血統
猫矢しき
ペットショップ・ルート
この店にアルバイトで雇ってもらった最初の日の出来事。
家が近くということもあって激頻で来てた場所だった。
「ねぇ、この猫って血統書付なんだってぇ~。」
店に不釣合いな甲高い声に目を向けた。
どう見たって水とか風とで働いている風体の女と、親子ほどの歳の差がある男が一つのゲージの前でイチャついていた。
あれ?何時入ってきたんだろう?
(血統書って、よく見ろよ~『血族書付』って書いてあるだろ。どこにでもいる雌の三毛猫だって。)
プレートには血族書付とあり、その下には猫族と記載してあり値も無しである。
僕は笑いがこみあげてくるのを呑みこんだ。
ここは小さなペットショップ。隣は動物病院。どちらとも名は『ルート』
ペットショップも病院も経営者は卯月亨。
獣医であり、ゲージのプレートの書き方でもお分かり頂けるであろう変人である。
僕は卯月玲。オーナーの従弟で獣医志望の大学生。このルートのアルバイト兼研修生兼亨の趣味の弟子?である。
暫くして自動ドアが開く。
「わぁ!でっか~~い!何この子~カワイイ~もっふもふ~」女がドアから入ってくる珍獣をみてはしゃぐ。
(あぁ、それ。持って帰って良いよ~)と思った瞬間・・・。
巨体の癖に猛ダッシュで僕の居るカウンターへ『ドぉンッ!』
飛び乗ったかと思うと、カウンターの上の伝票やらパンフレットやらを撒き散して、振り返り僕をチラっと見て、プイっと踵を返し、何もなかった風に尻尾をピンっと立てながらまた女の方へ走り寄って猫特有のスリスリやってやがる。
(クソッ!)
あの物体は、かなり珍しいと言われる三毛猫の雄。
このペットショップが出来たころ産み捨てられた可哀想な猫だったらしいが、今となっては想像すらできない生い立ちである。
飼い主は言わずもがな亨だ。
病院と店を行き来して、病院に来る飼い主さんやらショップのお客さんに文字通り猫かぶって愛想を振舞う悪魔。
ただ、こいつは人の思いというか考えを見透かす厄介な奴。
その名はレア。(何がレアだよ、デブだろっ!)
そのレアが撒き散らした散乱物を拾っていたところに内線が鳴る。
隣からだ。
「おつかれ、そこにケバイ女と爺さんカップルいるか?」
「おつかれさまです。あ、はい、来ておられます」
「犬の治療が終わったから来るように言ってくれ(プツっ)」
(言い方!!切り方!!)いつもの事だけどちょっと腹が立つ。
「あの~お客様、わんちゃんの治療が終わったようなので病院の方へお願いします。」
「え~わんこじゃないわよ~フェレットよ~(頭を指さしながら)大丈夫ここ?」
「すみません・・・。」(亨め~!!!!てか、はよ行けやっ!)
自動ドアが開き男女が出ていく。カウンター越しに背中を見送りながら、残りの散乱物を拾う。
ヒラヒラ~っと伝票が風に飛ばされる。
あれ?風?空調も止まってるしまさか、ドアが閉まってない?
入口の方へ目をやると、レアが自動ドアの手前で威嚇してフーフー唸ってる。
「なんだなんだ?何が居るんだ?レア?」と駆け寄る。
自動ドアが開きっぱなしになってる、誰もいないし、自動センサーに触れるような虫などもいない。
レアはチラっと僕を見上げてから、視線を戻しウゥゥ~と低い唸り声をだしている。
「何か見えるのか?」
腹這いになって、レアの視線に合わせる。。
「へっ?はぁ?靴?」
レアの視線に合わせる前には確かに何もなかった。
なんだよこれ?
所謂サラリーマンご用達の革靴といった方がイメージしやすいか。
その靴?は徐々に薄くなって、唐突に自動ドアが動いた。
「ひぃぃぃぃぃ」
真横には珍獣のでかい顔。
(もぉ~~~何なん?あれ!!!!)ビビりまくる僕の心中。
(足だろ?)と頭の中で誰かが呟いた。
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