第11話 磁力の魔法
イメージする。あの日と同じ様に目の前の子を吹き飛ばすイメージ。出来る、やろうと思えば出来るはずだ。この間は失敗したけど、土壇場になれば成功するそういうやつだ。だから俺はそれを信じる。
「ついに諦めましたか。なら大人しく嬲り殺されて下さい」
「まだだ…、まだ…、やれる!」
見えない杖を女の子に向ける。それは俺が夢の中や、赤髪を吹き飛ばした時と同じポーズ。
「何をしようとしてるんですか?あなたどう見てもエネンですよね?何魔法を唱えるみたいな格好してるんですか?」
「そんなの、唱えるからに決まってんだろ!」
前から気になっていたのだが、何故俺は“エネン”と呼ばれているんだ?赤髪も確か俺をそう呼んでいたが、そもそも“エネン”って何だ?
そんな事、今はどうでもいいか。とにかくこの場を切り抜ける。それだけを考えろ。
「悪いねお嬢ちゃん…、反撃させてもらうよ…」
実際のところ立っているのもやっとだ。さっき顎にもろに食らってしまったのがまずかった。それに背中に感じるチリチリとした痛みから考えるに、恐らく背骨は無傷ではないだろう。
それでも俺は、逃れる為に叫ぶ。
「吹き飛べ!!!」
見えない杖を突き出し、今出せる最大限の声量で叫ぶ。
しかし、
「……?何なんですか?いきなり叫び出して。何か起きると少し身構えてしまったのに何も起きないじゃないですか。ビビって損しました」
何でだよ。何で何も起きない。この前は確かに陣が出て、そこから竜巻が出たじゃないか。何でこんな大事な場面で出ないんだよ。あの時のあれは何だったんだよ。
「『
突然の呪文詠唱の直後、背後で物凄い音がした。振り向くと一階に続く階段が本棚で塞がれている。まさかと思い女の子の方を向くと、右手を持ち上げた格好で佇んでいる。
「もういいですか?こっちも魔道書が喉から手が出る程欲しいので。邪魔者は排除しなくてはいけないので」
(まずい、まずい、まずい!)
死にたくない。そう思った瞬間俺は今までと逆方向、つまり一階に降りる階段ではなく三階に続く階段の方に走り出していた。
三階は談話スペースやラウンジなど、生徒が集まれる様なスペースとなっている。しかし雨が降っている今日、そこに人がいるのは考えにくい。けれど、限りなく少ない可能性に掛けて階段目掛けて走り出す。
しかし一つ問題が発生した。目指す階段は本棚を挟む今俺が走っている中央の通路を行けば一直線だ。けれど、俺と階段との間に微動に動かない魔法使いの女の子が立っている。つまりこのまま突き抜けようとすれば、確実に殴られる。
それではさっきまでと何も変わらない。女の子との距離が本棚二つ分となった所で、俺は進行方向を右に変え、本棚と本棚の間に入り込んだ。
「ついに万策尽きて、逃げ回るんですか?確かに、私の視界から逃れるという点ではなかなか利口ですね」
逃げ回ってるわけじゃない。俺はそのまま突き当りの壁まで走り左に曲がった。つまり、部屋の壁伝いに遠回りをしながら階段を目指す寸断だ。これなら引き寄せられて殴られる心配は無い。何せ、彼女との間に本棚という障害物が出来たのだ。最初からこうすれば良かったと今更になって思った。
「悪いけど、俺は逃げさせてもらうよ!!」
正直走るだけで意識が飛びそうになる。けれど、後もう少しで部屋の隅まで着く。そしたら階段はもう直ぐだ。
「『
鳩尾に展開されたままだった陣が黄色く光る。すると突然体が壁側に押し寄せられた。まるで横から見えない壁でそのまま潰されたみたいな感覚だ。予想だにしなかった出来事に、俺は対応出来る訳も無く、壁に叩き付けられた。
「ぐはっっ……!!」
俺がぶつかった勢いで棚にしまってあった本が頭に落ちてくる。数冊の角が頭に直撃し、あまりの痛さに意識が飛びかける。
「引き寄せるだけが、私の魔法ではないんですよ?」
そうか、彼女の魔法が『磁力』である事を忘れていた。磁石の磁極が異なれば引き寄せる事が出来る。なら極が同じなら?当然反発し合う。つまり、俺と彼女が反発し合うように磁極を変えたんだ。そんな事も出来るのか。
俺が本棚の前で伸びていると、ゆっくりと女の子が近付いて来る。
「最後だから見せてあげますが、こんな事も出来ますよ?」
俺を見下すように右手を俺に向ける。その表情に感情は見えない。
「『
聞いたことのない三つ目の呪文。もう何が起こっても不思議ではないこの異常な状況で、俺の体は階段近くの防火扉に叩き付けられ、あろう事かそのまま張り付いた。背中から自分でも分かる嫌な音が聞こえる。
「エネンのお兄さん、今楽にしてあげますからね。でも何でエネンの人が魔道書を探してるんでしょう…?」
意識が薄れていく。体を動かそうにも、防火扉に張り付いて全く動かない。
そうか、この扉って鉄製だったな。そう言えば何でこんな事になったんだ?ああ、女の子が落したバッチを返そうとしたんだっけ。あれ、あそこに落ちてるの、それじゃないか?扉に叩き付けられた時にポケットから落ちたのか。
「俺は…君に、これを返そうと…した…だけなのに…」
俺の声が聞こえたのか、女の子は驚いた表情をしている。そんなに驚いたのか、俺にかかっていた魔法が解け、俺の体はゆっくりと扉から引き剥がされ、俺は膝からゆっくり倒れ込んだ。
バキッ
何かを膝で割った気がするけど気のせいかな。いやでもかなり膝が痛いな。
俺の意識はここで途絶えた。
「あーーーーー!!!!ちょっと!!何してくれるんですか!!何で、何で割っちゃうんですか??!!」
金髪の女の子が慌てふためいている。どうやらトーマが膝で割ってしまったこのピンバッジは余程大切な物だったようだ。
「『
部屋の奥、丁度一階に続く階段の方から呪文詠唱と思われる声と同時に、竜巻と思わしき突風が吹いたと思うと、入口を塞いでいた本棚が吹き飛んだ。
「何で入口に本棚があるのかな?あれ?誰かいる?」
予想外の事態に金髪の魔法少女は咄嗟に身構える。その姿は幼い女の子のそれではなく、武闘家のそれだ。
「誰ですかあなた…?」
左手に青と緑の中間の様な色をした本を持ち、ここの制服に身を包んだ女子が決めポーズを取りながら言う。
「誰って、魔法少女プリティー瞳ちゃんだよ!」
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