第12話 二人の魔法少女
「魔法少女...?まさか?!あなたも魔道書を狙ってるということですか?!という事は、この人の仲間ですか?!」
既に意識を失っているトーマを指さしながら、金髪の少女は叫ぶ。
「魔道書?何の事?私はただ本を探しに来ただけだよ?そしたら入口が塞がれてるんだもん。全く、誰がこんな事をしたの?君?」
魔法少女を名乗るもう一人女子、瞳はキョトンとした顔で少女に近付く。その物怖じしない様子に少女は畏れを抱き始めていた。
「あれ?そこに寝てるのって...」
ついには、少女の拳が届く間合いまで歩み寄っていた。 ここしかない、そう思った少女は拳を固く握り飛び掛ろうとする。しかし
「私戦うつもりとかないよ?だから大人しくしてて。ね?」
にこりと笑うその笑みに本能からか、少女は拳をそっと下ろした。
「あなたは一体何なんですか?さっき魔法を使ってましたよね?なのに、魔道書を知らない...。それに、あなたの持ってるそれ!魔術書ですよね?!何でそんな魔道具を持ってるんですか?!」
「ああ、これ?これね、一年くらい前に変な人からもらったの。いいでしょ!これ凄いんだよ!この本に書かれてる呪文を読むと魔法が使えるの!だから私は魔法少女なのだ!」
そう言うと瞳はしたり顔で少女を見た。傍から見たら、瞳の方が少女より言動が幼い様にも思える。
そんな少し大人びた様にも見える少女は瞳の方をまじまじと見る始めた。一方の瞳はそんな事は気にも止めない様子で背負っていたリュックに本をしまっている。そして、
「やっぱり!モーリヤの証を付けてない!と言うことは...。この人も!!何で?何で証を付けてないの??魔道書を狙ってるんでしょ?でも、私に証を返そうとしただけだって言ってたし...。もう何なの?!!」
「一旦落ち着いたら...?」
リュックを背負い直しながら、普段落ち着きのない瞳が年下の女の子をなだめている。流石は年上と言ったところだ。
「だって、魔法は”こっち”の世界には無いはずじゃないですか?!なのに、あなたは魔術書を使った。でも、モーリヤの証を着けてない!”こっち”に来た魔法使いはモーリヤに仕える者だけのはずなのに、何で!?」
「そう言えば、あの人も”あっち”とか”こっち”とか言ってたな...。でもあんま良く覚えてないや。」
瞳は少女と同じ目線になる様に身を屈めるとこう言った。
「あのね、私はその”あっち”から来た魔法使いとかじゃないの。ついでに言うとそこの人も同じ。二人とも”こっち”の世界の人間なの。」
「じゃあ...、じゃあ私...勘違いでこの人を殺しちゃったの...?」
少女は今にも泣きそうだ。これまでに何人もの人を殺したかも分からない少女が一人の、しかも一般人を殺してしまったかもしれない事に酷く後悔している。
「大丈夫。この人は生きてるから。ただ、まずい状況だけどね。」
瞳は立ち上がると背負っていたリュックからスマホを取り出し、突然電話を掛けだした。勿論、館内の携帯電話並びに、スマホでの通話は禁止されている。
「あ!もしもし!私だけど。ちょっとあの子がやばい状況だから、今すぐここまで来てくれる?何処って、学校の図書館。うん。はーい!了解!あっ、そうそう!二階だからね!」
少女は事態が掴めない。まず第一に、この女性は誰なのか。ただ魔道書を狙っていないなら敵でない事は確かなのだが、正体が分からない目の前の女の人に疑問を抱くしかなかった。
瞳はスマホをリュックにしまうと、部屋の壁際、ガラス窓のある方に歩き出すと突然窓を開けた。
「これでよし!後は、来るのを待つだ───」
瞳が全てを言い切る前に、何かが窓から飛び込んで来た。あまりの速さに何処から飛んできたのか少女の目では分からなかったが、瞳の前に先程まではいなかった全身をローブで覆い隠した人らしき者がそこにいるのが分かる。
「目を離すなと言っただろ。」
喋った。声の低さからしてどうやらローブの中身は男のようだ。
「しょうがないでしょ!私は自由に行動してるんだから!それにこの前のは、たまたま分かったから行っただけで、今回は分からなかったの!」
「分かった、分かった。とにかくさっさと治療してしまおう。はあー...、またあいつに頼むのか...。」
「じゃ!後の事は頼むね!」
やれやれとローブの男が呟くと、トーマの前まで来るとローブを広げる様にして一回転したかと思うと、突然目の前から消えているではないか。窓の方を見ると何かが空を飛んでいるのが見えるが、それがさっきのローブの男かどうかは分からない。
少女は終始口を開けながらそれを見ていた。もう何が何なのか分かっていない様子だ。
「そしたら私も帰ろっかな。由希ちゃんも待ってるし」
そう言い窓を締めると、一階に続く階段の方に歩きだす。しかし、数歩歩いたところで何かを思い出し、少女の方を向いて
「そうだ!そこの本棚直しておいてね!それやったの君でしょ?」
最後ににこりと笑うと、そそくさと階段を降りていなくなってしまった。正確には最後に本棚を吹き飛ばしたのは、瞳だ。
「ちょっと待って下さい!!あの、せめて!あの男の人が何処に連れて行かれたのか教えて下さい!謝らないといけないことがあるので!」
本棚を直し終えた少女が、はっと思い出した様に瞳を追って一階に降りて行った。
*****
薄暗い闇に包まれた空間に、一人の男が何かを呟いている。
「血だ、血を集めろ...力を...魔力を...」
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