第9話 魔法の本
俺の部屋にノックの音が飛び込む。
あまりにも突然の事で、俺は一瞬固まってしまったが、とりあえずユナさんを部屋に入れる事にした。
「意外と綺麗にしてるのね」
部屋に入って出た一言目がそれだった。彼女から見た俺はどんなイメージなのか凄く気になる。
「とりあえず適当に座りなよ」
「ありがと」
そう言うとベッドに座り込んだ。俺がついさっきまで座っていた場所に他の人、しかも女の子が座っているのがとてももどかしい。
間貸しをやっているだけあって家の中に人がいることは慣れている。しかし、それが自室になると途端に違和感を覚える。
「で、話って何?」
気のせいか図書館のいる時からユナさんの様子がいつもと異なる。恐らく今俺の部屋を訪ねた理由はそれが原因だろう。だからこそ、ユナさんはゆっくりとその口を開いた。
「前に私が“こっち”の世界に来た理由が魔法絡みだって言ったわよね?」
そう言えばそんな事を言っていたな。
「それでその魔法絡みっていうのが、今日加木谷に探して貰ってた本なの」
「本が魔法…?」
「あの時本の名前を言えなかったのは、他の人に聞かれると色々面倒だったからなの」
「そんな事言ったって、あの場にはうちの学生しかいなかっただろう?」
「私みたいな魔法使いがいてもおかしくないでしょ…」
そうか、ユナさんみたいにうちの生徒に紛れている魔法使いがいる可能性があるのか。いや、あるのか?あるとしたら一大事じゃないか?だって、普通の奴だと思っていた奴が魔法使いなんだろ?いや、ないな。
「じゃあ、ユナさんが探してる本ってのは何なの?」
「
「グリモワールって、ゲームとか本とかに出てくる魔法の本の事?!そんな本があの図書館にある訳ないだろ!?」
「だからあの場で言いたくなかったの。あんた絶対信じないと思ったから」
「だって!目の前で魔法が使われたり、魔法使いを見ても、学校の図書館、しかも自分の学校の図書館にそんな本があるなんて信じられるかよ!」
「少し私の話を聞いてくれない?私がどうして“こっち”の世界に来たのか理由を話すから」
思えばどうしてユナさんが“こっち”の世界に来ているのか、真剣に考えた事が無かった。無意識に、これはそういうものなのだと思い込んでいた。
「私が“こっち”に来た理由を話すには、“あっち”の世界の話を少ししないといけないの───
私がいた世界は“こっち”とは違って、魔法が普通に何処にでも存在してる世界なの。
そんな“あっち”の世界は、いくつかの国がそれぞれの土地を治めていて、その中でも一番大きな国が私のいたモーリア王国という国なの。
そのモーリア王国はその大きさから、世界各地から色んな人や物が集まるんだけど、モーリア王国は特に
そもそも
そんな
でもって、私はそんな飛ばされた魔法使いの一人というわけ。まあ、今では魔法すら使えないけどね」
つらつら述べた最後にユナさんは俺を睨んだ。けれどその目はいつもとどこか違い、怒りの表情は見えない。
「これで分かったでしょ?私が本を探してる理由」
「もしかしてさ、ユナさんはその本を見つけられないと”あっち”の世界には帰れないの?」
普通に考えて魔法の世界と、俺らの世界を繋がるという事は相当な事件だと分かる。交わる筈の無い二つの世界がこうして繋がってしまったのだから。
「まあそうなんだけど...、あんたに奪われた魔力も返してもらわないと帰れないわね。そうそう、その
つまりは、魔道書を探す為の魔力を奪った責任として私の代わりに探せ、そういう事だろ?薄々気付いていた。
「話はそれだけだから。じゃあね」
そう言うと勢い良く立ち上がり、そのまま俺の部屋を出て行った。
それから暫くしてばあちゃんが帰ってきたので晩御飯となった。飯の最中、はる姉が大学から帰ってきたが、久々に見るまともな姿に俺は一瞬誰かと思ってしまった。
*****
その翌日の放課後、俺はまた図書館に来ていた。委員会の仕事は今日は無い。なのに、ここに来ているという事は理由は一つ。あの金髪の女の子だ。
昨日俺が拾ったあの子の物と思われるピンバッジを返そうと思ったのだ。もしこれが大事な物ならきっと今日も忍び込んでいる筈だ。
昨日同様二階のフロアを彷徨く。すると昨日と全く同じ場所、同じ棚の前で黒のスカートに黒のシャツという同じ服装で、同じ本を読んでいた。そうロミオとジュリエットの原作。
「ねえ君、何か探してる物ない?」
俺は出来るだけ、出来るだけ優しく声を掛ける。何せ昨日の今日だからな。
「へっ??!!あ、あ、いや別に……」
逃げられはしなかったものの、尋常では無い焦り具合だ。
「君、これを落とさなかった?」
ポケットに入れていたピンバッジを取り出した。それを見た瞬間女の子の様子が変わった。動揺しているのは確かだ、何せ自分の体をあちこち見渡してそれが無くなっている事をそこで知ったのだから。そして下を俯き、雰囲気ががらりと変わった。
「いつ…、いつこれを盗んだんですか…?」
気のせいだろうか、身長も歳も下の女の子から異常な威圧感を感じる。
「ここにいて、これを盗んだという事はあなたも魔道書を探しているということですか?!!」
(気のせいか、今、魔道書って言わなかったか?!)
「あれは私が見つけます。残念ですけどあなたには渡しません。だから、ここで消えて下さい!!」
そう叫ぶと突然こちらを睨み、あろう事か俺の鳩尾に掌打を打ち込んできた。
「がはっっ!!」
見事なまでのクリーンヒット。不意の攻撃に俺は息が出来なくなる。
「どこの誰だか知りませんけど、ここで消えてもらいます」
何でこうなった?俺はただ落し物を返そうとしているだけなのに。
すると俺の鳩尾が突如光り出す。どこかで見た事のある光に俺は自然と汗が吹き出た。あの日以来何度も見ている陣が展開されている。しかし色と書かれている文字が異なる。
「『
女の子がそう唱えた途端、俺の体が意識とは反して女の子に引き寄せられる。まるで強力な磁石に引き寄せられる鉄の様に。
まずい、まずい!この女の子、魔法使いだ。
「てやっ!!」
「グハッッ!!」
接近する勢いを活かして、あろう事か女の子は俺に拳で殴りかかった。
魔法少女の攻撃手段が拳ってどうなの?
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