第3話 巡査になりました-Ⅱ

「熊宮先輩」


正義感溢れる、蒼天を基調とした制服。きっちりとしたブレザーにネクタイ、膝までのタイトスカート。脚線美が光に照らされる。


また、濡烏ぬれがらすの長髪を一本に束ね、その色が日本人の美しさを体現しているようだ。例えるなら大和撫子になるだろう。

そして、その青みがかった黒髪に帽子を被せる。


「準備してきました!」

琴姫は溌剌に言う。

「おう。勤務時間まで数分あるから、簡単に自己紹介しておくか」

少し砕けた喋り方をする青年はそう言うと紹介し始めた。


「俺の名前は熊宮くまみや雅刀まさとだ。琴姫巡査の三年先輩に当たるな。まあ、先輩とは言ってもたった三年だし、未だ巡査部長だから特に権限あるわけじゃないし対等な関係でよろしくな」


「はい、よろしくお願いします!」


「威勢が良いな。えーと早速だが、ここがどんな場所か理解しているか?」

熊宮の質問に対して、琴姫は直ぐに返す。

「交番です」

「そう、俺たちは地域課の庶民係なわけだからな。じゃあここは何をするか分かっているか?」


そんなことは警察学校で既に教えられ知っていることだ。だから琴姫は不思議な質問をするなあ、と思いつつ答える。


「周辺のパトロールですよね?」

「要するに雑用みたいなもんだな」

「そんなことは…………」


仕事をする前にそんな事を聞きたくはなかったので、先輩であるが一言物申したいと琴姫は思った。しかし、熊宮は続けるので若干反応しづらそうにしつつ話を聞くことにした。


「イメージダウンさせたいがために言ったわけじゃなくてだな……。でもまあ雑用ってのは三分の二本当だが――――」

「それはほとんどではないですか⁉︎」

つい思っていたことが飛び出してしまった。ついでに身を乗り出していた。

「お、落ち着けって琴姫巡査」

琴姫は人一倍警察に憧憬しょうけいの念を抱いているのだ。雑用などのマイナス要素には少々敏感なのである。


しかしここは大人の世界なので、目上の人に急に声を上げてしまったことを詫びる。

「あ、すみませんでした」

納得はいかないが反省することにした。


「えーと、言葉足らずだったな。まあ琴姫巡査は他とは違うが、悪い反応じゃない。むしろ、雑用だと思ってない方が仕事熱心で良いと思うぞ」

しかし、先ほどと言っていることが矛盾してはいないかと琴姫は思った。


「周囲のイメージとしては雑用なんだろうな。実際、この地域総務課から出世していくやつは珍しいからな」


だけどな、と言葉を紡ぐ。


「俺は妥協じゃなくこの課を選んだんだ。魅力がなかったら、そもそもここにはいなかっただろう。琴姫巡査もそうなんじゃないか?」


「そうです」

少しの沈黙の後、熊宮は口を開いて言った。


「つまり、この仕事に対してやる気があるかどうか試してみたかっただけだ」

そして、いたずらっぽく笑ってみせた。


――――い、いじわるです……

琴姫は不服そうに、少しだけ目を横に逸らした。

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