解決編 第8話-2

「彼が三人目の魔女だよ」

 十姉妹は最大の謎をあっさりと宣言した。

「えええええええええええええええええっ! ちょっと警部話が見えませんよ。もうひとりの魔女は十中八九、正体不明の遺体だみたいなことも言ってたのに正体不明の遺体が第三の魔女だなんてどういうことですか?」

「私も途中までは三人目がいるだなんて考えてもみなかった。ただキミにはあえて告げなかったが、魔女を特定するヒントが三つほどここまでの道中にあっただろう」

「確かにありましたけど、そもそもあんなものじゃ魔女は特定できないだろうし、攪乱の一種ではないかって本部では推測されてますよ」

「確かにゲーム中は特定ができない。けれど全員が死んでからならば、ある程度の特定はできる。むしろヒントがなくても、一宮のメモと矛盾点によって九石が魔女だと特定はできた。魔女の考えはこうだ。ゲームに参加した全員は殺すが、ゲームを調べる側にはある程度謎が解けるようにしている。随分と挑戦的じゃあないか」

「それは分かりましたけれど、どうして警部は三人目がいるとお考えなんですか?」

「ヒントは三つあったがそのうち一つは三人目が作ったヒントだからだ。何、簡単なことだ。これだけテキストの体裁が違うだろう。他のふたつはゴシック体なのに、これだけ明朝体だ」

「ほ、ホントだ!」

 三つのヒントの写真を見比べると『ふたりの魔女はすでに死んでいる』というヒントだけ、確かに字体が違っていた。

「でも、わざとって可能性もありませんか? そうやって惑わすためとか……」

「それも考えたが、この最後のヒントだけ、三人目だけが知っている順番でヒントが書かれている。それはもちろん、十塚剣を油断させるためでもあったのだろう」

「三人目が知っている順番ってなんですか?」

「分からないかね、本当に死んだ順だよ。自分が三人目の魔女だから『ふたりの魔女は死んでいる』なんてことが書けた」

「ちょっと待ってください。一人目が九石で三人目が正体不明だとしたら、二人目は誰なんですか?」

「おや、言ってなかったか? ゲームが始まる前に死んだ八月朔日だよ。それでこそ成り代わった理由にも説明がつく」

 さらりと十姉妹は言った。

「そもそもなんで三番目の魔女は三つ目のヒントを作ったと思う?」

「それは……」

 重吾は口ごもった。先に十塚剣を油断させるためもあったと十姉妹は言っていたが、それ以外に何か意味があるらしい。

「三人目の魔女を示唆するためだ。ヒントである以上、嘘はないと考えれば三人目の存在がいる可能性が高いとは思わないか?」

「でもそうしたら二番目のヒントと矛盾しませんか。生存者が四人になった時点で『魔女のうちのひとりはとっくに死んでいる』んですから」

「けれど十人の中の魔女が死んでいるとは書かれていない。八月朔日がゲーム前日に死に、九石が死んだふりをして生きているなら矛盾はしない。もちろん、三人目が存在してない場合は、キミのように実際に死んだ順ではなく、参加者たちが死んだと思った順で考えれば矛盾はしない」

「どちらにしろ、矛盾しないようになっているわけですか」

「そういうわけだ」

「それで、仮にというか十中八九、三人目が正体不明の遺体だとしていったい正体は誰なんですか? それにこの人……男ってこと以外何も分からないんですよ。彼も見立てで殺されたっていうんですか?」

「彼は自殺だよ。他の人たちを見立てで殺すことで、自分も見立てで殺された、もしくは死んだと思わせる作戦だろう。その実、上半身を木っ端みじんにすることで正体を最後まで隠そうとしたのだろうね」

「隠そうとした……って警部は分かったんですか?」

「ついさっき。三人目の存在に気づいた時点でね、おそらく三人目の魔女は彼だ」

「誰なんですか?」

「気づかないのか、十人と水出善良子の過去を探ってもなお、ここまで出てきてない人物が存在している。そしてその人物はここに招待された十人の中にはいない。本意ではなかったとはいえ、その人物だって水出善良子を裏切ったに違いないのに」

「水出善良子を裏切った人……?」

 そうまで言われても重吾はその人物が誰だか気づけずにいた。

「おそらくその人物はここまで手の込んだことをして事件を闇に葬ろうとはしていない。自分がやったという痕跡をどこかに残しているはずだ。真相を書いたビンを海に投げ込んだように」

 そう呟いて十姉妹は装置の爆発によって壊れている扉をたやすく開けて外に出た。

 日は沈んでいた。

 被害者たちは一日で踏破できるこの施設の中で三日過ごしたという。時間の感覚が狂わされていたのか、捜査の段階ではほぼいなかったモンスターが無数にいて時間がかかったのかは分からない。

 それでもこの仮想現実空間で、裁かれなかった罪や、罪にすらならない罪を裁かれたと思うと重吾は胸が痛かった。

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