最終話
……
そこで、目が覚めた。
玲子は辺りを見回す。
さっきの囲炉裏端だ。
どうやら板張りの上で、眠ってしまったようだ。まだ、動悸がしている。ほっとため息をつき、額の汗を拭った。
いつの間にか、毛布がかけられている。老婆がかけてくれたのだろう。鍋やお皿、ビール瓶とかは、きれいに片付けられていた。
─あれ?崇がいない
向かい側に座っていた崇がおらず、毛布だけが置いてある。
一瞬、胸に黒い不安がよぎる。
「ああ、良い湯だった~」
すると、浴衣姿の崇が体から湯気を立てながら、座敷の奥から現れた。
「おっ!目を覚ましたみたいだね。いや、あまりよく寝ていたから、先に風呂に入ってたよ。
玲子も入ったら?」
崇はニコニコしながら、隣に座った。
玲子は温泉に浸かった後、庭の離れの和室に準備された布団で、崇と一緒に寝た。
朝、玲子は目を覚まし、何気なく隣に目をやった。
??……崇がいない。
半身を起こして辺りを見ると、縁側の障子が少し開いており、そこから陽光が部屋に差し込んでいる。
─庭にでも出てるのかな?
立ち上がり、縁側の方に歩く。
ヒンヤリとした空気が、顔をくすぐる。
そこにはやはり崇が立っており、
真剣な表情で庭をじっと、見ていた。
「どうしたの?」
隣に並び、横顔に尋ねると、彼は真剣な眼差しで庭の端の方を指差した。
広い庭のあちこちには柿の木が植わっており、石に囲まれた池とかもあったのだが、背丈くらいの垣根に沿って何故か、ずらりと大小様々な卒都婆(そつとば)が並んでいる。その前には、石造りの大きな供養塔が一つ置かれ、線香立てには線香が数本挿されており、細い白い煙が、雲一つない冬空に吸い込まれていた。
喰人伝説 ねこじろう @nekojiro
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