なにこの子人懐っこいわね、エサ……肉は無いわね、えっと林檎とかパイナップルは有るけど食べる?」


 メグミが掌にパイナップルの果肉を乗せてそっと差し出すと、クンクンと匂いを嗅いでからパクリとその果肉を頬張る。そして果汁の付いたメグミの掌をペロペロと舐めるのだ。


(何この可愛い生物は! くぅう! ダメよ、そんな円らな瞳で見つめないで!)


 思わず抱きかかえて、そのまま初心者魔法の講義に連れて来てしまっていた。迷宮内に小さな犬を放置も出来ない、仕方ない、そうメグミは自分に言い訳をしていた……


「なっ! メグミちゃんその犬どうしたんですか?」


 サアヤが子犬を抱いたメグミを見て驚く、


「あら可愛い! マメシバ? 黒いけどマメシバなのかしら? ん? でもこの子、生まれたて見たいに幼い感じね、歯もそんなに生えてないわ、子犬にしては少し大きいけど、体の大きな子なのかしら?」


ノリコもその白いソックスを履いた様な前足を両手で持って握手? しながらメグミに尋ねて来る。


「迷宮内に迷い込んでてね、危ないから連れだしてきたのよ。首輪もないし、ノラなのかな?」


「迷宮内に子犬? え? 迷宮内に居たんですか? この子?」


 メグミの説明にサアヤが驚く。


「そうよ、朝の日課で迷宮内で昨日打った剣の試し切りをしてて見つけたの、可愛いでしょ! ねえこれ飼っても良いのかな? 懐いてるし良いよね? 飼い主も居なさそうだし!」


「まあ、迷宮に迷い込んだの? 危なかったわね、こんな子犬がよく無事で、運が良かったのね」


 子犬の頭を撫でながらノリコが言うと、サアヤは慌てた様に、


「待って下さいお姉さま、メグミちゃん、迷宮内に一般の動物は居ません! 一般の動物は魔素が濃くて近寄ることすら出来ません。迷い込むこと自体あり得ないんんです」


そう説明してくれる。


「ん? けどこの子迷宮内にいたわよ?」


「魔物の幼生体じゃないでしょうか? 偶に迷宮内で繁殖した魔物の幼生体が見つかることがあるんです。それじゃないでしょうか?」


「え? この子こんなに可愛いのに魔物なの? ……ダメよ! ダメ! 絶対殺させないわ! この子は私が飼うの! 躾けるから平気よ! 殺す気なら先ず私を倒す事ね!」


 子犬を抱きかかえて庇うように背を向けるメグミに、


「……はぁ、困りましたね、まあ魔物の幼生体をペットに飼うこと自体は割と一般的ですから、殺したりはしませんけど」


サアヤは少し困ったように溜息をついている。


「なんだそうなの? 魔物は皆殺しだーー! って奴じゃないのね、良かったわね! あんたは今日からうちの子よ」


「ワン!!」


「イヤ、メグミちゃん、捨て犬を拾って飼うわけじゃあ無いので、色々手続きが必要なんですよ」


「なら講義が終わったわ手続きね」


 メグミの中では既に決定事項のようだ。


「けどこのままペットを連れて講義を受けて良いのかしら?」


 ノリコは心配げに呟く。


「大丈夫よ、この子大人しいし、ね? 無駄に吠えたりしないよね? まあ最悪力尽くで大人しくさせるわ」


「ねえメグミちゃん、この子本当に子犬、幼生体なんでしょ? 酷い事しないでね」


「何よ酷い事って? 口を閉じさせるだけよ?」


「………酷い事しないでね、お願いね」


「………まあ、『魔道スライム』を連れて講義を受けても平気なので、騒がなければ大丈夫だと思いますけど、講義が終わったら先生に獣使いの師匠を紹介してもらいましょう。手続きとかは本職の師匠に聞いた方が早いですわ」


「そう言えばメグミちゃん、この子、名前はどうするの? この子じゃあ呼びにくいわ」


「そうね……うん、決めた! 貴方は今から『ソックス』よ!」


「ワン!!」


 口の周りが白く、尻尾の先端も白い、また手足の先だけ白くまるでソックスを履いているみたいだったので『ソックス』


(我ながら捻りのない名前だなあ……)


 メグミ達はその後、講義が終わって直ぐに初心者魔法の先生に、獣使いの師匠を紹介してもらい。

 その足で獣使いの師匠の下を訪れ、そのまま手続きをして貰っていた。

 話を聞いて書類に記入していた獣使いの師匠が、


「なにこの子、大魔王迷宮の地下一階に居たの? へえ? 転送魔法の罠にでもかかったのかな? 

 質の悪い目的地がランダムの罠だからねえ、この子も運が良いのか悪いのか、まあ他の魔物に食べられることなく、ここに生きているんだから運が良いのかもね」


「そう言えば地下一階にはこんな魔物は居ませんね、どこの階層の魔物なんですか?」


「もっともっと地下深くの階層の魔物だよ、『黒星狼』って言ってね、熊、そうだね元の世界で地上最大の肉食獣、『北極熊』知ってる? あれより大きな魔物だね。

 知能が高くて、集団で襲ってくる、厄介な魔物なんだよ、そう、だから幼生体が発見されること自体が稀だね」


 メグミはまだ成体の『黒星狼』を見た事がない。


(そんなの敵に回したくないなぁ)


 ぼんやりそう思う、一撫でされただけで死ねそうだ。


「へえそうなんだ、ならこの子も大人になったら大きく成るんだ、ソックス、お前大きく成るんだって、今はこんなにちっさいのにね」


「そうだね成体になると北極熊よりもおっきくなるよ、まあこの子は産まれたばかりだろうね、歯の生え揃え方を見るに、生後一週間は経ってないねえ。

 けど君は本当にこの子、飼う心算なのかい?」


「そうですよ、だから手続き進めてください」


「メグミちゃん、本当に良いんですか?」


「何よサアヤまで、良いわよ、名前だって付けたんだからもうウチの子よ! ねえソックス!」


「けどねえ、見習い冒険者寮はペット厳禁だよ? あそこは見習いが入れ代わり立ち代わりで使うからね、その辺の決まりが厳しいんだよ。

 次に使う人がペットが苦手だと困るだろ? アレルギーとかも有るからね」


「なっ、ダメなの? マジで? どうしようノリネエ!」


「どうしようも無いわね、合理性のある規則だし、こればっかりはね」


 少し考えたメグミは徐にソックスの瞳を見つめて、


「ソックス、貴方今日から寮の中ではヌイグルミ! 良いわねヌイグルミよ、出来るわね?」


「ワン?」


 ソックスはメグミが何を言っているのか理解しているのか、していないのか、話しかけてくるメグミを不思議そうに見つめる。


「なっ!」


 サアヤが絶句し、


「無理があるわよ、無理過ぎるわよメグミちゃん!」


ノリコがその無茶を指摘する。

 

「大丈夫よ、これだけ可愛いのよ? 動かなければヌイグルミに見えるわ!」


 メグミはそんなノリコの言葉もどこ吹く風で、その無茶なアイデアを実行する気満々だ。


「確かに可愛いし大人しい子だけど、尻尾、尻尾が元気に動いてるわよ……それに子犬にじっと動くななんて無理に決まってるでしょ?」


 ノリコを含め皆すっかり子犬扱いだがソックスは狼だ。


「寮母さんを誤魔化せればそれで良いのよ!」


 メグミは堂々と不正を宣言する。


「あー、私がここに居るのを忘れてないかな? 一応師匠の立場として、不正は見逃せないんだけど?」


「良いじゃない、師匠! 見逃してよ、減るもんじゃないでしょ!」


 メグミはそんな師匠に抗議するが、


「ダメよメグミちゃん、不正は私が許しません!」


ノリコも不正には断固反対なようだ。


「硬いのよノリネエは! この子の命が掛かっているのよ! なによ一寸誤魔化すくらい融通を効かせなさい!」


諦めることなく不正を宣言するメグミに、肩を竦めてサアヤは、


「はぁ、とりあえず、暫くは私の所で引き取ります、お爺様とお婆様も許してくださいますわ。それに三人で住める家を探すって話でしたでしょ? 少しの我慢ですわメグミちゃん!

 それにウチなら今でも毎日来てるのですから、毎日会えますわ」


 そう提案する。


「そうねそれが良いわ、メグミちゃん、早く住む家を見つけましょう! そうすれば不正なんかしなくても毎日一緒に住めるわ」


 ノリコが手を打ってその提案に賛同する。


「ううぅ、仕方ないわね、じゃあサアヤ暫くウチのソックスをお願いね、ソックスぅ、毎日会いに行くからね! 広い庭のある家が見つかったら一緒に庭で遊ぼうね!」


 そう言ってメグミがソックスをヒシッと抱きしめる。


「ワン!」


「あーー、話は纏まったようだね、いや一時はどうなることかと……」


「けど減らないでしょ?」


「結構無茶言うねえ君は!

 けどね不正を見逃すとね、減るんだよ私の信用が…… 

 はぁ……そうでなくても少ない信用が、さらに減ってマイナスに突入しちゃうよ」


「少ないの信用? 何したのよ師匠?」


「良いかい? ペットは家族なんだよ、魔物だろうが家族、絶対に処分なんてさせないし、魔物のペットを虐待とか、酷い事してる奴らは許せないだろ? 許せないよね? 

 まあ………そう言うことだよ」


伊達に獣使いではないらしい………許さなかったのだろう。



 ソックスの振る尻尾を背中で気持ちよく感じつつ、またぼんやりそんなことを思っていると、如何やら手が止まっていたらしい。


「メグミちゃん手がお留守ですわよ、プリンちゃんが働き者で可愛いのは当たり前ですわ。なにせ私のプリンちゃんですもの! 

 ソックスちゃんが働き者でお利口なのも分かりましたから、手を動かしましょうね」


 サアヤがコツコツと目の前の壁にツルハシを立てながらこっちを向いて注意してきた。細い腕に似合わぬツルハシ鋭く勢いのある動きを目の端に捕えながら、メグミはサアヤの方を見る。


 隣に居るサアヤは膝を折ってしゃがみこみ、今はツルハシを振るっている。


 ぱっと目に飛び込んでくるのは白に近い金髪、プラチナブロンドが印象的だ。細く艶やかな髪質で、今は動きの邪魔にならない様に長い髪の毛を編んでから後頭部に巻き付けている。

 顔は、綺麗な透き通るような白色で、陶磁様な滑らかな肌に切れ長な大きな碧眼が特徴的だ。

 長い睫毛と、小づくりな鼻、まるで人形の様に整った顔をしている。さながら童話に出てくるお姫様のようだ。華奢で小柄な細身の体躯を見ていると、


(こうなんか後ろからギュッ!! って抱きしめたくなるよねホントに!! もうこの可愛すぎだぞチクショウ!!)


 その華奢な体に、簡素な青いシャツを腰でベルトで止めて、ひざ丈の白いスパッツに青のロングブーツ。

 シャツの上から、くすんだオレンジ色のレザーのベストを胸の前で紐で編みこんで着ている。

 体の線が出るタイプの装備であるが、胸はほとんど膨らんでいない。


(貧乳は希少価値だ!! 良いっ、実に良いわ! 心が洗われるようね)


 腰の後ろにはやや細身のショートソード(メグミ謹製)をベルトに吊るしている。

 そして足元には長いスタッフ(メグミ謹製)を地面に伏せて置いており、彼女が魔法の使い手であることを物語っていた。


「メグミちゃん、手!」


 サアヤから再び叱責が飛ぶ、改めてサアヤを眺めていたら手が止まっていたらしい。


(くうぅ! 糞真面目子ちゃんめ! いいじゃんちょっと位手が止まっても)

 

 内心メグミは思いつつも、そんな不満はおくびにも出さず、


「ハイハイ分かりましたよ、手ね、手を動かしますとも」


そう軽く返した。


 その手に握るツルハシを岩壁に突き立て、そのまま手を動かしつつ、


(あれ? 反応がないな?)


 サアヤの方に顔を向けると、彼女はちょっとメグミの返事に不満だったのか、若干顔を不機嫌そうに歪めつつツルハシを振るって、


「ハイは一回」


サアヤは壁を向いたままポツリと注意する。

 サアヤの隣から「プッ」っと噴き出すような声がする。ノリコが笑ったのだろう……


 サアヤの尖ったナイフの様に長い耳が、感情に合わせて時折動くのが大変愛らしい。今もちょっと機嫌が悪いのか、ピクピクと動く様子がとてもチャーミングだとメグミは思う。


 そう彼女は『エルフ』である。


 そして今日の髪型はメグミの力作だ、この大好きな耳がよく見えるようにセットした。髪を編んだりするのが好きなメグミは、サアヤも喜んでくれているので、いつもサアヤの髪型を整える係を買って出ている。


(これだけ毎日サアヤの髪をセットしているのだから、この綺麗な髪とサアヤは私の物でよくね?)


 そんな風に密かにメグミは思っている。サアヤ本人には(まだ)内緒だが……眼福に微笑みつつ、再びサアヤを見やると、


(やっぱり……ツルハシの動きを見るに、サアヤまた魔法の腕を上げたのかな? 『身体強化』に『武器強化』、それだけじゃなく『腕力向上』もかかってるよね、これ?)


 メグミはまだ『腕力向上』は使えない、前回の測定ではまだ魔法基礎力が足らなかった、今自分にかけているのは『身体強化』と『武器強化』だけだ。


(そろそろ使えるかな私にも、今度覚えに魔術ギルドにいこう……)


 そんな事を思っていると、またコロリッ、鉄鉱石が転がった。プリンに渡そうとそれを手に取ろうとする、その時、


ドスッ!!


何かが刺さる、何かに刺さる音が斜め背後から響く。


グフッ!!


 コボルトの断末魔が、今音がした方向、サアヤを挟んでメグミの反対側にいる、ノリコの背後から聞こえてきた。

 そちらを見ると『一角猪』の『ラルク』が頭に生えた白い大きなサイのような角を、コボルトの胸に突き刺していた。


(急所に一撃とはやるなラルク!!)


 メグミは感心しつつ、ラルクを見る。


 ラルクはノリコの飼っている『一角猪』の幼生体でメグミがソックスを拾って直ぐにこちらもノリコが拾ってきた、全身真っ白で角だけがほんのり黄色い。

 『一角猪』は『聖獣』だそうで、ユニコーンと同じく処女以外触らせてもらえないし懐かない。男が触ろうとすれば攻撃を仕掛け、非処女が触ろうとすれば必死で逃げる。

 この『一角猪』も成体ともなれば黒星狼の成体とどっこいどっこいの大きさになるらしい。


(チッ!! 処女厨め!!)


 そんな風に思わないでもないメグミだが、メグミ、サアヤ、ノリコの3人には大変懐いて居り、人間の言葉がわかるのかよく言うことを聞いてくれる。非常に知能が高いらしい。


(ええ……どうせ私たち3人は処女ですとも、彼氏居ない歴=年齢ですとも!!)


 しかし自分はともかく他の二人に彼氏が出来ない理由が良く分からない。そう思いつつノリコを観察する。(視姦では決してない)


 ノリコはすらっと背の高いおねえさんタイプの美人さんだ。


 背が高いのを本人は気にしているようだが、足が長く、全体的に胸以外はほっそらしているため、本当にモデルのようだ。

 黒い長い髪の毛を首元で三つ編みにしつつ肩にかける様に前たらしている。(もちろん髪はメグミがセットした)

 サアヤと同じくこちらは雪のような色白さんで、黒目が大きな瞳とハッキリとした造作、誰しもが一目みて美人とだと思うそんな美貌の持ち主だ。

 そんな美貌にも関わらず、ぱっと見で一番印象に残るのはその大きな胸だ。

 もっさりした大地母神の神官服を押し上げるほど大きい。

 大地母神の神官服は、白をメインに紺色の縁取りで、モサっとしたシャツを腰でベルトで止め、膨らんだジャンプスカートの様なズボンに、編み上げの黒のブーツ。

 肩には短いマントの様な上着をかけて、ローマの法王様の服と、よくある水兵さん制服を足して割って魔改造した様な、モッサリとした服装である。

 そんな服装でもスタイルが良いのと胸が大きいのがわかるくらいにプロポーション抜群なのだ。


(モゲロッ!! ちくしょう!! ……嫌やっぱり駄目だ勿体ない、寧ろ揉みしだかせろ、ぐへへっ!!)


 コンプレックスに燃える乙女の様な事と、変態親父の様な事を同時に、メグミが考えているとはつゆ知らず、ノリコは凛々しい顔でツルハシを振るっていた。胸がツルハシを振るうたびにプルンプルンと揺れている。ノリコは神官服の上着のシャツ中に、サアヤと同じレザーのベストを着ている。

 胸を締め付ける為、胸が若干小さ目に見え、更にがっちりホールドしている筈なのにも関わらず揺れる。


(なにこの胸囲の格差社会!!)


 なんとなく遣る瀬無やるせなくなりつつ観察(視姦?)を続ける。

 教義で、人を殺めるための刃物は遠ざけるように教えられているため、ベルトを巻いた腰の後ろに細身で長さ50センチ位の柄を持つハンマー(メグミ謹製)を装備している。 足元には大型の長さ160センチ位のポールハンマー(メグミ謹製)を地面に伏せて置いてある。

 何故ハンマーばかりかといえば、普通のメイスやロッドでは持ち手が太すぎて女の子の手には余るからである。

 持ち手を細目にして、打撃部分を太くすれば自然とハンマーになってしまったという、装備者の要望に沿った結果の必然であった。


 そんな風にノリコの方を見つつ(視姦しつつ)プリンに鉄鉱石を渡し、


(うーん眼福眼福っ♪)


一通り満足したので、再び前を向いて岩壁にツルハシを立てて採掘していると、またメグミの後ろから、「ゴフッ」とコボルトの断末魔の吐息にの後に、続けて「ゴキンッ」っと音がした。


(はあっ……ソックスは優秀だなーー)


 メグミが諦め半分に思っているとノリコが、


「ふーーーっ」


大きな、深いため息をついた。そして、


「メグミちゃん、サアヤちゃんソロソロお昼ね。地上に上がってお昼ご飯にしましょうか?」


微笑みながら涼やかな声でこちらに語り掛けてきた。


「分かりました」


「了解ーー」

 

 サアヤとメグミが返事をし、未だに五月蠅い背後を、三人はなんとも言えない半分諦めた顔しつつ同時に振り返った。そしてメグミは手早く背後の状況を確認する。

 

 支路の入り口付近にゴロウがいた。

 大きめのブロードソードに小型の盾、部分金属鎧を着た背の高い男の子、それがゴロウだ。

 ゴロウはコボルト4匹に囲まれて戦闘中、そしてその足元には2つ魔結晶が転がっていた。


 更に少し右の支路の奥側、自分達に近い側にはタクヤがいる。

 タクヤは両手に片刃のロングソードを装備し、こちらも防具は部分金属鎧を装備している。

 タクヤは、


「痛てえ、ちくしょうやりやがったなこの糞コボルトが!! オラッオラッ」


 喧しく吠えていた。

 若干細身で背の低いタクヤは現在コボルト2匹と戦闘中、足元にはこちらも2つ魔結晶が転がっている。


 その左のタクヤよりも更に支路の奥、こちらに近い位置にはシンゴいる。

 「クッ!!」とか「チッ!!」とか言いながら1匹のコボルトと戦闘中だ。

 両手にナイフを装備し、その身にレザーアーマーを装備した中肉中背のシンゴの足元にも1個魔結晶が落ちていた。


 メグミは自分の斜め背後のラルクをみる、その足元には6個の魔結晶が転がっている。

 また背後のソックスの足元は7個の魔結晶が転がっていた。

 ゴロウのペットで、羊とカモシカを足して2で割ったようなヤックーという種類の運搬に向いた魔物は、プリンの後ろで守りについていたが、こちらの足元には何もない。

 どうやら背後に迫ったコボルトは全てラルクとソックスが仕留めたらしい。


(ペット以下ってマジですかっ……てか地下一階で男が3人もいて13匹も後方に抜けられてるの……)


 メグミはその絶望的な状況に打ちひしがれながら横を見る、するとサアヤ、ノリコ共にウンザリする様な顔で後ろを見ている、


(ああ、みんな同じ感想なのね……)


 ここで『コボルト』だが、この鉱山ダンジョン『黒鉄鉱山』に多数発生する魔物である。

 ヨークシャーテリアによく似た顔をもつ人型魔物だ。鉄鉱石などを好んで食べ自身の爪や体毛を強化しつつ成長するらしい。

 確かに体表面の毛は結構固めで下手な攻撃は、そう丁度ゴロウ達の様な攻撃は容易に弾いてしまう。

 だが内側の毛はフワフワとして柔らかく、体表面の毛皮に攻撃を弾かれてしまう場合には、恐れずに懐に飛び込み、この柔らかい内側に刃を突き立てる事が重要だ。

そう重要なのだがゴロウ達は攻撃を弾かれた事に動揺して完全に腰が引けている。


(ちょっと硬いだけの直立歩行犬じゃない!

 何をビビってるのよ! まったく情けないわね!!)


 鳴き声も「わんわん」「ばうばう」など犬まんまであり、確かに犬が2足歩行しているように見える。


 黒鉄鉱山の地下1階に沸くコボルトは、幼稚園児並みの背丈で幼稚園児よりは素早く、力が強い。だが、所詮その程度の強さだ。

 最下層である地下10階には、3メートルにもなるコボルトも居るらしいが、それらとは比べるべくも無い。

 地下5階層以下には『見習い』冒険者は立入厳禁であると冒険者ギルドからも注意されているが、此処は地下1階である。

 『魔鉄』と呼ばれる、魔素を多く含んだ武器の制作に用いられる鉄鉱石が取れるのは、地下2階からであり、地下1階は小手調べ用で、本当にこの迷宮の初心者用の階層なのである。

 

 メグミ達3人は今朝、この男の子3人組のゴロウ達とパーティー募集広場で出会い、パーティーを組み、この鉱山に来た。


 メグミ達はここの所連日、魔鉄の採掘の為に、この黒鉄鉱山に通っている、しかしメグミ達3人だけは2人が背後を守り、1人だけしか採掘が出来ない為、非常に効率が悪い。

 また地下2階からは広いルームと呼ばれる部屋で採掘することに成るため、2人の護衛だけでは採掘をしている人の背後をカバーしきれないのだ。

 魔物の発生が少なければそれでも何とかなるのだが、地下2階は人気がある階層の為、冒険者が多い。

 その為、魔物の発生が多いのだ……度々採掘を中止し、コボルトなど魔物の撃退に手を取られるため更に効率が悪い。


「これは、やっぱり地上とは違うわね、三人だけじゃあ採掘しながらだと手が足らないわ」


「戦闘だけなら余裕ですけど、採掘をしながらとなると……

 強い魔物では有りませんけど、魔物はどこに沸くか分かりませんからね、この状況で壁に視線を向けて周囲の警戒が出来ないのは……『危険』ですわね」


「武器を振り回すにはある程度離れていないとダメだから、採掘している人の直ぐ後ろで延々防御も出来ないのよね……」


「ソックスやラルクも結構戦力にはなるけど……それでも少し厳しいわ。

 地下2階に来て居る普通のパーティが6人~8人なのも分かるわね」


 地下2階で採掘しているパーティの一般的な構成は、採掘する係が2名、これをその他の冒険者とペットの魔物でガッチリ防衛するスタイルが一般的だ。

 8名位のパーティになると採掘をする人数が更に一人増える。

 これらの人員配置で交代しながら採掘を続けるのだ。


「この鉱山に来る見習い冒険者の主目的が採掘ですからね、採掘をする人数が多い方が効率が良いのは誰でもわかりますわ。

 単純計算でも、一人より二人の方が採掘量は倍、三人になれば三倍。

 単位時間当たりの採掘量がまるで違います」


 3人パーティでは魔物の撃退にも手を取られ、採掘量は一人分の半分、半人前なのだ。

 6人パーティに成るだけでその採掘量は一気に4倍に膨れ上がる。

 そう単純に計算すると、3人パーティで0.5の採掘量が、6人パーティだと二人で採掘の為、2の採掘量になる。一人当たりの取り分は0.17から0.3となりほぼ倍だ。

 8人パーティで3人で採掘した場合はこの一人当たりの取り分が0.38と微増するだけなので無理に8人まで人数を増やす必要はない。

 まあ効率自体は上がっているので8人居ても困りはしないが、8人も人を集めるのが大変なのだ。

 見習い冒険者のパーティに入ってくれるのは見習い冒険者にほぼ限られる、足手纏いの見習いとパーティを組んでくれる、一般の冒険者は殆ど居ない。

 メグミ達ような素材集め、採掘目的のしかも初心者用の黒鉄鉱山低層階、付き合ってくれる一般の冒険者の方がどうかしている。

 まあ仮に居たとしても女性ばかりのメグミ達三人組に対して裏で疚しい気持ちを抱く如何わしい連中だろう、そんな奴らはこちらからお断りだ。


「ここは選り好みをしている場合じゃないと思うの。ね? メグミちゃん、良いでしょ?

 パーティー募集広場に行って、臨時のパーティーメンバーを探しましょう、そうね3人以上の見習い冒険者のグループを見つければ良いと思うのよ、どうかしら?」


 ノリコが提案する、そう、主にメグミに対して提案するのだ。見習い冒険者の中から臨時のパーティーメンバーを探さなくてはいけないのだ選り好みをしている場合ではない、しかしメグミ達の場合は……


「そうね! 女の子が良いわ! 可愛い子を探しましょう!」


 今ノリコが選り好みをするなと注意したばかりなのに、メグミは選り好みしまくりだ。

 そんなメグミに深いため息をついてサアヤが、


「はぁ……無理だと思いますわ。

 メグミちゃんは、自分達が前衛で防御に回って、採掘をその子達に任せる気でしょう?

 メグミちゃん普通の女の子は力仕事の採掘は嫌がりますわよ?」


至極真っ当な意見で嗜める。


「ならその子達が前衛で防御して私達が採掘すれば良いじゃない! 何も問題ないわね!」


 それでもメグミには諦める気はなさそうだ……だがサアヤは更に、


「メグミちゃん! 普通、女の子の前衛とか、特に見習い冒険者では滅多にいませんからね?」


 こう言って嗜める、そう前衛も出来る自分達の特殊性をメグミはちっとも理解していなかった。

 そもそも女性の冒険者は数が少ないのだ、男性の半分位、冒険者全体の1/3、その位しか女性冒険者は居ない。

 命がけの危険な職業に女伊達らに就く様な奇特な女性はそうそう居る者ではない。

 

 そんな奇特な女性冒険者では有るのだが、特に女性見習い冒険者の場合は更に特殊だ。見習い冒険者の定番となっている魔鉄の採掘も、女性見習い冒険者には不人気なのだ。

 

 力仕事は女性には不向き、腕力に劣るのだ、当然だろう。そして魔物と正面切って戦う女性見習い冒険者は滅多にいない。

 こちらもその身体能力と体格などから、前衛で正面から魔物に対抗するのに不向きなのだ、当然と言えば当然だ、精々が中衛で槍などで前衛を支援するか、後衛で魔法や弓矢で火力支援、若しくは神官等で支援魔法担当が多い。


 戦い自体慣れていない見習い冒険者、更に女性にこれ以上を求める方が酷なのだ。

 

「ね? だからこの際、男の子でも良いんじゃないかしら? 何でイヤなのメグミちゃん」


 男性の見習い冒険者は女性とは逆に前衛が非常に多い。

 未だ自分達の才能も分からない未熟な冒険者は、実力などあろう筈も無いのに無謀にも英雄に憧れる。

 憧れるだけなら、夢見るだけなら問題はないが、少し魔物と戦ってそれに勝つと、心に余裕が出来る、するとその事に己惚れる、己の実力を勘違いするのだ。

 勘違いしたバカ野郎の相手をしたくないのはノリコやサアヤも一緒だ、しかしこの際贅沢は言って居られないのだ。だが……


「なんで? 理由なんて無いわ! 可愛い女の子とむさ苦しい野郎、どっちを選ぶかなんて考えるまでも無いわね!」


 メグミは自信満々で答える。メグミには関係ないのだ、相手が勘違いしたバカ野郎だろうが何だろうが男で有るだけで問題外なのだ。


「メグミちゃん! お友達を選ぶ訳ではないんですよ! 臨時のパーティーメンバーを選ぶんです! 地下2階程度なら普通の前衛男性冒険者なら余裕でしょ? 選り好みしている場合じゃありません! 臨時です! 贅沢は敵ですわ!」


「そうね、俺様系でオラオラ系のおバカさんで無ければ贅沢は言ってられないわね、優しいタイプだと良いのだけど……まあ、メグミちゃんと喧嘩にならなければこの際誰でも良いわね」


「甘いわね二人とも! 男ってだけで大半はダメよ! ほぼ全ての男子と喧嘩をする自信があるわね!

 まあ良いわ、とにかくパーティー募集広場に向かうわよ! 行ってから良さげなのを見つけて声を掛けるわ! 無論女の子優先でね!」


「「……はぁぁ……」」


二人は大きなため息をついた。

 

 だが三人の心配は杞憂に終わる。何故ならメグミ達三人がパーティー募集広場に入った途端、女子は目を逸らしそそくさと広場の隅に逃げ出し、男子でさえ目を合わそうともしないのだ。

 メグミ達が歩を進めるごとに潮が引くように人が引いていく、


(なによ、相変わらず、失礼な連中ね! やっぱりあれかしら? 連れの2人が美人過ぎて皆引いてるのかしら?)


 メグミのその想像は半分正解で半分間違っている。

 確かにメグミ達三人はその美貌でも目立っていた。

 その為、嫉妬も混じった複雑な感情で、女子が引き気味なのは仕方がない。誰だって引き立て役に、美女の引き立て役になるのは御免こうむりたい。

 だがそれだけでは無い、この三人に女子が関わろうとしない理由はそれだけでは無いのだ。

 この三人、いい意味でも、悪い意味でも目立つ、悪目立ち過ぎていたのだ普段の行動が……端的に言って他から浮いている存在なのだメグミ達は……本人たちに自覚はないが……

 そして三人に対して群がりそうな男子でさえ目を逸らす理由がここにある。

 メグミ達の事を少しでも知っている者は誰も近寄らない、分かっているから近寄らない。

 メグミ達とパーティーを組んでくれる者など、メグミ達を知らない、全くの新人か間抜けなボンクラ、若しくはメグミ達と同類の他から浮きまくった存在のみ。

 メグミは選ぶ心算だったようだが、そもそも選ぶ余地などないのだ。


 だからその時、ゴロウ達と目が合ったのは偶然だ。

 特に選んだわけではない、ただメグミ達が近寄ってもぼーっとその目の前に迫るのを見つめるだけで、逃げようとしなかった。

 それだけの理由だった。


(まあ、一応、部分金属鎧にレザーアーマーね、全くの新人って訳じゃあ無さそうだけど……強くは無さそうね、こんなので役に立つのかしら?)


 こんなの呼ばわりをするメグミのゴロウ達に対する第一印象は、『弱そうで頼りない』だった。

 しかしノリコは逃げない三人に声を掛ける、他に声を掛けれそうな相手が居ないのだ仕方がない。


「ちょっと良いかしら? 私達これから『黒鉄鉱山』に魔鉄の採掘に行くのだけど、パーティーメンバーを探しているの。貴方達、もしよかったら一緒に如何かしら?」


 更にサアヤが、


「私達は前衛でも採掘担当でも構いません、是非ご一緒にいかがですか?」


そう言って誘う。

 メグミは野郎など御免被りたいのだが、他に選択肢が無いのだ……


(まあこんなのでも居ないよりマシよね、低階層のコボルトの相手程度、誰でも出来るわ)


 第一印象から低評価のメグミであるがそれはタクヤの第一声を聞いて確信に変わる。


「ハッ、俺達に声を掛けるとは、なかなか見る目のあるお嬢さんたちだね!

 黒鉄鉱山か、俺達はそこには行ったことが無いけど……まあ良いさ、ゴブリン狩りにも飽きてきたところだ、手を貸そうじゃないか、なぁゴロウ!」


 ロン毛をかきあがてポーズを決めながらノリノリで誘いに乗るタクヤに、


「……なあタクヤ、俺達はゴブリンは昨日が初めてだろう? 飽きるほど狩ったか? 2・3匹位じゃなかったか?」


 ぬぼーっとした印象のゴロウが馬鹿正直に全てを話すとタクヤはポーズを決めたまま固まる。

 慌ててシンゴがゴロウの脇を肘で突きながら小声で、


「ゴロウ、察しろ! タクヤのハッタリが台無しだろ! ……フッ、まあ良い、ゴブリンなど雑魚にすぎん! 俺達に掛かればコボルトとて物の数では無いな!」


 バッと音がしそうな勢いで顔を右手の掌で覆いながらポーズを取って言い放つ。


(この馬鹿二人は一々ポーズを取らないと喋れないのかしら?)


 だがまあゴロウ達も乗り気の様だ。


「では一緒に来ていただけるのですね? 助かります! さて役割分担はどうしますか? 貴方達は採掘をしますか?」


「はぁ? 何を言い出すかと思えば、お嬢さん、俺達は戦士だぜ? 力仕事を任せて悪いが、お嬢さんたちは採掘係をお願いしたいな、護衛は俺達に任せてくれ!」


「まあ俺達はこんな鎧を着ているからな、しゃがんで採掘をするのも窮屈だし、できれば前衛でお願いしたいかな、どうだろう?」


「大船に乗ったつもりで安心してその背中を預けてくれ! ああ、一匹たりとも背後に敵は通さない!」


 その言葉にメグミ達は視線で会話する。


(どうかしら?)


(他に選択肢はありませんわ、お姉さま!)


(まあ居ないよりはマシね、はぁ……まあ最悪荷物運び位は出来るでしょ)


 皆可成りの低評価だったが話は纏まった。


「ではお願いできますか? 私達は直ぐに出発できますが貴方達は準備の方は大丈夫かしら?」


「ああ、こちらも問題ないさ!」


「そうだな、特に準備は必要ないかな」


「常在戦場の心構えで居るからな、何時でも戦える!」


 言葉だけは勇ましい。


 それから街から1時間かけて徒歩で鉱山に移動した。

 嵩が1時間の行軍、その程度でゴロウ達の息は上がっていた……別段早く歩いたわけではない。

 何かと話しかけて来るタクヤを適当に流して、普通に歩いてきただけだ……距離にして4キロほどであろうか?


「あんた達大分息が上がってるけど平気なの? 少し運動不足すぎない?」


「メグミちゃん、分かって無いな、俺達は金属鎧を着こんでるんだぜ? 武器だって重い、荷物を運びながら歩けば多少息位上がるさ」


「はぁ、まあ良いわ、どうする少し休憩する?」


 水筒を取り出し、水分補給をしていたゴロウが、


「いやそこまでは必要ない、水分も補給したし、いけるよ」


「ここって定期便の乗合馬車とかないんだな、もう少し利便性を考えて欲しい物だな」


 シンゴが何やら文句を言っているが、


(たかがこの程度の距離で乗合馬車? 馬鹿かしらこの男は? 一体運賃に幾ら払う気なの?)


……御者だって食べて行かなくてはいけないのだ、こんな見習い冒険者が主に来る鉱山でお金を払って馬車に乗る客は少ないだろう、見習いは大体貧乏なのだ。

 そんな客相手に乗合馬車など運航しても食べて行けないのは明らかだ。


(不安だわ、この三人すっごい不安……ここは一度様子を見るべきね)


 そうメグミが思っていると、メグミが提案するよりも早くノリコが、


「ゴロウ君達はこの鉱山初めてだったわよね? ここの魔物になれる為に、最初はお互いの顔見世も兼ねて、地下一階で試し狩りと採掘は如何かしら?」


「俺達は護衛だからな、まっ、お嬢さんたちの方針に合わせるさ。

 ここは地下2階と3階がメインだろ? 俺達は地下3階でも平気だぜ?」


「まあコボルトは初めてだからね、悪くない提案だと思う、いけるようなら先に進めばいいしね」


「コボルトは武器すら持っていないんだろ? ふっ雑魚相手じゃあ物足りないな!」


 メグミ達の悪い予感は大当たりだった。それから直ぐに地下一階で採掘を始めて現在2時間ほど経過、もうすぐお昼である。


(……想像以上の酷さだわ、これはお昼ご飯食べたら役割交代かしら?)


 ゴロウは背が高く筋肉質で、幼さの残る顔に短髪、寡黙で、最初に『威嚇』で声を上げて以来声を聴いていない。終始複数のコボルトに周囲を囲まれているにもかかわらず、中々巧みな盾裁きで、コボルトの爪の攻撃を往なしており防御は上手い。


 しかし大きめのブロードソードが、決定的に腕前に追い付いていない。振り自体は鋭いのだが、不器用なのか大振りだからかコボルトに躱されまくり全く当たっていないのだ。偶に掠りはするがその硬い毛皮に弾かれて傷がついていない。


 コボルトは金属を食べてその毛皮や爪を強化する、下手な鎧や武器よりもよほど強力な武装なのだ。

 ゴロウ達は素手のコボルトよりも武器を持ったゴブリンの方が強いと思い込んでいるが実際は逆だ。

 雑魚魔物として有名なゴブリン。

 その体格的に大差ないゴブリンと比べて、コボルトの方が上と判断されている原因がこれだ。

 ただの直立歩行の犬ではない、鉄の鎧と武器を纏った人型の魔物、闇雲に攻撃して易々と倒せるほど甘くない、ゴブリンの持つ粗末な武装よりもコボルトの毛皮と爪の方が余程強力だ。


 ゴロウ達が戦闘を始めて2時間程立つ。

 ゴロウはその間ほとんどコボルト4匹に囲まれているためか、汗だくだくで見ていて憐れな感じすら受ける。ゴブリンと比べて何方がより強いか、骨身にしみて理解したことだろう……

 『威嚇』も4匹受け持つのが背一杯なのであろう最初の一回だけしか使用していない。


 タクヤ背は低めで体格も少し細い、日本であれば最近のチョロイ今風男子でその体格でも普通なのだろうが、戦士として見た場合頼りない。

 甘い顔とうか我儘そうな顔で、首筋位に伸ばしたストレートのロン毛を気障にかき上げる癖がある。一目でメグミは、


(あ……こいつナルナルシストだ)


 そう感じた。

 そもそもなんで両手にロングソードを持っているのかわからない。二刀流に憧れがあるのか、ユニークスキルでも発生したのかわからないが、ほぼ使えているのは右手だけで、左手の剣は思い出したように時に振られたり、防御するときに思わず左手が自然に前に出る、その時に手に握っているから剣が前に出ているだけの状態である、左手の剣が飾りにしかなっていない。 


 本来ゴロウが引き付けている敵を的確に仕留めていく役割の筈だが、その攻撃力の無さから殆ど役に立っていない。

 大体自分に向かってくる2匹のコボルトなど無視して、ゴロウが引き付けているコボルトを背後から切り倒せば良いのだ。

 一発や二発攻撃を貰ってもその方が結局は倒すのが早い、最初、ゴロウが敵を引き付けた段階でそうしていればこの状況は無かった筈だ。

 だがタクヤは自分に向かってきたコボルトとの対戦を優先し、今の状況に陥っている。


(弱いだけなら未だしも、こいつ等チームワークはどうなってるの? まるでバラバラじゃない? 仲間じゃないの?)


 そしてこの男とにかく喧しい、ちょっとした傷でも『ヒール』を要求し、今もカスリ傷程度で周りに敵が複数いるにもかかわらず叫んでいる。

 

 そして最悪なのは最後のシンゴ、こいつは天然パーマ気味の癖毛で、その前髪を少し伸ばして目にかかる位にしており、メグミは、


(近接戦闘職なのに前見難くないの? 命がけで戦っているのに自分で不利になって如何するきなのかしら?)


そう最初から気になっていた。

 顔は平凡で目がちょっと垂れてるかな? って位であまり印象に残らない。

 しかし、先ほどからしきりに「クッ!!」とか「チッ!!」とかウザいことこの上ない。あの厨二病患者御用達の伝説の指ぬき手袋もしっかり装備しており、レザーアーマも黒、服も黒、ナイフも黒色、


(これはもう間違いなく厨二病に罹患りかんしているね!!)


 そうメグミは思っている。中肉中背ながら筋肉質で、中々締まった体をして居る為一見強そうなのだが、コボルトを相手する腰は完全に引けている。爪が恐いのだろうと思うが、ならばなぜリーチの短いナイフを使うのかわけがわからない。


(大口を叩いておいてこの根性の無さは何なの? 逆に凄いわね、二時間も戦ってコボルト一匹倒しただけとか……)


 一匹のコボルトしか相手にしていないのだ、そんな物サクサク倒してゴロウの援護をすべきだろう、にも拘らず、


「クッ、硬い、何て硬さだ、もしやこれが噂に聞くユニークかっ!!」


(ただの雑魚コボルトよ……)


 一匹のコボルト相手に死闘を演じていた、そう演じていると信じたい。その方が余程マシだ。 


 これらの状況をほんの数秒で3人は把握した。そのまま更に数秒観察を続けていると、シンゴがようやくコボルトを一匹仕留めた。

 胸に突き入れたナイフを抜きつつ、やっと倒したコボルト見やり「フッ!!」っと言ったかと思うと、どや顔をこちらに向けて、


「ノリコちゃん『回復』をお願いできるかな?」


そんな風にノリコに声を掛けてきた。


「ふーーーーーっ」


ノリコは先ほどよりも更に深いため息とともに、


「まだ敵がいるでしょうにっ」


 シンゴに聞こえないような小声で呟き、そのまま腰のハンマーに手を伸ばし立ち上がろうとしている。


(ふむ? ノリネエは我慢の限界ね、まあソロソロお昼だし、何時までも遊んではいられないわね)


刹那メグミは思案し、


「私が行くからノリネエ達は後片付けお願い、ゴロウ、ヤックーに鉄玉乗せるね」


ノリコ達に指示を出しつつ、一応ゴロウにヤックーを使うことの断りを入れて立ち上がった。


(ノリネエが行っても良いけど、この場だと私が行った方が早いわ)


 メグミは腰の後ろに装備している、やや大振りで肉厚の片刃のショートソード(メグミの鍛冶師見習い卒業試験作品)を右手で鞘からスラリと引き抜いた。刃の反りの美しいメグミ渾身の力作である。


(ほぼ鉈だよねこれ……)


 その手に持つ剣を見ながら思う。

 剣鉈と言う武器が有るがこれはそれとも違う、柄が長めで両手で扱うことも出来る大型のもの、頑丈さと実用性に特化したメグミの考案したオリジナルの武器だ。


 メグミの今の装備は、くすんだ生成りのオレンジ色のレザーアーマーを、ベージュのシャツとズボンの上に着込み、少し軽めのレザーの編み上げの靴で足元を固めている。

 

 メグミは改めて自分の事を省みる。


 背は女の子としては普通かちょっと小柄な155センチ位。


(ちょっと低めかな?) 


 体形も無駄な肉はついてないが鍛えているので細くはない。骨格的には華奢だが、か弱さからは縁遠い。


(むっちりが良い男の子もいるわよどこかに……いや男にモテても仕方ないか……)


 胸も普通だと思う。


(決して小さすぎはしないわ!! Cはあるもん!)


 顔も自分ではまあまあかな? と思う。


(周りが良すぎるのよ、そう他の2人が綺麗すぎるのよ!! まあその方が私は嬉しいけどね!)


 黒髪を肩で切りそろえ、前髪は邪魔なので左右の額の横にヘアピンでとめている。


(もう少し可愛いデザインのヘアピンが欲しいなーー、今度皆で買いに行こうかな♪)


「ん、そうね、その方が良いわね……任せるわね、メグミちゃん、手早くお願いね」

「ではお願いしますわね、メグミちゃん」


 メグミに任せる旨を伝えるノリコとサアヤに、左手親指を立てて了解の合図を送る。こちらを見て頷いたノリコ達は、早速床に転がる鉄玉を拾い始める。メグミはソックスに、


「はいちょっとごめんねぇ」


 手で押しのけるようにして脇に退いてもらいつつ、自分に魔法をかける。まだ効果時間はつと思うが念のため『身体強化』を掛け直し、『武器強化』をかけてショートソードが鈍い光を放つのを確認。そして小さく呟くように、


「慈悲深き大地母神よ、我に『守護の盾』を与えたまえ」


祈りを捧げ、自分に掛かる守護を感じつつ前に出る。

 シンゴが何をするつもりだ? と訝しげな目でこちらを見てるが、説明が面倒なので無視する。


(普通見ればわかるでしょ? 武器を構えて前に出るのよ、ならやることは一つよ!)


 そして叫ぶ、


「タクヤ下がって、あたしがやるっ!!」


タクヤが何事かと敵から目を離してこちらを見る。


(どんだけアホなのよこいつ)


 戦闘中に敵から目を離すその姿に呆れながら、前に駆け出す。

 メグミは、目を逸らしたタクヤに『チャンス』とばかりに襲い掛かろうとした2匹のコボルトに向かって、


「ハッッア! (威嚇)」


叫ぶ、その威嚇の効果で一瞬動きを止めたコボルトに向かって更に一歩踏み込み、


「チェストーー! (切り裂け)」


シュッ! 右側から横薙ぎの一閃を放つ。


 向かって右手のコボルトは抵抗も出来ずに首をはねられ胴体から噴水のように血を吹きだし、左手のコボルトも左肩から左胸にかけて大きく切り裂さかれ、その胸から血が噴きだす、どちらも致命傷だ。


 倒れ伏すコボルトの胸に食い組んだ刃を左足で胴体を蹴って抜いて、そのまま更に前に駆け出す。

 支路の入り口付近にいたゴロウに、


「あんたも下がりなさいゴロウ!」


叫ぶように声をかければ、ゴロウは後ろも見ないで左脇に逸れつつ下がる。


(おっ! こいつは他の2人よりは大分マシね)


少し感心しながら、目の前に迫ったコボルト4匹にに向かって、


「ハッッ! (威嚇)」


またも叫んでコボルトの動きを一瞬止める。

 ショートソードの長めに作った柄を、左手でもしっかり握り、向かって右のコボルトに、右側からフルスイングの横薙ぎの一閃、


「だぁっせいっ! (弾けろ)」

 

ブンッ! 右のコボルトは、左胸から右胸まで大きく切り裂かれ、後方に弾き飛ばさる。更にその横のコボルトは、左腕を切り裂かれ、左胸に深く刃が入り込むが、弾け飛んだ拍子に刃が抜け、更に3匹目、横のコボルトを巻き込んで横に吹っ飛んでいく。2匹目のコボルトは、そのまま地面に、ドサと倒れ動かなくなり、巻き込まれた3匹目のコボルトは、ドガンッ! 壁に叩きつけられ転んだ。更に前に一歩踏み込み、残った左端の4匹目コボルトには返す刀で、


「チェストッー! (切り裂け)」

 

シャッ! 右手だけで一閃し右胸から左肩まで切り裂さく。坑道内に降りしきる血の雨の中、壁に叩きつけら転んだ3匹目のコボルトが、何とか起き上がろうとしている。

 その最後の生き残りのコボルトに向かい、


「突きーー! (刺し貫け)」

 

ドスッ! 左手でも柄を握り、しっかりと握りしめ体ごと突進し、左胸に深々とショートソードを刺し入れる。

 コボルトは体を一度ビクッと痙攣させると、そのまま全身の力が抜けていく。

 全ての敵が沈黙したのを確認し、右足でコボルトの体を蹴って胸に深く刺さった刃を引き抜き、右手でもう一振り上から下に振りぬいて血汚れを払う。そして、


「ふぅー!  よっし終わった! ごっはん、ごっはん♪」


陽気な声を上げながら後ろ振り返る。

 後で撤収作業中のノリコ、サアヤから、


「おつかれさまー」

「こっちはもうちょっと待って下さい、まだ鉄玉を回収し終わってませんわ、あと魔結晶回収を……っとこれは男の子、お願いしますわね」


そう声がかかる。


(返事がないな?)


 そう思い男の子方をみると、3人とも並んで固まっていた。目を見開き、口が半開きだ。その表情を見てメグミは、


(益々アホっぽいな……せめて口は閉じようよ)


 盛大に浴びた返り血の不快感と合わせて不快に思いつつ眺める。そうしていると再起動したタクヤが口を開く、


「メグミってすっげー強くない?! マジ? ねえマジ?」


他の二人の男の子もタクヤの左右で首を縦に振りつつ同意を示してる。それを聞いたノリコは額に手を当て、深い……本当に深いため息を吐いた。


「ふぅーーーーーーーーーーーーっ」


 そして見事に3人娘の声がハモッた。


「「「あんたたちが弱すぎるのよっ!!!」」」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る