この俺に新しい生活を!
ななな
プロローグ
はぁ、憂鬱だ……今の俺には何も残ってない、親には暴力を振られ、1年付き合っていた彼女に突然フラれ、不幸の連続じゃないか……
高校三年生、
楽しい楽しい高校生活を送るつもりだったのだが、高校生一年で、いきなりのボッチ、陰口を叩かれる日々、先生に助けを求める勇気もなくそのまま時が過ぎるのかと思いきや、2年生になると春が訪れた。彼女が出来たのだ。その子に一目惚れし、告白したらまさかのOK、彼が最も信頼出来るパートナーが出来たのだ。関係は可もなく不可もなく、1ヶ月に1回デートをして、学校のお昼は毎日一緒に食べ、付かず離れずの付き合いだった。そのままなんも進展もなく、高校三年生になりその夏休み最後の日、突然の別れ話を告げられた。理由は不明。聞こうかと思ったが、言う勇気が出ず、そのまま、終わって行ってしまった。これが最初で最後の高校生活。
話は大いに変わり家ではと言うと幼い頃からそうなのだが、親から暴力暴言の毎日を繰り返されていた。俺の家族は父親(と言うよりか養父なのだが)とその父親の娘の3人。父親は娘を溺愛してとっても可愛がっていて、俺にはアルバイト漬けで貯めたお金を全て家に入れなければならず、しかも、そのお金は娘に全てつぎ込んでいる始末。当然勉強との両立なんて出来ず、高校を辞めてしまった。
まぁ、ちょうど良かったんだよ。これで陰口を言われることなく暮らせるんだから。そう考えると気が少し紛れたんだ。でも苦しい生活には変わりなく、仕舞いには過労死するんじゃないのかと思った程だった。
食事についてはアルバイトの賄いでなんとかいけていった。俺の事情を知っていて、唯一安心できる場所だった。待遇も良いし、職場のみんなはすごく優しい人たちでいっぱいだった。5件ほどハシゴをしていて、どの職場でも良くしてもらっている。給料だって本来より少し多めに貰っている。……不満はないけど、その生活に、もうウンザリして、生きている価値なんかもう無いんだと諦めかけていたんだ。それが憂鬱の原因。しかし、その生活が一変するある事が起きたんだ。
それはある朝の日、いつもの朝3時に起きて、新聞配達をする。外はもうすっかり冬で、風がものすごく寒く感じた。辺りはまだ暗く雪がちらついていている。手を擦りながら、白い息を漏らす。新聞をポストの中に入れ、次の所へバイクを走らせる。そうして、配達を終わらせて、家に帰る。その時にはもう明るくなっていて少し暖かくなる。朝ごはんの用意をし、2人分の食事を作る。自分のはと言うと、作ってしまうと、自分の分までお父さんが食べてしまうからだ。だからそんなにお腹が出まくってるんだけど。その姿を想像し苦笑しながら2人を待つ。あぁ忘れてた。郵便物がないか見に行かないと。急いで扉を開け、靴を履き、外へ出る。自分が早く出た時よりも大分暖かくなってるのがわかった。ポストを確認すると、新聞と一通の封筒があった。その封筒を手にした途端、心が暖かくなるのを感じた。なぜ暖かくなったのか、いまの俺には分からなかった。それは俺宛の封筒で、差出人は不明。『これは何かある!』そう思った氷河はその封筒を懐にしまい、新聞だけ持って言ったふうに装った。リビングに戻るとお父さんと義姉が座って食事をしていた。新聞を机に置き、手を洗っていると、後ろから声をかけられた。
「今日のご飯はあんまり美味しくないですわね、お父様」
義姉がテーブルマナーのなっていない食べ方でそう言った。
「あぁ全くだ。おい!氷河!こんな不味い飯食わしやがって!」
そう言いながらお義父さんはまだ食べ終わってないご飯やおかずをこっちに投げてきた。ガシャン、と皿の割れる音が響く
「おい、これを片付けておけよお前はそれくらいしか取り柄がないんだからな。」
ガッハッハッと笑い声がこだまする。
「まぁ、はしたないですわよお父様。それよりも、あなた、このご飯が捨てられるのはこっちとしては少々心苦しいので、食べてくださる?」
そう言って食べかけのものを差し出す。義姉はこんなことを言うけど、本当はすっごく弟思いなのだ。ここに来て半年くらいだった時、義姉の部屋の前で父親の前では素を出せずにいるし、正直ウンザリしている、と言っていたのが耳に入ったのだ。弟にはすっごく迷惑かけてるし、自分が助けてあげられないのが悔しい、せっかく家族になれたのに、こんなんじゃ楽しい生活も台無しじゃない、と涙を流しながら呟いていた。その思いだけでも十分嬉しかった。
「娘はなんて優しいんだ。おい!氷河、娘の優しさに感謝するんだな!」
と、モブみたいな台詞を唾を飛ばしながら、出ていくのを見計らって自分は壊れてしまった皿と、辺りにちらばった生ゴミを処理した。あんな豚みたいな顔をして、唾を飛ばすなんて、あの人はもうダメだな。ダイエットしても、無駄無駄。などと悪口を零しながらせっせと片付けてゆく。悪臭が立ち込めていたので、あの
『氷河のご飯美味しかったわ。あの父親がいなかったら、おかわりしてたくらいよ。機会があったら一緒にお食事にでも行きましょ。』
手紙の内容を見て、すごく嬉しく感じた。自分はまだ、必要とされてると実感できるからだ。少し涙をうかべ、拭いながら片付けを行う。水で洗うので指先がとても冷たい。かじかんだ指で皿洗いを終えるとすぐさま、自分の部屋に駆け出し、扉の鍵を閉めて、懐に入れた封筒を手に取る。その封筒をハサミで丁寧に切り取ると、不思議な匂いがする手紙が1枚出てきた。その匂いは嫌な匂い一切せず、寧ろ心が暖かくなる匂いだった。この感じ、封筒を手にした時と同じ感じだ。とそう二度も感じた氷河は首を傾げつつも、手紙の内容を確認した。
『初めまして、私の名前は
………俺の、妹?だと……?
妹という文字を見た瞬間色々な思考を頭の中で巡らせていた。自分には妹がいたという事実を受け止めきれないからだ。氷河はおそるおそる、続きを目にした。
『驚かれるのも無理ありません。ですが本当に貴方の妹なのです。あなたの好きな食べ物や、場所、女の人の特徴、ほくろの数、性癖、etc………こほん、つまりなんでも知っているのです!』
ゾワゾワと寒気がした。え、何この子、めちゃヤバくね?ちょっと怖いよ?などと軽口を叩きつつ、続きを読む。
『さてと、本題に移ろうかと思います。あなたは現在相当心が傷ついている。なので、貴方を、いえ、お兄様をこっちの世界にご招待しようと思ったのです!ここでは何不自由なく過ごせると思います。それに、お兄様と2人でイチャイチャでき……ごほんごほん、ではなく、嫌な環境から一転新しい人生が歩めます!』
それは願ってもな事だった。この全然楽しめない世界から、抜け出せることができるなんてすごくいいと思ったのだ。でも、義姉のことを考えると、少し罪悪感を覚えた。影からしか支えて貰えなかったけど、それでもすごく感謝してる。そう考えてると、突然紙が光出して、慌てて紙から手を離した。その最後の部分にはこう書かれてあった。
『最後にお兄様、これを全て読み終えると、自動的にこっちの世界に飛ばすように魔法をかけました♡まぁ読まなくても、手にした瞬間に発動するんですけどね。積もる話もあると思います。心残りもあるのかも知れません。ですが!私は早くお兄様に会いたいのです!お兄様♡こっちの世界で楽しみに待ってますよ♡〜愛しの瑠瑠より〜』
訳の分からないまま、氷河は呆然と立ち尽くし、その場から10秒くらい動かなかった。
気づいた時にはもう遅く、氷河は、異世界へと、妹がいる世界に転移させられたのだ。
「せめて、姉にお礼とお別れを言わせてから、行かせろよ!」と独り言を呟く氷河だった。
この俺に新しい生活を! ななな @na7
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