全滅編 第18話
「七種さんはいたか?」
「すいません、追いかけたんですが、ヘルハウンドがいて……途中までしか……」
「そうか。俺しか倒せないな……分かった。俺が探す」
三本の鉄の剣は淳が海に落ちたときに一本、そして蒔苗が死んだときに一本、どちらも海中へと沈んでいた。
今、剣を持っているのは十塚しかおらず、ヘルハウンドに触れてどうなるか分からない以上、無手の淳では捜索にも限界がある。
「つかさ」
淳に代わって十塚が捜索に向かおうとしたさなか、杏が気づいてとある方向を指した。
「階段とこの鉄格子なくなってるし」
指摘されてふたりが上の階へと続く階段の方角を見ると確かに鉄格子はなくなっていた。
「スイッチか何か押したか?」
「いえ」
「あーしも押してない」
十塚の問いかけをふたりが否定する。十塚の脳裏にイヤな予感。
淳も同じ懸念を抱いていたのか、示し合わせるかのようにふたりして顔を見合わす。
「先に階段を確認しに行こう」
十塚の提案に淳はすぐに応えた。
ふたりが急いで駆け出すのを見て杏も察したのか、慌ててついて行く。
上層へと続く階段の中腹にあるショーケースの人形は三つになっており、僧侶がその姿を消していた。
「もう殺されてるってことか……」
「モンスターにやられたんでしょうか」
「分からない。分からないから捜して確認するしかない」
「つか探す必要ってある? 死んでるならさっさと先に進んだほうが……」
「いや七種が魔女ではないという可能性を確認したい。死体があるってことは魔女じゃない可能性が高いだろう?」
「ぼくも探すほうに賛成かな」
「ちょっ! ならあーしだってひとりで進むのはヤだから一緒に捜すし」
三人は階段を降り、廃墟の階層に戻ってくる。
「やっぱりモンスターがまだ残っているあたりが怪しいよな……」
十塚が独り言のように向かう先を示し、「こっちです」と淳が誘導する。
すぐにモンスターの姿が見えてくる。
総数は三匹。
「全員同時は相手取れないからまずは一匹。追いかけられたらできるだけ近くで逃げてくれ」
そう告げて十塚は身近の一匹を倒す。
ヘルハウンドが見た目に似つかわしくない可愛らしい悲鳴を上げると、残りの二匹が気づく。
一匹が淳へと向かい、もう一匹は十塚へと向かってきた。
自分へと向かってきたヘルハウンドを手早く倒して淳が引き連れてきたもう一匹も倒す。
すんなりと言っていいほどスムーズにモンスターが消滅。
「あそこ、怪しいし」
「なんだあれ」
十塚が近づいて鉄製のロッカーのような部屋の扉を触る。
「あつづっ……」
あまりの熱さに手を放した。
「おい、もしかしてこの中とか言うんじゃないだろうな……」
「どうやって開けるんですか?」
「分かるわけないし」
スイッチか何かがあるのか三人が周囲を探ろうとすると、プシューと音を立てて目の前の扉が開いた。
もしかしたらセンサーか何かがあって、それが人を感知して開閉するのかもしれなかった。
黒煙が一気に三人を追い抜いていき、同時に何かが焼けていた痛烈な臭いが漂ってきた。
ドサッと音がして黒い、いや黒こげの何かが煙が晴れるとともに三人の目の前へと転がり落ちた。
それは人の形をしていた。ちょうど七種と同じぐらいの女性の体型。
それでも顔だけは生焼けような感じで辛うじて判断できた。
「七種さん……」
「やっぱ、そうだよな……?」
「むごいし……」
あまりの姿に杏の腰が抜けていた。
「もう嫌ぁ……!」
杏はなんとか立ち上がってふたりから離れる。
「つかどっちだし!! 魔女はふたりのうちどっちなんだし!!」
「待って。落ち着こう」
「待て。俺は魔女じゃない」
杏はふたりの言葉を聞かず錯乱していく。距離をどんどん離して叫び続ける。
「ふたりのどっちかしかいないじゃん。あーしは七種を密かに疑っていたけど、死んだならふたりのうちどっちかしかない。あーしは違うからきっとそうに違いない」
周囲にあった瓦礫を投げて杏は上の階層へと向かって逃げ出した。
「待てよ。ひとりで行くな」
「うっさいし。魔女!」
七種の痛烈な死を見て錯乱した杏は引き留めようと近づく十塚を突き飛ばした。
「大丈夫ですか」
「ああ、それよりもあの子を追ってくれ」
体を支えて声をかけた淳に十塚はそう告げた。
十塚が何を言いたいのか淳は理解した。女の子をひとりにしておくのは危ないと言いたいのだろう。
淳は特に反対することなく、十塚の言葉に従って杏を追いかけた。
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