全滅編 第8話-2

「二ヶ瀬くん、学校でお菓子食べるのはよくないと思うよ」

「はあ? 校則に書いてあんの?」

 留次は学校で間食を控えていたけれど城ケ崎が矢作なんかと付き合っていたことに腹が立って耐えきれなかった。

 そんなときに限って水出善良子が目敏く注意してきた。

 留次は無性に腹が立って子どもじみた言い訳を返す。

「いや書いてあるとか書いてないじゃなくて……常識として、ね?」

 ね? とか言われても。留次は正直困った。げんなりした顔を見せて食べかけのお菓子をゴミ箱に捨てる。

「食べ物を粗末にしちゃ……」

「お前が食べるな、って言ったんですけど。餓死しろって言ったんですけど?」

 完全なやつあたりに周囲が注目する。

 部活でも活躍していて成績もいい人間なら何を言っても許されるのか、他の同級生どもが、全員が全員ではないけれど留次に冷ややかな視線を送る。

 ああ、むかつく。むかつく。またお菓子が食べたくなった。教室で食べればまた善良子がいいこぶって何か文句を言うのだろう。

 貧乏ゆすりしてイライラを見せつけて、授業の間の小休憩で善良子に隠れてお菓子を貪った。

 こそこそそんなことをしている自分がで妙に滑稽でイラついた。

 ストレスを減らすために始めた間食がむしろストレスの原因になってしまっていた。

 マジふざけんなよ、留次は苛立った。

 そうだ、善良子に責任を取ってもらおう。思い立って留次は善良子の弁当を盗んだ。

 体育で女子が更衣室に行ったのを見計らえば簡単だった。

 財布やスマホは持って出るけれど、弁当を持って出る女子なんていない。

 男子には更衣室なんて用意されてなくて差別が甚だしい高校だったが、それでも教室で着替えられるというのは幸運だ。

 最初に教室から出て、全員が出たのを見計らって戻り、弁当を盗んだ。その弁当はどこか外にでも捨てておけばいい。

 いつもやっているゲームよりも簡単すぎて留次は笑う。

 昼休憩になって善良子が弁当がないことに気づいた。留次はその様子を陰から見守る。

「どうしたの? 善良子。ご飯食べないの?」

「ごめん。弁当忘れたみたいだから食堂行くね」

「そっか。じゃあたしらも行くわ」

 善良子が所属している女子集団が食堂へ向かっていく。

 留次はその善良子の姿が滑稽で面白かった。

 胸の中のイライラがすぅーと収まるのが分かった。

 体育の授業は毎週四回はあった。そのたびに盗んで盗んで盗んだ。

 ストレスがなくなっていくのが分かった。

 ダイエットしてるとかちょっと金欠で、とか言い訳して善良子は弁当がないことを隠し続けていた。

 「ぐぅ~」

 午後の授業で善良子の腹の虫が鳴ったとき、留次は声に出して笑いかけた。サイコーだった。



 二個目のリンゴを食べつくし三個目のリンゴに突入する。暴食が止まらない。

 三個じゃ足りないかも、なんてことを思いながら一口、二口とリンゴを齧る。

 三口目で変な味がした。

「うえ、なんだこれ」

 ペッと吐き出そうとしたところで突然苦しくてなって倒れる。息苦しくなって首を押さえた。

「まさか……」

 毒? だとしたらゲーム理論なんて語った僕は間抜けすぎる。死ぬ間際にルイジは軽率な発言をした自分を呪った。

 そもそもルイジは勘違いしていた。これは脱出ゲームを語っているが、そこでは現実として人が死んでいるのだ。

 【魔女は、『水出 善良子』を殺した人間を許しはしない。お前らは全員が罪人である】

 そう宣言している。だから油断などしてはいけなかった。

 宿屋が安全だと思ってはいけなかった。唯一の安息地だと思ってはいけなかった。フェアだとは思ってはいけなかった。もはやこのビル自体が魔女が罪人を狩る舞台なのだから。

「ちく……しょう……」

 留次は泡を吐いて床に倒れた。

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