第2話 人の幸せをたべるいきもの
先日、後輩とその旦那くんとご飯を食べる機会がありました。
大抵、私か後輩が意気消沈しそうになると決まって、
「どちらかがご飯食べに行きましょう!」
と突然申告し、その日、少なくとも近日中には食事会が開かれます。所属は同じものの、わたしが他県へ出向しているので、なかなか会えないのですが、そこはお互いに仕事の都合をつけて、会の開催に向けてなんとかしています。
今日は後輩の希望で、お昼は中華、夜はパスタ屋さんでした。お昼の時は後輩と二人きりですが、夜予定が空いていると、旦那くんも合流してどこかへ食べに行きます。
今日も例に漏れず、仕事帰りの旦那くんと対面です。わたしは後部座席に乗り換え、助手席と運転席のやりとりを静観するところからわたしの幸せ時間ははじまります。
後輩と旦那くんは最近結婚されました。
彼女らの結婚式の二次会に誘われたんですが、いざ会場に着いてみると、新郎新婦の真ん前、特等席を用意してもらっていました。丁寧に準備されたテーブルの上にはわたしのネームカードが置いてあり、裏には後輩からの手書きのメッセージが。
「密かに兄として慕っています」
わたしはこの言葉で、嬉しくて卒倒しそうになりました。
新郎新婦入場の際の写真を後でいただいたのですが、誰よりも笑って、かつ二人に向けて手を合わせていたのが、わたしでした。
いや、本当に幸せそうなのだ。新郎新婦だけでなく、わたしが。
結婚式前後もそうだったんですが、本当によく旦那くんとご飯を食べに行きます。旦那くん曰く、月一くらいでわたしとご飯食べにいってるし、なんなら旧友とかよりもよく会っている、とのこと。後輩曰く、人見知りの旦那くんが初見からお話ができている人間は珍しいとのこと。なんか、そう言ってもらえるのはうれしいな。
私の悪い癖で、誰に対しても相手を苗字で呼んでしまうので、意識していないと結婚されても後輩のことは旧姓で呼んでしまいます。かといって、名前で呼んだら旦那くん嫌じゃないかな、ともちょっと気にしているんですが、そこは旦那くん、物腰柔らかな方なのでそんなことは気にも止めません。大抵のことは受け入れてしまう人です。
わたしが言った、わけのわからない理屈も、わたしの下手くそな音楽も、平気で受け止めてくれるのです。わたしも彼みたいになりたいな。
絶対、後輩は幸せです。こんな旦那くんがいて幸せじゃないとかいったら、わたしがしばきます。不出来な妹でごめんなさいと、旦那くんにお詫びします。旦那くん、どうぞこれからも妹をよろしくしてやってくださいね。
道中の車の中でも、パスタ屋さんでも、二人は二人の世界をつくっていました。
今日の出来事をはなすにしても、メニューを決めるにしても、その所作や一言から、お互いを思いやっているのがこぼれているのです。彼かは幸せの湧き出し口かというくらいあふれているのです。世界には、こんなに幸せな風景があるんだなってくらい、そこは穢れがなく素敵なのです。
それを見て、わたしはただただ、うれしくなります。もちろん羨ましいのですが、嫉妬とはまた違う感情が湧いてくるのです。わたしの感情がバグっているのかな。
こんな風に、基本的にわたしは人の幸せ話やノロケ話を聞きたがる人間です。わたしの心境がいいとですが。
理由はよくわかりませんが、わたしが想像もつかないような、幸せになるエピソードをみんなから抽出して、脳内処理後、疑似体験しようとしているのかもしれません。人の幸せを知って、幸せの引き出しを増やそうとしているのかもしれません。
うーん。
人が幸せだとわたしもうれしい。この理屈が自分でも本当によくわかりません。
でも、人がキレているのを見るよりは、数倍心穏やかになれます。そうですよね?
下手すると、幸せそうな彼らを見て、湧き出している幸せを少しでもドレインしようと、まるで寺院とかのありがたい煙をいただくように、自分の方へ風を仰いだりします。
そして、よく怒られます。
幸せを吸うなと。
いいじゃん、減るもんじゃないんだし。
といっても、彼らにとっては減っていってる気がするようです。あははは。
わたしはきっと、幸せをたべるいきものなんです。
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