第23話 我慢
力無き人間が身をひそめようとも、邪神から逃れる事など不可能なのだ。
一時の平安を求め、疲れ切った心と体を休めようと身を寄せあう彼らに、邪神の魔の手が迫る!
「おじいさん、掃除が終わったのです」
「いつも、ありがとうねぇ」
「箒を元の場所に戻すのです」
邪神の箒は、借り物だったのだ!
「おにぎりがあるよ、手を洗っておいで」
邪神が手を洗うには時間がかかる!
触手が108本もあるのだ、人間の108倍かかる。しかし、無限の寿命を持つ邪神には、些細な時間でしかない。しいて言えば、お湯が沸くくらいの時間だ。
「わーい、おにぎりなのです」
「あったかいお茶もあるよ。小さいのは妹さんかな?」
「一号なのです」
「二号は、ルル家でお留守番なのです」
「そうかい、それじゃ、二号さんのおにぎりも持って帰ってあげなさい」
邪神は二つもおにぎりが貰えてしまった!
右手と左手の両方におにぎりが握られている。
いったいどうやって食べればいいのか!
「右のおにぎりを二号に残して、左のおにぎりを食べるのです」
だが!
左のおにぎりを食べようとした矢先に、右のおにぎりが既にかじられている!
「おかしいのです。やっぱり、右のおにぎりを食べて左のおにぎりを持って帰るのです」
しかし!
右のおにぎりをかじろうとしたまさにその時、左のおにぎりも何者かにかじられていたのだ!
「何かが起こっているのです。クトゥルーが食べようとするとおにぎりが減っているのです。きっと、クトゥルーには、食べようとするだけでおにぎりが食べる前に食べれる能力があったのです」
何という事だ!
邪神にさらなる能力がっ!
右を向いている間に左のおにぎりを、左を向いている間に右のおにぎりを触手がかじっているのだ!
何と恐ろしい事だ!
「このままでは、おにぎりが無くなってしまうのです」
「食べたい気持ちを我慢して、急いで帰るのです」
邪神は、我慢する事が出来たのだ!
強大な力を持ち、貪欲に喰らい尽す怪物でありながら、本能のままに行動する獣などではない。
狡猾な知恵と残忍な忍耐を持ち合わせている。
人類は何と恐ろしい相手を敵に回してしまったのだ……。
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