第8話 食べ物に恵まれる

以前、ギブアンドギブ、とかいっておきながらですが、なぜかわたしは食べ物をひとから恵まれる星に生まれてきたようです。



先日のバレンタインデーの日には、玄関のドアノブにご近所のおばさまからご丁寧なメッセージとともに、季節のご挨拶という名のチョコと地元のお土産品であるめんべいが吊るされてあったり。

昨日は、同僚のオバちゃんから、誕生日プレゼントとかこつけて、マネケンのワッフルセットをいただいたり。




今日も挨拶回りにいった知り合いのおばあさま、もとい奥さまから、「夕飯が余ったから食べて行きなさい」と、おうちにあげていただいた。

普段のわたしは22時以降に夕ご飯を調理しはじめるのだが、今は19時。お腹はそれほど減っていなかったのだが、せっかくのお誘いだったので、お言葉に甘えることにした。


食卓につくと「ビールも飲むだろ?」と旦那さまが気を利かせてくださいまして、あまりお酒に縁がないわたしに晩酌がついた。

向こうは明日が休養日だそうで、すでに空き缶が三本ほどシステムキッチンに並んでいたのだが、わたしに付き合うようなかたちで、旦那さまのグラスにもビールが足された。

壁には、うちには無い大型のテレビがあり、国営放送の歌番組が流れていた。


「余り物でごめんね」

そういって食卓に出されたのは天麩羅だった。

天麩羅なんて、家庭で出るなんて、いつぶりだろうと感動したのだが、天麩羅の具材も素敵すぎた。


ナス、しいたけ、レンコン、ピーマン、ニンジン、さつまいも。


素朴でありながら、上品すぎませんか?


それらと並んで、お皿の上にはもうひとつ、白くて四角いものも。口に入れてみるとどうやら芋類のようだが、舌触りと歯ざわりから少し粘り気を感じた。シャリシャリと音を立てて、かたちが崩れていった。

不思議そうにたべていると、奥さまがそれに気づいたようだ。


「それはね、山芋。」

「へえ、はじめてたべましたけど、おいしいですね。」




野菜づくしの天麩羅。本当はエビもあったそうだが、タンパク質は一目散にみんなのお腹に入っていったらしい。


わたしが一生懸命咀嚼している間、みんなはテレビに釘付けだった。

いや、会話の流れがつくれないのかもしれない。それは、客のわたしがいるからではなくて。もとからこの家庭は。

かといって、気まずいとかそういうわけでもない。家庭って、そんなものなのかもしれないな、なんておもった。


糖質ダイエット中、といいながら、ご飯もおかわりしてしまったわたし。米も実質野菜だから、太らないよね。



歌番組の終了と同時に、わたしの皿も空っぽになった。

旦那さまは奥へ帰っていったので、せめてと思い、奥さまの洗った食器の乾拭きをさせていただいた。




帰り際、天麩羅のお礼をいったら、「残れば明日のお昼のノルマになるから食べてくれた方がありがたかったのよ」とのこと。

そっか、この世界はうまいことできてるのかもしれないな。






いや、やっぱりちがうかもな。

食べ物に恵まれているんじゃなくて、おばさん人気が強いんだな、わたし。

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