(短編)雨の神と村娘

こうえつ

雨の神と村娘

雨が降らなくなって三カ月以上。村では水不足が深刻だった。

困る村人達を見かねた村長が決断した。

自分の娘を生贄にすることを。


雨の神への生贄はけがれない処女だと決まっていた。

村長の娘は十四歳、まだ男を知らない純粋無垢。


「娘や村を救っておくれ。私は酷なことを言っていると思うか?」

 娘は父親である村長に答えた。

「いいえ、お父様。私で役に立つなら。この身は惜しみません」

 その言葉に目が潤んだ村長に、最後の挨拶する娘。

「今まで大事に育ててくれてありがとうございました。行ってまいります」


村を出た娘は連なる田んぼ抜け、深い山へと入っていく。

そして、雨の神の祠にたどり着いた。

両手を合わせて祈る娘。


「雨の神様。どうか村をおすくいください。雨を降らしてください」

 その声に答える者あり。

「娘よ。己をささげる覚悟があるなら入ってこい」

 祠の奥からの声に従って扉を開け中に入る娘。

 薄暗い部屋の奥には雨の神が鎮座していた。

「ふむ。美しいの。もっと傍に来るがいい」

 雨の神の言葉に従い傍へと近づく娘。

「なるほど、汚れを知らない少女のようだな。それでは……うん?」

 娘は雨の神、巨大なカエルを両手で掴み、祠の外へと走り出す。

「娘よ。何をする気じゃ」

 雨の神の疑問には答えず、気合を入れた娘。

「えい!」

 高い崖から雨の神を投げ落とした。

「な、なにをする~~」

 雨の神の驚いた声は直ぐに聞こえなくなり、かすかに水面を叩く音が聞こえた。

「ごめん! わたしカエルだけはダメなの!」

 その場から走り去る娘。


次の日、雨が降る始めた。すべての生物が歓喜に包まれた。

ただ、一つ小さな村が洪水で流されたのは些細な事だと思うことにしよう。


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