第21話 魔素

 邪神の侵略の魔の手は、世界中ありとあらゆるところに忍び寄っていた。

 大型店舗に客を取られた寂れた商店街にまで及んでいたのだ!


「街のゴミを片付けるのです」


「ピカピカにするのです」


 地面に落ちているゴミから、看板にたまったほこりまで、無数の触手で次々と片付けられていく!


「店の中も掃除するのです」


「古い本は捨てるのです」


 古ぼけた店主が営む古書店、古井本屋が邪神に目を付けられた!


「ここにある本は、何人もの人の手を渡り、多くの人に読まれたんじゃ。それだけ多くの人を感動させた、古くても大切な本なんじゃよ」


「本はゴミじゃないのです」


「古い本も大切の扱うのです」


 邪神は触手を振り上げて、本棚に襲い掛かった!


「奇麗になったのです」


「次の店に行くのです」


 何と言う事だ!

 破れた表紙はつくろわれ、日焼けした紙は白く輝くほどに、人間の手あかにまみれた古本が新品そのものになっている!


「ようこそ、ブックストアHURUIへ!」


 華麗なステップで客を出迎えるのは、古ぼけた店主、であったはずが……、彼の体は、邪神の魔素によって、本来とは似ても似つかぬ姿に変えられてしまったのだ!

 明るい色に染め上げられた髪に、瑞々しい皺ひとつない肌、まるで、二十代の青年ではないか!

 何と恐ろしい事だ。

 もう誰も彼を古ぼけた店主であったものだと、認識できる者はいないだろう。

 それほどまでに、変わり果てた姿となってしまったのだ……。

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