第3話 もうギブ
よく、知らない人から声をかけられる。駅のベンチで電車を待っていたら、隣で編み物をしていたおばさんに声をかけられる。イヤホンを取って耳を傾けると、針に糸を通して欲しいとのこと。
あるいは、電車の中で赤ちゃんや子供たちからものすごく見つめられる。その瞳の中にわたしが映る。わたしもじっと見つめるから、ますます向こうも目をそらすことができないようだ。バイバーイと手を振ると、向こうも手を振ってくれる。
最寄りの駅員さんが毎日挨拶してくれる。それに合わせて、わたしもおはようございますと返す。彼の顔を見ると、今日1日が楽しく始まる気がするから自然と笑顔になる。
たとえば、こんなコミュニケーション。
この世界は鏡でできている。
自分のした行いは、大抵自分に返ってきている、気がする。その逆も然り。
声かける側の人間は、人から声をかけられる。
興味を持っているものからは、自分に興味を持ってもらえる。
笑顔でいると笑顔で返ってくる。
きっとこの世界は鏡でできているのだ。
*
一方で、わたしは初見さんからは、よく笑っているそうに見えるようだ。
常に微笑んでいるせいで、胡散臭い、得体の知れない人、不思議ちゃん、とうとう思われているらしい。
そういえば、実の母からも、あんたは感情が読み取れない、って言われているな。
わたしが腹を立てている時も、外見からはわかりにくいようで、わたしの怒りは人から過小評価されているようだ。
わたし、めっちゃ、キレてるんですけれど!
そして、よく言われるのが、「オーラが違う」とか、「浮世離れしている」とか、「社会に適応できない」とか。
わたしの普通は、普通じゃないらしいのです。
うーん。
たしかに生きづらいかも?
みんなはわたしを頼るのに、わたしが頼ることは断られるし、
仲間には入れてくれないから、自分でつくるとみんな集まって来るし、
なんだこれ?
マジなんだこれ?
さらに下手をすれば。
普通とちがうことは、人によっては気味が悪いようで、極端に拒絶されることがある。
徹底的に拒絶され、排除される。
鏡じゃないじゃん!
さっきと言ってること違うじゃん!
不均衡じゃん!
わたしだけ、ギブアンドギブじゃん!
もう、ギブギブ!
もしかすると。
わたしの鏡が歪んでいるのかも知れない。
まっすぐ見えていたものは、現実世界で曲がっているのかも知れない。
あるいは、マジックミラー。
わたしはわたしを乱反射させ、相手から何かを吸収するマジックミラー。
膨張する内宇宙。
すみません、言ってみただけです。
*
そういうこともあって、人に合わせるのは金輪際やめようと最近おもいました。
わたしは透明で、朱に交われば赤くなるを徹底できると思っていたのですが、耐えられなくなってしまいました。
そう。
個性大爆発です。
自爆の痛みと引き換えに、みなさんにガラスの破片グサグサ刺していこうとおもいました。
黙って消えてしまうくらいなら、心揺さぶるなにかになりたい。
バグった感情はそのままに。
楽しい時はわらって、怒っている時はキレてることがわかるように。
生身ではわたしの非言語コミュニケーションにオーラバイアスがかかるのですが、ことばだとバイアスなしなのでちゃんと伝わるようにおもいます。
わたしの怒りは、文面が一番伝わりやすいということも、気づきましたね。
あるいは、未読スルー。
黙るのもコミュニケーションのひとつ、なんて。
わたしがわたしでいることは、返ってわたしは幸せなことなのかも知れない。
言い知れぬ悪意からは、自然と遠ざかっている気がする。基本的に味方のいない世界で私が戦っていくには、なにかから逃げながら、誰も見たことのない場所にたどり着き、そこで安定した家を建てるしかないのだ。
これからも、ギブアンドギブで、もうギブってところまで生きていこう、なんてね。
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