全滅編 第15話
道に変化が起きたのは七種が四人に追いついた頃だった。
ガタン、ガタンガタンガタンと後ろから大きな音が響いてくる。
「なんだ、なんだ?」
全員が振り向いて目を凝らす。
最初に気づいたのは淳だった。
「なんか後ろの道が消えていってない?」
この階層は見えている道以外は暗闇だ。道から手の届く範囲では壁がないことを確かめていたが暗闇の箇所に何があるのか分かっていない。
淳の指摘通りそんな暗闇が徐々に見えている道に侵食してきていた。
「暗闇に追いつかれたらどうなるの?」
不安げに四葉が呟く。足の遅さがその言葉を言わせていた。
「とにかく走ろう」
明言は避けて十塚が促す。
一番早く駆けだしたのは七種だった。大学の陸上部で活躍している彼女が一番速い。しかも中距離だ。持久力もそこそこある。
次は十塚と淳が続く。高校も大学も運動部に所属してない杏と、そもそも運動が不得手な四葉は遅れていた。
遅れているといっても最後尾にいるだけで、全員が全員を見渡せる範囲にいた。先頭を行く七種も速度を抑えて行き過ぎないようにしている。
先に行き過ぎて独りになれば、何らかの方法で残りの四人の中に潜む魔女が自分を殺すかもしれない不安や、この先に何かを仕掛けたのかもしれないと四人に疑念を植え付ける不安があった。
その不安を払拭するには全員が見える位置にいるべきだと七種は考えていた。
だから突出しない。
五人は消えゆく道に追いつかれないように必死に走っていた。
すでに十分近く走っていて、汗を掻き、疲労を感じていた。
当然ながらペースは落ち、消えゆく道はすぐそばまで迫っていた。
「階段はまだか?」
今までの階層の奥行きからすればもうたどり着いてもおかしくないはずだった。
なのに階段は見える気配がしない。
何か仕掛けがあるのか、十塚がそう思った矢先、
「いやあああああああ、いやああああああああ」
四葉が息も切れ切れに叫ぶ。四葉のすぐ後ろまで道は消えていた。
火事場の馬鹿力なのか、必死で四葉は懸命に走り耐える。
「踏ん張れ! 踏ん張れ!」
声援を送りながら十塚は前を向く。
すると前方に階段が見えた。
「ほら、あそこに階段がある。あそこまで頑張れ!」
ヨツバが何度も頷く。目標が見えれば頑張りやすい。が同時に目標が近づくにつれ緊張も緩む。もうすぐ助かると、わずかに安堵してしまう。
そこに魔女の罠があった。
先ほどのクラーケンと同じようなものだ。魔女が倒した後の気の緩みを狙ったように、今回もまた、極限から解放される一歩手前で魔女は仕掛けた。
よくよく見れば避けるのも容易かっただろう。けれどそれは常時の話。
例えば普段運動をしない人間が何キロも走らされたあと、いきなりハードル走をやれと言われたら嫌気が差すことだろう。何より、体力を消費している状況で跳ぶ気力もないはずだ。
もちろん授業などであれば跳ばなければいい話だが、『魔女狩り』で生き残っている五人にとっては話が違う。
道からいきなり突起物が出現した。ハードルほどの高さはない。みんなで大縄跳びをするときの縄の位置程度の高さだ。
それでも跨ぐ必要があり、どうしても速度は出せない。
「くそ、いやらしすぎるっしょ」
四葉の次に危機的な状況にある杏が必死に突起物を跳んで愚痴る。
四葉は愚痴を言う余裕すらなく、ただただ涙目で必死に跳んでいた。
「豚、マジ必死すぎっしょ」
軽口のつもりで杏が後ろにいる四葉を見た。
四葉からすれば必死にもなる。
すぐ後ろで道が見えなくなり続けていて、後ろの暗闇に入ったらどうなるか分かっていない。
杏の軽口を無視して、重い足を上げ続けて走る。
階段は見えているのに一向に近づかない。
やがて限界が来た。
「あっ……」
うまく跳べずに突起物に四葉は足を引っかけて転ぶ。
瞬間、四葉が暗闇に消える。
浮遊感。
浮いている感覚が四葉を襲った。
それも束の間、四葉はぐんぐんと落ちていく。
これで死んでしまうのだ。
そう思った四葉は水出善良子にあの時のことを謝罪した。
ごめんね、善良子ちゃん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます