第4話 泰平の眠り

~泰平の眠りを覚ます 上嬉撰(蒸気船) たった四杯で 夜も眠れず~


狂歌というらしいのですが、確か、歴史の教科書に載っていたよなぁと、思い出しました。


思い出した時期は、少し前まで過ごした、思い出したくもない、子どもが眠らない、暗黒の夜泣き時代。


毎日とにかく眠くて、キリやカスミが、かかりっぱなしの頭が、どうトチ狂ったのか、突然思い出しました。


突然、話は変わりますが、


私の、ささやかな夢は、朝まで誰にも起こされず、手足を伸ばして眠ることです。


毎晩、静かで、障害物もなく、果てしなく続く布団の上で、大の字になって転がる自分を想像しながら、眠りにつくのが、秘かな喜びです。


この妄想をすると、眠れないと思うときも、どういう訳か、すぐに眠れます。


現在、私は、布団を3枚敷いて、8才・6才・4才の子供と共に、4人で寝ています。


人数と布団の枚数が合わないのは、我が家の経済事情で、布団が買えないからではありません。


あくまでも、我が家の住宅事情で、布団が、これ以上敷けないからです。


その寝室で、


8才児が、その手足を、6才・4才児の小さな身体に乗せるのを、私は毎晩、幾度となく阻止しています。


毎晩、その生命を救助してあげているにもかかわらず、


6才児は、己の身体を90度回転させ、私の脇腹に頭をくっつけ、寝返りを打ちながら、そのまま前進し、私の寝る場所を確実に奪っていきます。


4才児にいたっては、私の腹部に覆いかぶさり、どけても、どけても、覆いかぶさることをやめません。


”明けない夜は ない” と、自分に言い聞かせながら過ごした、暗黒の夜泣き時代が終わり、


すぐそこまで来ているはずの、私の 「泰平の眠り」 は、いったい、いつ来るのでしょうか。


・・・と、悲劇のヒロインぶってみましたが、私の子供のときの、寝相・寝ぼけっぷりは、この遥か上をいく、酷いものでした。


毎晩、隣りに寝ていた母を、殴る・蹴るに加え、母の身体の上を縦断・横断は、当たり前。


寝室の壁に、ブツブツ言いながら指で、文字を書く。


寝ている母の肩をたたいて呼び、ヘラヘラ笑い続けたり、人生相談をしたり 。


縦断・横断は、幼稚園時代で終わりましたが、その他は、小学校卒業まで続いたそうです。


毎晩、突如として身にふりかかる、


バイオレンスと、ホラーと、人生相談。


いつの時代も、母親の「泰平の眠り」 を覚ますのは、上嬉撰(蒸気船)四杯どころか、小さな子供1人で十分です。


いつか来るであろう 「泰平の眠り」 まで、今夜も縮こまって、大の字で眠る妄想をすることにします。


でも「泰平の眠り」が、いざ、やって来たとき、泰平の眠りを渇望していた頃を、愛おしく思い出すのでしょうか。


それにしても、この狂歌、何故、学生時代の試験中に思い出さなかったのか。


大の字で、たっぷり寝ていたから??

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