解決編 第6話

26.


「次の階でなくなったのは七種奈々緒です」

 分かってはいるだろうが重吾は十姉妹に報告する。

「六鎗杏に次いで彼女の殺され方は残酷でした。辛うじて顔は確認できましたが、ほぼ全身が黒焦げです」

「隅にある小さな部屋に仕掛けがあったようだね」

 十姉妹はその部屋の前に移動してきていた。扉には仕掛けが施されており、中で重さを感じると自動的に閉まるようになっていた。

「ここの部屋の壁はきちんと防火されていて、他の壁には燃え移らないようになっていました。ここに入った七種奈々緒は顔以外の全身を一気に焼かれたようです。もちろん熱気で顔は火傷だらけでした」

「彼女はどうやってここに入ったと思う?」

「魔女が無理やり入れたのでは?」

「だとしたらそこで魔女が姿を現したことになる。どうしてここで?」

「それは……」

「魔女は最初から姿を現すつもりはなかった。それは覆らない。となればここも姿を見せなかった可能性が高い」

 ちなみに殴られた痕跡は? と十姉妹は続けた。

「顔にあったのは火傷だけのようです。体のほうはそれすら分からないですが、警部は気絶させられた可能性を疑っているんですね?」

「そうだ。とはいえ、頭に殴られた痕跡がないのであれば、気絶させるのも難しい。彼女は自らこの場所に入った可能性が高い」

 言って十姉妹はVRゴーグルをつけた。

「なんだ、あれは……」

「何がですか?」

 VRゴーグルをつけていない重吾は何がいるのか分かっていない。

 十姉妹が指した方向にはヘルハウンドがいた。十人の被害者が倒しきれなかった生き残りだ。

 十姉妹を見るなり、ヘルハウンドは襲いかかってきた。十姉妹は華麗に避ける。

「警部何をしてるんですか?」

 十姉妹がいきなり踊り出したように見えた重吾が問いかける。

「重吾君もVRゴーグルをつけて見たまえ」

「うわわ。なんだあれ」

 促されて取りつけると重吾の前にもヘルハウンドの姿が見えた。

「あれって触れると火傷するんでしょうか?」

「分からないが分かった」

「どっちなんですか?」

「違う。火傷するかどうかは分からないが、七種奈々緒があの小さな部屋に入った理由が分かった。そしてキミが見つけた棒切れの使い方も、だ」

 言って十姉妹は重吾が持っていた剣を奪った。

「ってええ、剣になってますよ、警部」

「ああ。おそらくこれでこういった敵を倒して彼らは進んでいたのだろう」

 言いながらヘルハウンドに剣を振り下ろすと十姉妹の前でヘルハウンドが霧散。

「なるほど」

 呟きながら十姉妹はVRゴーグルを取り外した。真似して重吾も同じタイミングで取り外す。

「先の海フロアに二本落ちていたということは彼らはこの時点で武器を失っていたか、全員が守れるほどの本数がなかったことになる。仮に触れてもなんともなかったとしても、キミはわざわざ炎に手を突っ込んだりしたくないだろう?」

 重吾はうんうんと大きく頷いた。

「おそらく七種奈々緒は武器を持っていなかった。だから逃げるしかなかった。そしてこの部屋を見つけた。いかにも自分の身が守れそうな部屋だ」

「そうなると入ってもおかしくないですね。中に入って隠れていれば仲間が助けてくれるかもしれない、そう思って」

「そうだ。まんまと魔女に心理を突かれ彼女は罠に嵌まってしまった」

「調べて見たところによると高校時代の彼女は喫煙しているという噂があったようですが……それとやっぱり関係があるんですか?」

「ああ、水出善良子の太ももには根性焼きの跡があった。おそらく七種奈々緒が原因だろう。もちろん、裏付けなんてないが、魔女が見立てで殺人している以上、残念なことにきっとそうなのだろうな」

 過去の因縁が今回の結果に繋がっていたことを十姉妹は改めて嘆いて進んでいく。

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