全滅編 第13話-2
数十日後、善良子と手を繋いでいた男は杏の隣にいた。
取り巻きに取らせた写真で高校を特定した杏は猛烈にアピールして「彼女がいるから」と断る善良子の男の気を惹いた。
それから強引にデートにこぎつけて、取り巻きを利用して周囲に杏の彼氏であることを流布した。
ついでに何度目かのデートでやらせてあげると男はすぐに杏に靡いた。
善良子の彼氏が周りが童貞を卒業していくのに焦りを覚えていたのも一因だろう。
善良子が真面目でそういった性交渉を行っていないのも功を奏した。
そうして杏は男が自分のものになったのを確信して仕上げに入る。
「あっ、待った?」
善良子が待ち合わせ場所に来たのを見計らって、杏は善良子の元彼の手を取る。善良子は意気揚々で待ち合わせしていたがそれを踏みにじるように杏が横から掻っ攫っていく。
「そういうことだから」
善良子にあっかんべーをした杏は男と手を繋いで去っていく。男と善良子は絶望の表情をしていた。
まあすぐに別れるけどね、あーしから見たら結構ダメ男だったし。魅力的に思えなくなった男にとっくに飽きていた杏はしばらくして男と別れた。
そんな出来事を自慢げに話すのを四葉は隠れて聞いていた。いや聞いてしまったが正しいだろう。
図書室の奥で本を読んでいたら、誰もいないと勘違いして杏が一部始終を自分の取り巻きに教えていたのだ。もちろん、誇張もあるかもしれない。
それでも四葉は杏が善良子にした仕打ちを聞いてしまっていた。
だから杏は善良子に恨まれる理由を持っている。
ゆえに魔女ではない。と四葉は確信していた。
だから杏に対しては恐怖を覚えない。
何を言われようと怖くない。杏は確実に殺される側だからだ。自分と同じだからだ。
四葉は杏の後ろを四つん這いで歩いていく。
「マジ豚だし」
船に降りた杏が、四つん這いで歩く四葉を見て笑う。
再び四葉は杏に対して怒りが込み上がってきた。
「善良子ちゃんの彼氏を奪った杏ちゃんなんて早く魔女に殺されてしまえ」
反撃するように杏の罪を四葉は暴露した。
「な、なんでそれを豚が知ってんだ」
「杏ちゃんが自慢のように話してたとき、図書館にうちもいたんだもん」
「はあ、盗み聞きとかマジありえねーし」
「気づかない杏ちゃんが悪い! 死ね、死んでしまえ。魔女に殺されてしまえ」
「違うし。あれはあっちの男が誘ってきたのをでっち上げただけだし……あーしは被害者だし」
「嘘、嘘、嘘!」
「だから違うし」
杏が四葉に掴みかかる。
「そこまで」
それを十塚が止めた。
「こんな狭いところで喧嘩はやめよう。それによ……」
杏と四葉を引きはがして十塚は続きの言葉を言った。
「俺は船酔いするんだ。船を揺らさないでくれ」
「ふぶっ……」
その一言がツボだったのか七種が笑う。
一触即発の雰囲気だったのに、十塚の冗談と七種の笑いがその場を和ませた。
「じゃあ気を取り直して……」
「と言ってもここに何かがあるとは思えませんが?」
「水中にあるとか……」
「中に入りたくないし。ってか何かいるの見えてるし」
「うわ、それ言うか。考えないようにしてたのに!」
「というかこの船って進むのかな。上り階段ってたぶん向こう側だよね……」
海が広がり、障害物もないぶん遠くが見渡せた。対岸には確かに階段らしきものがあるのが見えている。
「船に何か仕掛けがないのか。少し探してみよう」
満員電車ほどではないがそれなりの窮屈さががあった。
それでも誰一人も文句を言わずに小さな船を捜索するとすぐにスイッチのような突起を見つける。
「押すしかないよね」
何が起こるか分からなかったが、押さなければ進まないように思えた。
「ああ……」
十塚が代表で頷くと、淳はそのスイッチを押した。
ぶぉおおおぉんと音が響き、海が揺れ始めた。
波だ。
「動いたし」
「やべ、酔う」
「ぶふっ……」
船が波によって上がり階段のほうへと動き出していく。
同時に海中に佇んでいた影も動き出す。六人は船の向かう先を見ていて、それには気づいていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます