解決編 第7話

27.


「こうも白い部屋が続くと頭が変になりそうですね」

「VRゴーグルをつけたところで、ここはいい気分がしない」

 すでにVRゴーグルを取りつけて周囲の風景を見ていた十姉妹が告げる。

 壁から突き出した鋸が回転する風景は確かにいい気分にはなれないだろう。

「ここで六鎗杏は下半身が跡形もないほど切断されていました」

「上半身は?」

「無傷です。目立った外傷はありませんでした」

 入口近くの死体があった辺りに立ち、重吾が報告する。

「何か仕掛けがありそうだね……」

「上半身が無傷だったことと関係があるんでしょうか」

「ないとは言い切れない。それとあまりその辺りに立たないほうがいい」

 十姉妹はそう宣言して、壁をじろじろと見つめる。

「何をしているんですか?」

「最下層にあった、スイッチによってアナウンスが流れるような仕掛けがないものかと思ってね」

「僕も探します」

 重吾は凝視するように、十姉妹はあくまで壁にかけてある絵画を見るかのように壁を見つめる。

「どうやらあったようだよ、重吾くん」

 数分間後、十姉妹はスイッチを見つける。

「ここに小さな穴が空いている」

 十姉妹が指した壁にはシャーペンの芯がぎりぎりで入るような穴が開いていた。

「鑑識も見逃していたようですね」

「気に留めなかったのかもしれない。大方、最初に調査した際、魔女自らが六鎗杏を切断し下半身をバラバラにしたと推測していたのではないのか?」

「ええ、その通りみたいです」

「けれどそれは不可能に近い」

「どうしてですか?」

「彼らが単独行動してたとは思いにくい。仮にうまく孤立させたとしても魔女が手動で下半身を切断してバラバラにするには時間がかかりすぎだ。それだと姿が見られ、正体が露見する可能性もある」

「孤立した人を他の人が探すからですね」

「そうだ。ならば時間をかけない仕組みが必要だ」

「だから警部は仕掛けがある、と」

「その通り。これで試してみよう」

 十姉妹は自らが持っていた手帳に仕込んでいる小道具の中から細い針金を取り出して、微細な穴へと突っ込む。

 変化が起きた。入口から入ってすぐの壁から回転鋸が出現し、六鎗杏の死体があったところを通過。

 そして刻まれた下半身があったところを何度も何度も叩いている。超高速でだ。

「……これなら時間がなくてもできそうですね」

 その動きに圧倒されたこともそうだが、こんな残酷な装置で六鎗杏が殺されたことに重吾は慄いていた。

「しかも労力も必要がない。下半身をきちんと切断できるように当然センサーも組み込まれているだろうな。悪質な殺人法だ」

 憤り十姉妹は怒りを壁にぶつけた。一時の怒りが冷静な判断力と観察力を奪うことを十姉妹自身が分かっていた。

 壁にやつあたりすることで十姉妹はやり場のない怒りを発散し、冷静さを取り戻したのだ。

「六鎗杏は……なんでこんな殺され方をしたんですか? 見立て、だとしても僕には何が原因でそうなったのか見当もつきませんよ」

「水出善良子の彼氏を寝取ったという噂があったようだね」

「もしかしてそれが原因ですか……」

「ああ。性行為で彼氏を奪ったのから、行為に及んだ下半身を奪ったのかもしれないな」

「なんというか、それだけのためにこれだけの非道行為に及んだんですか……」

「それだけじゃないかもしれないが、六鎗杏に対しての恨みが一番強いのは確かだ」

 そう言って十姉妹は次の階へと向かおうとする。

「警部。九石さんもここで殺されていますが……それは……」

「彼女は先にも述べたように魔女だ。ここまでの殺人を実行した実行犯。そしてここで用済みとされてもうひとりの魔女に殺されたんだろう」

「眠るようになくなっていましたが、もうひとりの魔女にも温情があったんでしょうか。六鎗杏を虐殺したあとでも……」

「いや、温情なのではなく彼女も見立てで殺されたんだ」

「そうか。確か彼女は水出善良子が自殺した際に服用した睡眠薬を親の病院から盗み出したかもしれないんでしたね」

「その通りだ。だから彼女も眠るように殺された」

「でも魔女である九石と正体不明がふたりで計画したのなら……彼女が殺される意味が分かりませんよ。もともと死ぬつもりなら、自殺でもいいし、十塚剣が死んで復讐を果たしてからでもいいはずです」

「そう。確かにそうなんだ。違和感がある。だから私はこう推測するのだよ、三人目の魔女が、最初にいたふたりの魔女の計画を乗っ取った、とね」

 意味深な言葉を告げて十姉妹は最上階へと昇っていく。

「三人目の魔女、ってどういうことですか、警部! 警部!!」

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