全滅編 第17話
「見るからに怪しげだな」
階段を上がってすぐ、崩壊した家屋が見えた。
周囲は塀で囲われているがボロボロで、門は閉じているものの崩壊した箇所から庭へ入ることができるようだった。
「次は廃墟……ってところでしょうか」
「広くはないですね」
「うん。階段も見える位置にある」
「でも鉄格子が挟まっていて行けないし」
「留次みたいにゲームで例えるとするならスイッチがどこかにあるんだろうね」
「フツーに考えれば廃屋の中か」
「あーしは入りたくない」
「全員がそうでしょうね」
「ふたりは待っていればいい。俺と八月朔日が行く」
「でも不用意に分かれず固まって動いたほうがいい。片方に魔女が残ったらもう片方を、ってこともあり得る」
「それだったら生き残ったほうが魔女確定じゃん」
「でもひとりが死ぬ。それが六鎗さんかもしれない」
「ちょ……なら全員で行くべきだし」
杏は思わず七種から距離を開ける。
「わたしは魔女じゃない……けどまあ、全員で行くのは賛成」
魔女であることを否定してから七種は全員で行く案を肯定した。
武器を持つ十塚が先頭で七種、杏と続き、殿が淳で廃屋へと近づく。
窓は埃まみれで中は確認できない。
レンガ積みの家で屋根が崩壊していた。崩壊した場所から中は覗けそうだが、そこまでは背が届かない。
「扉を開けて中に入るしかないか」
「僕が開けますよ。中からモンスターが出てきたらお願いしますね」
「任せろ」
「ゾンビ映画みたいだし」
扉から離れている杏は冗談のつもりで言ったのだろうが、扉に近づいていて、すでにおそらくモンスターが発した呻き声のようなものが聞こえている淳と十塚にとっては冗談では済まされない。
ごくりと唾を呑み込んで、淳がドアを引いた。
「ぐああああああああ!」
吠えて勢いよく飛び出してきたのは犬の大群だった。もちろんただの犬ではない。
皮が剥がれ筋肉がむき出しになった犬だった。有名なゾンビゲームを模した映画で女優が飛び蹴りを放ったゾンビ犬の容姿にとても良く似ている。ただその犬と違って、筋肉が露出した肌には炎を纏っている。
その姿はまるで地獄の番犬を彷彿させた。
慌てて淳が扉を閉めて大群を遮断。それでも数匹が外へと飛び出した。
瞬時に十塚の横を通り過ぎていく。真正面と利き手側から飛びかかってきた炎の犬の魔物――ヘルハウンドは斬り倒したが、何匹かが後ろにいる杏と七種に向かっていく。
「ちょ、まずいし」
ヘルハウンドを慌てて避けた杏は態勢が悪くすっ転ぶ。がヘルハンドは杏を無視して七種のほうへと向かていた。
「逃げて」
淳が叫ぶよりも早く七種は逃げ出していた。魔物がただの障害物なのか七種には判断できなかった。ただヘルハウンドは炎に包まれている。追いつかれてただで済むとは感じられなかった。
逃げた七種だったが逃げたところで逃げ道は少ない。
すぐに部屋の隅に到達して七種は角を曲がる。廃屋を囲う塀に隠れることも考えたが、すぐに見つかりそうと思ってしまい断念。
それでも逃げ続けていると七種は途中で妙な小部屋に気づく。それは先ほどの角にはなかったものだ。この階層が廃墟だとしたら明らかに異質。教室の隅に置かれた鉄製のロッカーのような小部屋だ。もっともそれよりは少し大きいがイメージとしては言い得て妙だった。
扉もついており頑丈そうだった。
曲がったときに振り切ったのかヘルハウンドの姿はいなかった。けれど唸り声はどこからもなく聞こえてくる。
「ここなら、やり過ごせるかも……」
十塚たちが助けに来てくれる、少し考えて七種はその小部屋へと入る決意を固める。扉が開かなかったらそれまでだがすんなりと開いた。
中に入るとすぐに外の世界と隔絶された。扉が勢いよく締まり、ガチャリと鍵が締まった音がした。
ガンガンガン、と入ってきた扉を叩く。
「……閉じ込められた」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます