全滅編 第11話-1
「明日、十一時ね。よろしく」
ある日の放課後、志津子は素っ気なく善良子に時間を告げた。明日の集合時間。待ち合わせはいつもの場所なので告げない。
志津子は遅刻を指摘されても善良子を自分のグループに特別に入れてあげていた。理由は報復のためだ。
もっとも試験も近く、今は下手に成績を落としたくなかったという理由もあるがそれはついでだ。
善良子が小さく頷く。善良子は行けないときは行けないとはっきり告げる。
「あたしはちょっと遅れるかもだから、少し待っててね」
「分かった」
善良子の答えに志津子はほくそ笑む。
善良子を省いて作ったLINEに「集合は十時」と書き込む。
あの一件以来善良子を省いたLINEができていた。
ただしそこに善良子の悪口は書き込まない。それが証拠になってイジメ扱いにされてしまうと自分たちのこれからの人生に支障が出るからだ。そのSNSの目的はあくまで善良子を省いて遊ぶときの連絡用だった。
善良子への悪口は省いて遊んでいるときに言いまくればよかった。
善良子の悪口をひとつ言えば胸がすっとした。正義感丸出しの人間の欠点を取り上げてコケにすることほど楽しいことはなかった。
何もかも手に入れたような印象をもつ芸能人の不倫を、サイテーサイテーとネットでコケにするような感じに似ている。けどそういう証拠を残したくない志津子たちは決して文字には残さない。
翌日、志津子は善良子が集合場所にきても迎えになんて行かなかった。
十一時にいることだけを確認して、あとは放っておいた。
いつまで善良子は待っているんだろうか。
「善良子、まだ待ってるよ」
時間は十八時を回っていた。そろそろ遊び疲れて帰ろうとした頃だ。
善良子が帰っているか帰っていないか仲間うちで賭けをしてから確認しに行くと、善良子はまだそこにいた。
賭けに勝った志津子は賞品であるジュースを奢ってもらってそのまま帰った。
いつまで善良子はそこにいるつもりなのか想像してニヤニヤした。
翌日、善良子は風邪を引いて休んだ。それには思わず笑った。
「ねえ、なんで日曜日、集合時間に来なかったの?」
風邪から復帰した善良子を志津子は問いただした。その様子をにやにやと志津子の取り巻きが遠くで眺める。
「私は十一時にいたよ……?」
「はあ? 集合時間十時だったんだけど?」
それを言い訳と捉えて志津子は身勝手に糾弾する。
「でも十一時って聞いて」
「証拠は? ここに十時って書いてるんだけど」
善良子を省いたLINEを見せて、『集合は十時』の文を読ませる。
それが届いてないことを善良子は理解しただろう。
「遅刻は遅刻なんだよね? 約束破るやつとかいらねーから」
かつて善良子が言った言葉で皮肉を込めて
「じゃね。バイバーイ!」
志津子は善良子を突き放した。
それが仲間に入れてやったのに裏切った善良子に対する志津子の報復だった。
「遅かったか」
部屋の隅、滝の傍の岩壁にもたれかかるように志津子は死んでいた。
腕には蛇に噛まれたような跡。その近くにハブに似た蛇のモンスターがいた。
その蛇が志津子を噛んだらしい。
「モンスターに襲われても意味なかったんじゃなかったのですか?」
四葉へと疑念の目が向けられる。四葉は確かにゾンビに襲われていたが外傷はない。
「一宮さんだって見ていたじゃない。うちは無事だった」
「まあ、待てよ」
十塚は剣で蛇モンスターをつつく。するとそのモンスターから被攻撃エフェクトなど出ず、少し怯んだだけだった。
「こいつだけ本物みたいだ」
「モンスターの中に本物を紛れ込ませていたということですか。確かに見分けはつきませんが」
「ってかハブって毒持ってたっけ? あーしには噛まれたぐらいで死ぬとは思えないんだけど……」
「アナフィラキシーショック……とか。そもそも蛇が嫌いなのはその辺に関係しているのかも……?」
淳の推測はなぜだかしっくりと来た。
それで思い出したのか、
「あー、そういえば志津子のやつ、沖縄でハブに噛まれたことがあるって言ってたかもしんねーし」
杏が推測を裏付ける。
「とりあえずまた宿屋に戻ろう。彼女をここに放置するのもまずい」
十塚が提言すると、「えー、マジで」と杏が難色を示した。
そんなに遠くはないとはいえ、戻ることに抵抗があるのだろう。
「キミだって放置されるのはイヤだろ」
「死んだらそんなこと分かんねーし。つか死なないし」
杏は反論してみるものの、
「まあ、なんつーかそこまで言うなら、戻るし」
実際には放置されるのがイヤだったのだろう、大人しく付き添うことにした。
特に杏以外は反論しなかったので十塚が志津子を背負う。
滝から飛んできた水飛沫で志津子は濡れていたが十塚は気にも留めなかった。
淳が先頭を行き蒔苗が殿。モンスターが妨害してきても追い払えるように自然とそうなっていた。
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