第3話 魔法刀と言うのはですね

 そんなことがあった数日後、二人の使いがうちを訪れた。民族衣装のようなもの、つまり正装をしていたので応対に出た母ちゃんは何のことかと驚いたようだ。


「こちらはサー・ヒコザのお屋敷で間違いございませんか?」

「サー・ヒコザ? うちのバカ息子のことかい?」

「ば……バカ……こほん、間違いはないということでよろしいでしょうか」

「ああ、ヒコザはうちの息子だけど……あの子また何かやらかしたのかい? まったく、どうしようもないバカだよ、あの子は! で、一体何したってんだい、うちのバカは?」


 あまりにバカバカ言うもんだから使いの人は慌ててしまっていたようだ。


「まあいいや、ちょっと待っとくれ。ヒコザ! ヒコザ、出てきな!」

「何だよ母ちゃん、騒々しいなあ」

「アンタ何やらかしたんだい!」

「い、痛えって」


 俺が呼ばれて出て行くと、例の如く母ちゃんに首根っこを掴まれてしまった。


「ご、ご母堂ぼどう様、乱暴は……」

「あ? ゴボウがどうしたって?」

「いえ、ゴボウではなく……私たちは陛下の使いで参りました」

「ヘイカ? そんな家この村にあったかね」

「かあちゃん、陛下だよ陛下! 国王陛下のことだよ!」

「コクオウヘイカ? はて……」


 俺の首は何とか自由を取り戻したが、母ちゃんにはまだ意味が伝わっていないようだ。この時まで俺は叙勲じょくんされたことを黙っていたので、平民のコムロ家と国王陛下が結びつかなかったのは致し方ないだろう。それにしても母ちゃん、勘が悪すぎだって。


「母ちゃん、この人たちは国王……オオクボ・タダスケ国王陛下の使いで来られた人たちだって!」

「オオク……国王陛下……? あ、あの国王様のお使いだって!?」

「だからそう言って……」

「ひ、ひぃっ! このバカ息子! 何でそれを先に言わないのさ! も、申し訳ございません! うちのバカが何をしたかは存じませんが、どうか命だけは、命だけは!」

「言ったよ、母ちゃん……」

「ほら、アンタも何やってんだい! とにかく謝りな! 父ちゃん、ちょっと父ちゃんってば!」


 人の話をまったく聞こうとしない母ちゃんの大騒ぎはしばらく続いたが、真っ先に俺の命乞いをしてくれたことに関しては愛情を感じたよ。ただ恥ずかしいからあんまり俺のことをバカだバカだと言うのだけはよしてくれ。




「そんなことがあってね」

「お母様らしいですね。光景が目に浮かびます」


 学校での昼休み、いつものごとくユキさんと校舎の裏で昼食をっていた俺は昨日の出来事を話していた。ユキさんは以前うちに来た時のことを思い出したのかクスクスと笑っている。


「それで、陛下のお使いの方のご用件は何だったのですか?」

「ああ、それなんだけど……」


 使いの二人は騎士となった俺に、陛下からの贈り物として一振りの刀を持参したのだった。つかの部分には王家の紋章が刻み込まれたかなり高価そうな刀だったが、俺はそれを持てあましていたのである。いくら帯刀たいとうを許されているからと言って、そんなたいそうな物をおいそれと持ち歩くことなど出来るわけがない。


「まあ! 陛下から刀を戴いたのですか?」

「うん、だけど不思議なんだよね。さやに収まってる時はずっしり重いのに、抜くとほとんど重さがないんだよ。鞘の方が重いってことなのかな」

「もしかして先輩、刀身に先輩の名前が浮かび上がってませんでしたか?」

「あ、うん、そう、よく分かったね」

「先輩、それきっと魔法刀ですよ」

「魔法刀?」

「その刀、多分先輩以外の人は持ち上げるのも大変だと思います。魔法刀と言うのはですね」

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