第4話 お嬢様は前をお願いします

 それにしても妙なことになってきたぞ。女の子たちとの混浴は男の至上のロマンではあるが、その中に姫殿下がいるというのが問題だ。あの姫殿下が自分だけ混浴を辞退するとは到底思えない。いや、むしろ率先して男湯に乗り込んできそうな気がする。その上さっきの視線、あれはどう見ても俺、というより男の体を見たくて仕方がないという気迫を感じるものだった。


 さらに輪をかけて問題なのがユキさんである。普段は意外なところで恥じらいを見せる彼女が、アカネさんに触発されてかこの旅では妙に積極的なのだ。二人きりならたとえ混浴しても浴槽の隅に逃げていくところなのだろうが、興味と欲望に忠実な姫殿下とアカネさんに引っ張られて考えられない行動に出ることも充分に予想出来る。


 そして一番の心配はこの俺だ。大中小とバランスよく揃えられた膨らみと二人は未来の妻であるという事実。加えて今朝方思わず心地よさを実感してしまった姫殿下の感触。この三人に裸で迫られてしまっては、我慢出来る自信が全くないのである。逆にもしタオルや何かで体を隠していたとしたら、それをはぎ取る自信の方があふれているくらいだ。


「ヒコザよ、何を考えておる?」

「先輩、目がいやらしいです」

「ご主人さま、お背中お流ししますね」

「アカネさん、それは私の役目です!」

「いいえ、お嬢様は前をお願いします」

「ま……前……」


 思わぬアカネさんの一言にとうとうユキさんが恥じらいを取り戻したようで、茹でタコのように真っ赤になってしまった。それでも拒否するつもりはないらしい。だがそんなことをされたら俺の方が大暴走してしまうことは目に見えている。やはり混浴は諦めてもらう方がよさそうだ。ところがまたもや姫殿下がとんでもないことを言い出した。


「ならばヒコザはわらわを洗え。優しくじゃぞ」

「ひ、姫殿下?」


 姫殿下の赤くなった顔は初めて見たよ。恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。いつも人を食ったような物言いの彼女でも、さすがに自分の体を洗われるのには恥じらいを感じるようである。ただそのせいで最後の一言が加えられたとしたなら大問題だ。


「これは命令じゃ」


 どうしよう、命令と言われては逆らうわけにはいかない。でもきっとあれだ、また冗談じゃの一言が発せられるはずたよ。じゃないと困りますから姫殿下、早くあの魔法の言葉をお願いします!


 ところがついぞその言葉を聞くことはなく、俺の未来にオオクボ陛下に手討てうちにされる、そんな可能性に加わってしまった。




 昼食はコスゲ村の特産品でもあるキノコ類をふんだんに使った料理が振る舞われた。これが実に美味うまく、姫殿下を始めとする俺たち四人は大満足だった。


 しかしこの後はそう、温泉に入るという一大イベントが控えているのだ。何とか俺だけ温泉に行かないという選択肢を模索したのだが、食後にしっかりと三人から釘を刺されてしまった。もっとも俺だって男なのだから女の子の、それもユキさんやアカネさんの裸に興味がないわけではない。姫殿下の裸には興味があると言うと色々と問題になりそうなので控えておくことにするが、少なくとも俺に少女趣味がないことだけは重ねて言っておきたいところだ。


「では参るかの」


 食事を終えて少ししたところで、姫殿下から号令がかかった。やっぱりどう足掻あがいても逃げられる雰囲気ではなさそうだ。それならもう、なるようになるしかないだろう。たとえそこで一線を越えることになろうとも、決して後悔だけはしないことだ。ユキさん、アカネさんという順番さえ間違えなければ、二人は俺の未来の妻なのだから問題はないはずである。


 姫殿下の破瓜はかに関しては辞退するしかないと思うが、それだって成り行きに任せようと思う。姫殿下が望み二人の妻が認めたなら、俺が大任を果たす時だということだ。


「ヒコザよ、先に行って待っておれ。逃げるでないぞ」

「ご主人さま、絶対に待っていて下さいね」

「ヒコザ先輩、待ってなかったらもう口利いてあげませんからね!」

「分かりました。私も男です。女性に恥をかかせるような真似は致しません」


 不思議なもので、そう覚悟を決めると意外なほど俺は冷静になっていた。そして、目眩めくるめく至福の時はやってくるのである。

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