全滅編 第12話
翌朝になった。
六人全員が食堂に現れて、この中に魔女がいるのだとしても全員が生きていることに安心して、肩を撫でおろした。
安堵からか誰かの腹の虫がぐぅと鳴った。
顔を逸らしたのは杏だったが、誰もそれを指摘などしなかった。
腹の虫が鳴かなくとも全員がお腹を減らしていた。
「缶詰なら大丈夫なんじゃないか。少なくとも封は開いていない」
「ぼくもそんな気がします」
十塚の考えに淳が同調する。
「なんでそう思えんの?」
訝しげに杏が問いかける。
「全員が餓死なんて魔女は望んでないんじゃないかな……最初からそれでもいいと思っているなら、宿屋に食料なんて置かない」
「でも二ヶ瀬くんは死んだよ……」
四葉の言い分ももっともだ。
「留次がよく間食しているのはぼくたち同級生なら結構な数が知ってた。留次が鯖の缶詰なんかが好きならともかく、ここでも間食するって分かっていれば手に取るのは果物のほうが可能性は高い。毒を入れるなら果物だと思う」
「だから缶詰は安全?」
「絶対じゃないけど密閉された缶詰に仕込むなら穴を開けるなり何なりしないといけない」
「じゃあ穴の開いてない缶詰なら食べれるってこと?」
杏が期待して問いかける。
「だと思うよ。不安なら食べないほうがいいけど」
「食べる。ぜってぇ食べる。お腹が減って仕方ないし」
杏は食堂の棚に入っていた缶詰を吟味し始める。目を凝らして穴が開いてないか、一度開けて閉じたような感じはないかを確認していた。
そうして恐る恐るツナの缶詰を開けて、近くにあった箸立の箸を念入りに台所で洗ってから抓む。
「うっ……旨すぎるっしょ、これ」
杏が一口、二口と箸を進めて、一気に完食する。
市販のツナ缶だが、お腹が減った杏には極上のマグロのように感じられた。
「次はどれにしようかなあ」
杏がある意味で毒味したことで安心したのか、他の五人も缶詰を物色し始める。
全員が円卓を囲うように座り、色とりどりの缶詰を食べ始めた。
「これが誘拐なら、日にちも経ってるし、警察も動き出してくれてるはずだ」
「それって、魔女なんか見つけなくてもここから出れるってこと?」
「つかだったらあーしらここにいればよくね?」
十塚の言葉に四葉や杏が期待するが、
「それは分かりませんよ」
「同意」
蒔苗が否定して、その意見に七種が賛同した。
「魔女は最初からここで片をつけるために私たちを連れてきたのです。そもそも待ち合わせ場所にやってきた時点で私たちは罠に嵌まっているんです」
「そんな用意周到な魔女が、警察が見つけてわたしたちが助かったなんてお間抜けな結末を望んでいると思う? 望んでないわよ、きっと」
「それに魔女はこの中にいるのでしょう? 宿屋で待機していたら、ひとりずつ殺されていくだけですよ」
蒔苗の推測は容易く想像できた。杏が絶句する。
「ならどうする? 魔女を特定するために上に向かっていくか?」
「それしかないと思いますが……?」
「だよなあ。けどそれこそ魔女の思うつぼのような気もする」
「どういうことですか?」
「俺が魔女なら……」
その言葉で四葉がおびえ、蒔苗と七種が十塚へと視線を向けた。
「待て待て、仮に、だ。仮に。俺が魔女なら、ここにいるのは危ないって言って上の階に扇動するけどな」
「つまり私が魔女だと言いたいと? ばかばかしいです。あなたこそ、善良子さんのことを知らないと言っていましたよね? だとしたらあなたが魔女なのでは?」
「いや今は知っている」
「それ、どういうこと?」
「彼女が水出善良子なんだろ?」
十塚が写真を円卓の上に置いた。高校時代の、満面の笑みを浮かべている水出善良子が写っていた。
「なんでこれを持っているんですか?」
「昨日、寝る前に俺の部屋に置いてあった。それを見てこの子が水出善良子だってわかった。なら俺は見覚えがある」
「どういう繋がりなの?」
「言いたくはない。だがとてもひどいことをした。恨まれても仕方のないことだ」
だからと言って殺されたくはないけどな、と十塚は付け加えた。
「まあ、このような物があったからと言って魔女ではないという証拠にはなりませんよ。むしろ――」
蒔苗が突っかかるように言う。
「もうやめよう」
十塚が何か反論しようとしていたのを淳が止める。
「言い争っていても意味がない。ぼくたちは等しく罪人で等しく容疑者ってことだ。誰が魔女かは手がかりを集めればわかるようになっているんじゃないかな? それに魔女を指定する装置みたいなのは最上階にあるんじゃなかった?」
「結局、全員で先に進むしかないって話?」
「まあそうなるわよね」
結局そう結論を出した。結論としてはそれ一択しかないのだが、それでも納得するためにはなんであれ話し合うしかない。
全員が納得して結論を出したという体を作って、一致団結するふりをして進むのだ。
魔女がこの中にいるからといって単独行動すれば狙われる可能性も、魔女だから誰かを殺すために単独行動すると疑われる可能性もある。
行きつくところに行きついて全員で進んでいく。
不思議なことに草原、森、川エリアでモンスターには再度、遭遇しなかった。
まるでそこで死者が出たからもはや必要ないと言わんばかりの静けさで、その静けさが全員にとって不快でしかなかった。
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