第22話 終焉を紡ぎし者
深淵で触手をうごめかし初もうで客を待ち受ける邪神たちの姿があった。
「お客さんが来ないのです」
「御守りを増量するのです」
御守りは大きいからと言って、ご利益が増えるという事は無い!
邪神社のあるルルイエは人類の立ち入れぬ絶海の地、そんな所に詣でる客などいる筈が無いのだ!
「クトゥルーさん、何しているんですか?」
「ナチャがきたのです」
「早く詣でるのです」
何という事だ!
邪神社に初もうで客が!
いや、この場所に立ち入れるのものが人である筈が無い。
そう、彼女は、終焉を紡ぎし者アトラナートだ!
「初詣は、街外れの神社に妹のティトと行ってきたところなので……」
「クトゥルーの御守りを着けるのです」
「ティトには、ふだを張るのです」
「きゃー、ティトがキョ○シーみたいに!」
「寒くてうまく張れないのです」
「触手が凍ってるのです」
「クトゥルーさんは、ずっと外で初もうで客を待っていたのですか?」
「新年になってから待っているのです」
「クトゥルーは、暗くても平気なのです」
「凍えてしまいますよ! クトゥルーさん、もしよろしければ、私の編んだ手袋を使ってください」
邪神の赤くなった手に、柔らかな毛糸の手袋が被せられた。
「わーい、あったかいのです」
邪神アトラナートの編んだ手袋をはめ、さらに活動的になったクトゥルー!
最早人類に、その侵攻を止める術は無い!
だが……。
「他の手は冷たいのです」
「一号も欲しいのです」
「触手は、沢山あるのです」
邪神が108本もの触手を一斉にうごめかす。
ぬらぬらとのたくり合う、何と恐ろしい光景か!
「わっ、わかりましたから……」
こうして、アトラナートは、今も深淵にて手袋を編み続けている。
全ての手袋を編み終わった時、それは、人類が終焉を迎える時なのだ。
故に、彼女は、終焉を紡ぎし者……そう、呼ばれているのだ……。
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