解決編 第3話

23.


「次は確か河原です」

 重吾は部屋の入口で宣言したが、十姉妹はVRゴーグルをつけていないため、またもや白い部屋でしかない。

 とはいえ今度は下の階と明らかな違いがある。

 水が壁から流れ出していた。VRゴーグルを通して川に見える場所は白い部屋の状態でも少し凹みがあって、そこに壁から流れ出した水が流れ込んでいた。

「不思議なことだ」

 十姉妹は言う。

「どうしてですか?」

「先ほど重さの実験をしただろう。本を持てば重さを感じ、けれどもゴーグルを外せばそれがまるで錯覚だったように重さを感じなくなる」

「ええ。確かにそうでした。それで何が不思議なんですか?」

「分からないか?」

 とはいえ十姉妹は重吾が分からなくても失望なんてしない。

 重吾がそうやって疑問を口にしてくれることが十姉妹の思考の整理に一役買っていた。

「重さはゴーグルを嵌めていれば錯覚させることにできるのに、これでは水……いや冷たさというべきか……それは錯覚させることができないと証明しているものだ」

「あ、確かにそうですね。何か意図があるんでしょうか?」

「単に、冷たさを錯覚させるまで技術が及ばなかったのかもしれないね。それにゲームというものはCGにクオリティを持たせようとすればするほど容量を使うはずだろう。ともすれば水さえあれば冷たさや川が表現できるのならばそこに無駄な容量を使う必要はないのかもしれない」

「うーん、難しいことは分かりませんね」

「まあその辺は殺人の意図にまったく関係ないがね」

「ないんですか」

「ああ。さて、ここには生きたハブがいたんだろう?」

「ええ。わざわざ沖縄に行って捕まえてきたみたいですね」

「その苦労は計り知れないだろうがそうまでしてハブで殺す必要があったということだ。なんでだと思う?」

「先ほど警部は水出善良子と関係を示す特徴があると言っていましたが、それに関係が?」

「そうだ。私の言葉を覚えていたようだね」

「さっき言ったばかりじゃあないですか。でその特徴っていうのは?」

「簡単なことだ。ここで殺された三条志津子は水出善良子を仲間外れにした経緯がある」

「それがハブとなんの関係が?」

「若いキミのほうが分かりそうなものだが、友達を除け者にすることをハブるというだろう?」

「え、じゃあダジャレですか……そんなダジャレで彼女は殺されたっていうんですか?」

「せめて因果と言おうか。目には目を歯には歯を、ではないが、この殺人は水出善良子がされた仕打ちに対応して殺人が行われているんだ」

 十姉妹は三条志津子が殺された現場をじっくりと見渡してそう宣言する。

「え、じゃあ森林で殺された五木も、宿屋で殺された二ヶ瀬もそうなんですか?」

「当たり前だ。もうここはいい、次の階に行こう」

 簡潔にそう答えて十姉妹は次の階へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る