話の出来る奴、出来ない奴。

ルートでバイトを始めてから一か月くらい経った時の出来事。


ペットショップと言えど、ゲージの中はほとんどが隣の獣医が拾ってくる負傷した動物たち。治療済みで里親待ちの動物が多い。

稀にレアのような、変わった珍獣もいたような気がするが。

あ、そうそう。デブ悪魔とは時々通話?頭話?するようにもなってきた。

でも僕はレアの見てる物しか見えないし、声もレアが近くに居ないと聞こえないのに、レアは僕らの声が100メートル先からでも聞こえてるみたいだって亨が言っていた。


「玲、玲っ!」

「あ、はい、はい。ここです」

ゲージの掃除をしていた時に亨が焦ったように店に飛び込んでくる。

「お前、今夜暇か?この前の靴の奴見つけたんだよ!行ってみようぜ。」

(なんで楽しそうなんだよっ!しかも意味不)

「え?見つけた?どういうことですか?知ってる人なんですか?」

「はぁ?足だけで知ってるかどうかなんてわかるかぁー!あほかっ」

(言い方!!!)

「あほかって…。とっちゃん(昔から亨に対してこう呼んでいる)が、今見つけたって言うから…。」

「お、すまん。なんだあれだ、靴がここに来た原因ってやつを見つけたんだよ。で、暇だろどうせ。なっ車、運転させてやるから。現場見に行こうや」

(え~え~どうせ暇ですよ。車って言ったって、くっそ派手な痛車並みの箱軽じゃんか。)

《トール、またコヤツ文句言ってるぞぉ》

「玲!」

「いやいや・・・えへへ…。うるさい悪魔!チクるなよぉぉぉぉ」

レアの髭を引っ張ってやった。猫と僕のじゃれ合いを見ながら

「よし!病院が終わったらすぐに行ってみようや。ここで待っててな」

鼻歌でも出そうなくらい、やたら上機嫌で隣に戻っていく亨。いったいどこに行くのやら…。

この時は僕がこの先、亨の趣味を手伝わされる羽目になるとは思いもしなかった。


店は19時に閉店した。隣は21時まで診療。

レアと二人?きりになったのは、初めてだ。

(なぁレア。お前って誰の声でも聞こえるのか?)

《あぁ?聴きたいものしか聞かないぞ?ワイはお前のような変態ではない》

毛繕いをしながら答えてくる。そうだよな、手を止める必要なんてないんだ。

(はぁ?僕は変態じゃない!!!じゃあさぁ、誰とでも話せるの?)

《話せるわけじゃない、ワイの声はトールと爺ちゃんとㇾーだけ聞こえるみたいだな。》

(親父や母さん等には声は聞けても話せないってこと?)

《そうみたいだな。聞こえても聞こうとしなければ聞こえてないも同じだな》

なんだ?猫の癖にやたら哲学的だな。

(そっか。じゃあ最初に話したのはとっちゃんか~)

《そうだ。トールは『生きろ、頑張れ』とな、呪文のようにワイに語ってくれてな》

(あっ!!そうかそうか。最初にお前が喋ったのは、とっちゃんへの感謝の言葉だな、うんうん)

《いや。『うるさいよ、お前』がワイが最初に放ったことばじゃな》

なんじゃそりゃ。必死に治療してくれてる人にそんな偉そうに言わなくても…。

(その時のとっちゃんの反応は?)

《真っ青になって、キョロキョロしておった、カカカカカカ》

まぁ、この前僕もビビったけれども。

《だがな、運命を変えてはいかんのな》

(運命?)

《そうじゃ。自然ならワイは生き延びられなかったな、そういうもんなんじゃな》

(三毛の雄は50年に一度出現するかどうかって言われてる貴重な命だよ?)

《いんや、三毛の雄は沢山生まれとるが母猫に見捨てられ死ぬのが運命なのな》

(え?母猫が育てないってこと?)

(そうじゃ。兄弟だけ他へ連れて行ってワイだけ残された。トールと会わなければ三毛かどうかも分からないうちに死んでいたのじゃな。だから数が少ないのな》

(母猫には三毛の雄だってわかってたってことなのかな?)

《さぁな、母猫が嫌う何かがあったのじゃな》

レアが僕を見上げてる。なんか、シンミリとなってきた…。

そこへ「おっまたぁ~~~~~」場違いなほど明るいトーンで亨が裏の母屋からやってきた。

いつの間にか、21時をとうに過ぎていた。

さぁて、どこに連れて行かれるのやら…。

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