全滅編 第19話
「ぎゃああああああああああ」
階段を上がり切る前に淳のもとへと断末魔が聞こえた。
急いで淳が次の階層にたどり着くとそこには杏の切断された遺体があった。
バラバラ死体とでも言えばいいのだろうか。上半身と下半身が切断され、下半身はさらに小刻みに刻まれていた。原形はなくミンチに近い。
部屋は切断を象徴するように、壁から回転鋸が迫り出し縦横無尽に動き回っていた。頭上には大きな鎌が振り子のように動いている。
言うなればカラクリ部屋だろうか。拷問部屋でもいいかもしれない。
杏の死の想像以上の凄惨さに胃から胃液が込み上げてきた。
我慢なんてできなかった。
「うえぉおおお」
と胃の内容物ごと胃液を外へと吐き出して、ははっ、となぜか笑いが込み上げてきた。
「やっぱり一足遅かったか……」
しばらくしてカラクリ部屋へと上がってきた十塚が諦念を込めて呟いた。
どうしてわかったのか怪訝な顔をする淳に
「お前は確認しなかったのか……? 武道家の人形が減っていたぞ」
「ぼくが悲鳴を聞いたのは人形のショーケースを通り過ぎた後でしたので」
とはいえそのときすでに人形がなくなっていたのかどうか淳は覚えていなかった。
「そうか……」
「変なことを聞きますけど、十塚さんは魔女なんですか?」
「いや。むしろ俺ではない。むしろお前じゃあないのか?」
「まあそう答えますよね」
「ああ、そう答えるしかない。俺もお前も」
壁の回転鋸はこちらを認知して飛び出してくることはなく、近づかなければ装飾のようなもので害はないようだった。
ふたりはお互いを疑い、距離を取った。
「俺はお前を疑っているが殺すことはしない。それを情けないと思うか」
「いいえ。まだ冷静でいてくれてありがたいと思っています」
「でも魔女のヒントにあったように、生きている側に魔女はひとりいる。俺でないとしたらお前だ」
「でもあなたという可能性もあります」
「そうだ。そしてそれを証明する手立てはない」
「じゃあ、どうするんです?」
「このまま距離を離して進む。決してお互いに近づかない。いいな?」
「ええ」
淳が同意したことで十塚が前へと進んでいく。
十塚は時折ちらりと振り返り淳を視界に捕捉して、距離が詰まってないことを確認する。
近づかなければ危険はない回転鋸だが、仮に淳が一気に距離を詰めて十塚を捕まえて回転鋸に抑えつけでもしたら十塚はあっという間に死んでしまう。
警戒しておくことには間違いではない。
カラクリ部屋にはモンスターも出現せず、罠もなかった。
すぐに上の階へと進む階段が見えてくる。
その壁に石板がはりついていた。
十塚はその石板に書かれた文字を読んで思わず笑った。
突然、笑い出した十塚を不気味に思いながらも淳は警戒しながら問いかけた。
「何があったんですか?」
「はは……いや、なに……俺はお前に謝らないといけないらしい」
「だからどういうことです?」
「いや、この石板を読んでみろ」
そう言ってわざと手で隠していた石板を露わにする。
「なるほど。そういうことですか……」
淳は納得して微笑。
「なら、ぼくもあなたに謝らないといけません」
「すまなかった」
「すいません」
二人して笑い合って頭を下げる。
石板に書かれていたのは魔女のヒントだ。
他のふたつのヒントと違って文字の体裁が違っているが間違いない。
そこにはこう書かれていた。
『ふたりの魔女はすでに死んでいる』と。
となれば淳も十塚も魔女ではないと証明されたようなものだ。
安堵ののち、
「でもだとしたら俺たちはもう死なないのか?」
「油断はできませんよ。魔女が死んだのだとしても、罪人を殺すための罠は仕掛けられているのかもしれません」
「けどなんで魔女は死んだんだ? 復讐が目的だったんだろ」
「自分を殺すことさえも復讐……なんじゃないですか? 魔女でさえも水出善良子に対して罪を犯していた、ってことです」
「なるほど。確かにそうなのかもしれないな」
「それに魔女を特定できなければぼくたちは脱出できません。最悪、特定できなかったことで殺される可能性だってある」
「冗談じゃない……と言いたいところだが、そうなりそうな予感がするな」
「とにかくここからは罠に用心して、まずは最上階を目指しましょう」
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