解決編 第4話

 24.


「次は海エリアだったね」

 十姉妹はVRゴーグルを装着して海とそこに浮かぶ船を確認するとすぐさまゴーグルを取り外す。

 するとやはり白い部屋が姿を現した。この白い部屋は他の部屋と違って、今十姉妹が立っている位置よりも下に長方形の穴が開いていた。そこには海のように水が溜まっている。水族館の水槽、その上に立っているような感じだろうか。

「しょっぱいですね」

 重吾は確認のためにその水を掬って少し舐めた。しょっぱくてわずかに顔をしかめる。

「おそらく本物の海水だろう。日本海が近いからそこから汲んできた可能性が高い」

「ここが海水なのはやっぱり無駄な容量を使うのを控えたからですか?」

「いや、ここで一宮蒔苗を溺死させるつもりだったからだ。もちろん、バケツ一杯の水があれば溺死させることだって可能だが、それでは誰かが彼女の頭をずっと押さえつけていなければならない」

「魔女が姿を隠してるならそんなリスクは避けますよね」

「そうだ。そして効率よく溺死させるためには何らかの道具で水の中に引きずり込んだまま、溺れさせるのが一番確実だ」

「一宮の首にはワイヤーで縛られたような跡がありましたからそれで海の中に引きずり込んだ、ってことですね」

「ワイヤーかどうかは推測でしかない。けれど彼女を溺死させることは魔女にとって決定事項だった」

「それも水出善良子と彼女を関係を示す特徴ってやつですか?」

「ああ。彼女はトイレで彼女に水をかけていたらしい」

「それってイジメじゃないですか」

「一宮の件に限っては学校側は絶対に認めなかったらしいね。一宮蒔苗の父親は都議会議員で多額の寄付をすることで学校側を黙らせたらしい。それに今度の選挙は娘の死を嘆いて、票数を集める算段みたいだね」

 もっともな選挙公約を掲げたりするよりも、自分の有名さを利用したり、情に訴えたりしたほうが選挙には受かりやすいと、一宮の父親も分かっているのだ。

 娘を卑劣な事件で失った父親が今度も再選を目指す、としたほうが選挙が有利に働く。同情票をもらうのは容易い。

 そんな状況を分かっているものの十姉妹にそれを止める権利も権力もない。ただ、この難事件の真実を暴き、それが明らかになれば、連鎖的に一宮の件は公になると考えていた。

「それはそうと彼女が行っていたイジメと今回の殺害方法のつながりが見えてきた頃合いじゃないかい?」

 しばし黙考していた重吾に十姉妹は問いかける。

「はい。水繋がりですよね。ようやく僕にも分かりかけてきました。だから水出善良子の弁当を盗み続けていた二ヶ瀬は食べ物を食べて殺されたんですね」

「そうだ。しかもその盗んだ弁当は調べたところによると捨てられていたらしい。食べ物を粗末にした彼は食べ物によって罰を与えられたともいえる。もっとも殺人が罪に対する罰だと認めたくはないけれどね」

「でも待ってください。なら教師の五木はどうしてなんでしょうか?」

「推測の域を出ないが、イジメをまともに取り合ってくれなかった五木によって、彼女の心は傷つけられた。だから五木は心臓を抉られて殺されたんだよ」

「こじつけのような気がしますが……」

「けれどこの殺人事件が水出善良子の復讐をするためであるとしたら、彼らが行ってきた仕打ちを見立てた理由にもなる。見立てであれば推測でも憶測でもなんでもいい、そういう風に発想できてしまえばこじつけだろうが関係ない。現に私はそう思っているからね」

「なるほど……」

「では次に行こうか。もう分かっていると思うが今回の被害者は全員が見立て殺人で殺されている」

 宣言して十姉妹は上の部屋と向かおうとしたが、重吾が持っているものが気になり問いかけた。

「そういえばその棒切れはなんだい?」

「鑑識によれば二本とも水中に落ちていてたものです。警部が気になると思ってこの部屋に置いていてもらったんです」

「なるほど。けれどそれはこの部屋の仕掛けに関係なさそうだ。けれど確かにそれがなんなのか気にはなる」

「では念のため、持っていきますね」

「頼んだ」

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