全滅編 第8話-1
留次は食堂からくすねてきたリンゴを食べながら水出善良子が生きていた頃の自分を思い出していた。
「お前、いつになったら仕事覚えるの? バイトだからって舐めてんの?」
「はい、すません」
「す・い・ません、な! もっとハキハキと喋れよ。雇うんじゃなかったよ、お前なんて」
「すいません!」
頭を下げてルイジは店長から離れていく。
お金欲しさにコンビニバイトを始めてみた留次だが、やるもんじゃなかった。これがブラック企業か、と後悔していた。本当は書店でバイトしたかった留次だが、全然受からず唯一受かったのがこのコンビニだった。
「お疲れでしたー」
「お疲れー、今日も怒られてたねー」
「すいません、毎日毎日」
「もう慣れたよー」
留次と入れ替わりで入る一個上の城ケ崎に挨拶して、仕事を終える。
城ケ崎はいつも屈託のない笑顔で挨拶を返してくれる。留次はバイトを何度も辞めようと思ったけれど先輩の笑顔に癒されて耐えられていた。
城ケ崎と同時間帯に入る大学生の矢作もいたがこっちは挨拶をいつも返してくれない。
留次としては城ケ崎のついでに「お疲れ様」と彼をねぎらっているつもりだったのに。
「二ヶ瀬くんに挨拶返してあげなよー」
「あいつ仕事遅いから嫌いやねん」
バックヤードから出る間際、そんな声が聞こえてきたけれど留次は無視をした。
矢作のやつ、うぜーこと言いやがって。店長だってバイトに高望みしてんじゃねぇーよ。ああ、腹が立つ。むかつく客もいたし、むかつくことだらけだ。決して言葉には出さないが、心のざわめきは収まらない。留次のストレスは溜まる一方だった。
バイトの帰り際に留次はお菓子を買う。買いたいゲームがあったからバイトを始めたのに、バイトで溜まるストレスを発散するために間食が増えた。最近では給料がだいたいお菓子代に消える。
食べ過ぎは良くないかもしれないが、煙草や麻薬に手を出すバカよりはマシだ。それが留次の持論。
留次にとってお菓子はある種の精神安定剤だった。
ある日、久々に留次はバイトを休んだ。店長は文句を言ってきたが、それでも代理を頼んだんだから文句を言われる筋合いはないはずだった。
そもそも代理を頼まないと休めないというふざけた制度が留次にとっては意味不明で、それを甘んじてる店長を留次は社畜と思っていて、ああはなりたくないとも思っていた。
久しぶりの休みにすることは決まっていた。新作のゲームだ。何か月も前から待ち遠しかった。シリーズものの最新作。意気込んで朝一で電機店で予約していたゲームを受け取る。
その帰り、留次は城ケ崎と矢作が手を繋いで歩いていたのを見た。
なんだよ、付き合ってたのかよ。なのに僕に優しくしやがって。マジビッチじゃんか。ルイジは無性に腹が立った。
自分に気がある、とまでは思ってなかったが、それでもどこかそうなることを夢見ていた。
バッカみたいだ。ああ、このクソビッチめ。
この日以来、失恋にも似た消失感を埋めるようにルイジの暴食は加速した。
今こうして魔女狩りの最中に間食してしまっているのもゲームを楽しんでいるふりしてどこか巻き込まれたことにいらついているのからだろう。心がざわついていた。
自分の命を脅かす、どこにいるか分かりも知ない魔女に対してか、それともこんな事態に巻き込まれた原因である自分の過去の行動に対してか、それは分からなかった。
留次はざわつく心を落ち着かせるように、りんごを食べていく。暴食を進めていく。
クソ食らえな思い出を思い出したせいで、城ケ崎と矢作が出来婚したことを思い出す。もう無関係なはずなのになぜだか無性に腹立たしくなった。
りんご一個ではイライラが収まらず、二個目に突入する。
心のざわめきは収まらない。
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