全滅編 第20話

 淳と十塚は階段を上がっていく。

 その中腹。どの階段もそうだったように、壁にショーケースがはめ込まれていた。

 そこにある人形は、二つ……のはずだった。杏が殺されて僧侶の人形が減り、あと二つ。

 勇者と戦士の人形だけ、そのはずだった。

「どういうことだよ……」

 ショーケースには勇者の人形しかなかった。

 戦士の人形が消えていた。

「次の階でひとりは殺すという決意表明でしょうか……?」

 恐る恐る淳はそう告げるが、戦士の格好をしているのは十塚だ。

「ふざけてやがる」

 死の宣告をされた十塚は気が気でない。

 絶対死んでやるものか、と思う一方で十塚は挑発に乗せられたかのように歩を早める。

「油断しちゃだめだ」

 突然速度を上げた十塚に淳は忠告したが十塚は止まらない。出遅れながらも十塚のあとを追う。

 十塚は先に次の階へと到達していた。

 そこは最初にいたような白い部屋だった。

 その中央にはパネルが設置されており、真上に『魔女はだーれ?』と問いかけが掲げられていた。

 おそらくここが最上階だろう。

 挑発じみた問いかけにつられ十塚は正解を出す気満々で部屋へと足を踏み入れる。

 周囲を十分に警戒したはずだった。

 一歩を踏み入れた途端、真横から何かが高速で飛び出してきた。それは白い壁だった。

 超高速で飛んできたその壁はさながら高速で移動する車のよう。

 そこまで考えて、ああそうか。と十塚は悟った。

 壁に押されるがまま反対側の壁にぶつかり、ぐちゃりと十塚は原形と留めないほどに潰れた。

「だから言ったのに……」

 一歩遅く、十塚の死んだあとに淳はたどり着いていた。

 壁と壁に挟まれて圧殺された十塚の死体を一瞥して淳はパネルへと近づいていく。

 パネルには十人の名前が記載してあった。

 淳は今まで手に入れたヒントを思い出す。

『魔女は十人の中にいる』

 まずは最初のヒントを思い出した。けれどパネルに十人の名前が記載してある以上、もはやヒントの意味はない。

『魔女のうちひとりはとっくに死んでいる』 

 次に思い出したのは四人になったときに手に入れたヒントだ。

 あの時点で生きていたのは七種、杏、十塚、淳の四人。

 殺されたのは九石、五木、留次、志津子、蒔苗、四葉の六人。

 殺された四人のなかにひとり、生きている六人のなかにひとり魔女がいることになるが、これだけではまだ特定できない。

 そして三番目のヒント。

『ふたりの魔女はすでに死んでいる』。

 このヒントを手に入れたときは十塚、淳のふたりだった。

「全て魔女の計画通りだ……」

 導き出された結論に、結末に淳は笑った。笑うしかなかった。

「はは、ははははは……!!」

 淳はぽち、ぽちと適当にふたりを選択。

 ブッブー!

 瞬間、パネルが爆発した。

 その爆発に巻き込まれる瞬間、淳の身体にノイズが走った。



「ぼくが善良子さんの彼氏になれっていうの?」

「そ、偽彼氏」

 淳の問いかけに杏はそう答えた。

「それは……あんまりじゃ……」

「は、何? あーしに文句でもあるってーの?」

「いや、それは……」

 淳は杏に逆らえないでいた。

 いじめられていた淳は杏によっていじめを救ってもらっていた。

 いや、正確には杏が自分のグループに入れることで淳をいじめていた相手が淳に干渉できなくした。

 杏のグループはクラスカーストで二位の位置にあり、いじめていた相手が手出しすればそのグループ全員を敵に回すことになる。相手にそんなことができるわけもなく淳のいじめはなくなった。

 そういうふうに救われた淳はそのグループのトップである杏に逆らうことができない。

 杏たちが遊ぶ時間を捻出するために淳は杏たちの宿題や掃除当番の代わりを務めていた。

 拒めばグループから外され、再びいじめが始まってしまう。それだけは避けたい気持ちがあった。

 善良子の偽彼氏になれ、というのがどういうことか淳は推測できていた。

「じゃ、決まり。あーしが善良子から奪った彼氏と別れたらテキトーに別れていいから」

 その言葉で推測が確信に変わる。杏は善良子の傷口に塩を塗るつもりなのだ。

 彼氏を奪われて傷心の善良子の心につけ込んで淳が彼氏になる。

 そのあと、杏が善良子の彼氏だった男を振るタイミングで淳も善良子を振るという悪質な遊びだった。

 淳としては振るのを前提で付き合うのも心苦しいので付き合いたくはなく、杏の遊びにも付き合いたくはなかった。

「は? やんねーのかよ」

 やらない、したくない、と言える立場に淳はなかった。

 杏に見限られるのは避けなけばならない。

「やるよ」

 淳はそう答えるしかなかった。

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