第3話 もうギブ

よく、知らない人から声をかけられる。駅のベンチで電車を待っていたら、隣で編み物をしていたおばさんに声をかけられる。イヤホンを取って耳を傾けると、針に糸を通して欲しいとのこと。


あるいは、電車の中で赤ちゃんや子供たちからものすごく見つめられる。その瞳の中にわたしが映る。わたしもじっと見つめるから、ますます向こうも目をそらすことができないようだ。バイバーイと手を振ると、向こうも手を振ってくれる。


最寄りの駅員さんが毎日挨拶してくれる。それに合わせて、わたしもおはようございますと返す。彼の顔を見ると、今日1日が楽しく始まる気がするから自然と笑顔になる。


たとえば、こんなコミュニケーション。



この世界は鏡でできている。

自分のした行いは、大抵自分に返ってきている、気がする。その逆も然り。


声かける側の人間は、人から声をかけられる。

興味を持っているものからは、自分に興味を持ってもらえる。

笑顔でいると笑顔で返ってくる。

きっとこの世界は鏡でできているのだ。



一方で、わたしは初見さんからは、よく笑っているそうに見えるようだ。

常に微笑んでいるせいで、胡散臭い、得体の知れない人、不思議ちゃん、とうとう思われているらしい。

そういえば、実の母からも、あんたは感情が読み取れない、って言われているな。

わたしが腹を立てている時も、外見からはわかりにくいようで、わたしの怒りは人から過小評価されているようだ。

わたし、めっちゃ、キレてるんですけれど!


そして、よく言われるのが、「オーラが違う」とか、「浮世離れしている」とか、「社会に適応できない」とか。

わたしの普通は、普通じゃないらしいのです。

うーん。

たしかに生きづらいかも?


みんなはわたしを頼るのに、わたしが頼ることは断られるし、

仲間には入れてくれないから、自分でつくるとみんな集まって来るし、

なんだこれ?

マジなんだこれ?


さらに下手をすれば。

普通とちがうことは、人によっては気味が悪いようで、極端に拒絶されることがある。

徹底的に拒絶され、排除される。



鏡じゃないじゃん!

さっきと言ってること違うじゃん!

不均衡じゃん!

わたしだけ、ギブアンドギブじゃん!

もう、ギブギブ!



もしかすると。

わたしの鏡が歪んでいるのかも知れない。

まっすぐ見えていたものは、現実世界で曲がっているのかも知れない。


あるいは、マジックミラー。

わたしはわたしを乱反射させ、相手から何かを吸収するマジックミラー。

膨張する内宇宙。


すみません、言ってみただけです。





そういうこともあって、人に合わせるのは金輪際やめようと最近おもいました。

わたしは透明で、朱に交われば赤くなるを徹底できると思っていたのですが、耐えられなくなってしまいました。


そう。

個性大爆発です。


自爆の痛みと引き換えに、みなさんにガラスの破片グサグサ刺していこうとおもいました。

黙って消えてしまうくらいなら、心揺さぶるなにかになりたい。


バグった感情はそのままに。

楽しい時はわらって、怒っている時はキレてることがわかるように。


生身ではわたしの非言語コミュニケーションにオーラバイアスがかかるのですが、ことばだとバイアスなしなのでちゃんと伝わるようにおもいます。

わたしの怒りは、文面が一番伝わりやすいということも、気づきましたね。

あるいは、未読スルー。

黙るのもコミュニケーションのひとつ、なんて。



わたしがわたしでいることは、返ってわたしは幸せなことなのかも知れない。

言い知れぬ悪意からは、自然と遠ざかっている気がする。基本的に味方のいない世界で私が戦っていくには、なにかから逃げながら、誰も見たことのない場所にたどり着き、そこで安定した家を建てるしかないのだ。



これからも、ギブアンドギブで、もうギブってところまで生きていこう、なんてね。

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