第七章

 バルト海に浮かぶウーズナム島。ペーネミュンデの地下工場では、銀色のゴーレムと言った形態のアンドロイドが、ライトに照らされて輝いている。世界ロボット格闘大会では、条件を統一するために形状に制限がある。

 全高二百五十センチ以下、武器を取り外した自重四トン以内。独立電源で原則的に二本足歩行出来ることが必要である。

 カイザーは大会規定ギリギリの二メートル半、自重は三トン近くあった。どこか表面のとけた古いマネキンを思わせる。肉体はあえて人間に近づけず、機能性を重視している。

 それでも遠目では、銀色の巨人としてそれなりに人間らしく見える。赤く輝く丸い目は、無表情なだけに不気味だった。

 いま銀色のカイザーは「丸裸」で、うすぐらい空間の中央、手術台のようなところに横たわっている。各種のコードやセンサーが取り付けられ、ゆっくりと動いている。そのようすを見つめていた、白衣のやや大がらな女は、すこしみだれた赤い髪をうしろになでつけつつ呟いた。

「だいぶやられたわね。でも、まだまだよ」

 少し脂肪をまとった女科学者は胸をゆらせつつ、研究施設から出た。手にしていた厚いファイルを机の上に投げ出すと、視線を感じた。

 たっていたのは古風なスーツに蝶ネクタイ、丸い眼鏡に白髪交じりの蓬髪が不気味な老人である。杖を頼りにたっている。

 かたわらの人物は三十前か。連邦空軍の紺色の将校服をきている。

「ドクトァ・クラウス………」

「ファイト少佐は、紹介したな」

 顔にはいつもひきつったような笑みを浮かべていた。

「たしか空挺部隊の戦闘教官、とか。しかしカイザーはアンナと違って、訓練で進歩する機能はありませんから、教錬は必要ないと報告いたしました」

「だからこそ、その場その場での正確な指示がいる。違いますかな」

「カイザーはわがハイルの作り上げた最高の機械だ。

 当然君も理解しているだろう。機械はどこまで精緻に作っても機械だ。こわれれば修理する。古くなれば捨て去る。

 機械に人格をみとめだすなど、技術者にとっては堕落だ。機械はあくまでも人類に奉仕すべきものだ。

 技術が人間を支配することなど、あってはならない。

 我々は日々進歩する科学技術と人類社会の調和をはかり、暴走する科学を修正するための聖なる使命を帯びている」

「そのことは、入会式で近いました」

「しかし、あなたは最初カイザーの顔面造形にこだわったと聞きましたが。

なにか理由があるのですかな」

「……提案は却下されました。見ての通りよ。

 ともかくカイザーは優秀な戦闘アンドロイドです。そのつもりで設計したわ。

 ミナベじゃあるまいし、ロボットに感情移入なんてしません。機械は機械です」

「はははは」

 とファイト少佐は不気味に低く笑う。

「我々も兵器や武器に多少の感情移入はする。陸軍兵士にとって小銃は相棒。我々空軍兵士も愛機は大切にします。

 しかし兵器は壊れれば、破棄する。いやたとえ故障すらしなくとも、新しい武器を支給されたら、当然かえしますな。

 慣れ親しんだ突撃銃も、最新の自動照準装置つきのものにはかなわない」

 と言いつつ、ホルスターから銃をぬいてみせた。

「ただしこの骨董品のヴァルターは別でね。祖父の形見だ。

 これは官給ではなく個人の所有物でね」

「……カイザーは自律自動戦闘機械です。それ以上の存在ではありません」

「けっこう結構。今度のバトル・ステーションへの協力は、連邦軍の中でも多少問題視する声があってな。

 ファイト少佐も難しい立場だ。カイザーには、ぜひ勝ってもらわんとな」

「ええ。正々堂々とね」

 博士と少佐が廊下の果てに消えるまで見送っていたエーファは、呟いた。

「わたしのカイザーを、廃棄させてたまるものか。見てらっしゃい」


 アメリカ。エドワーズ高原の一角にあるユニバーサル・オートマトン社の特別応接室には、幹部が集まっている。

 いならぶ役員達に、ステファニー・アンダーソン工学博士は言いはなった。

「カイザーだってアンナだって、ワシコングの基本データぐらい手にいれています。われわれがアンナのデータを入手できなければ、決定的に不利になる」

 銀髪の社長は咳払いした。

「多分我々に極秘データを売りつけようとしている、同じ情報ブローカーからね」

「……当然です。そして彼らは多分、ワシコングのデータも入手しているはず」

 役員達がざわめく。

「無論まだそんな証拠はない。新日本でも数週間前、侵入さわぎがあったようです。しかし日本政府はなにも発表していない。

 我々がこのチャンスをのがせば、ワシコングに勝ち目はありません。社長、確かに大金ではあり不正なことです。しかし我々は負けられない。

 国際格闘ロボット大会では莫大な金が動き、株価に大きく影響を与えます。世界人口の三分の一がこの壮大な見世物に熱中している。その他……」

「もういい。きみにいわれずともよく知っている。

 いいだろう。ワシコング優勝のためだ。すぐに元はとれる」

 他の役員達もしぶしぶ認めた。大柄な博士は頭を深々とさげた。

「ありがとうございます。ブローカーに連絡します。

 ただし、受け渡しはわたし一人が責任持っておこないます。一度だけ使うメールボックスに、データが送られてくるはずです」

 アンダーソン女史は、左手首の「ユニ・コム」を操作した。


 暗く広いドームは、天井までの高さ百メートル。直系は二百七十メートルになる。ここならばどんな実験をしようが訓練をしようが、発覚することはない。

 金属でできた巨大な類人猿が小型のタンスを背負ったようなワシコングが、専用ボックスから歩いてでてきた。

 ドーム「中腹」にせりだした観測室では、ユニバーサル・オートマトン社の研究者、開発担当の役員と設計責任者のステファニーが陣取っている。

「ヤシマ製のロボ・セントリーをわが社で改造、ライセンス生産しているものに、アンナの基本行動データをインプットいしました」

 役員はメガネをあげつつ問う。

「データは本物だったか」

「ええ、まちがいなく。なんの異常もありません」

 ロボ・セントリーを改造した二本足歩行の準人型攻撃ロボットはワシコングよりも大きい三メートルほどになっている。

 いささかバランスも悪そうだ。良心回路は取り外してある。

「では、第一段階はアンナの格闘能力を知るために格闘戦からはじめます。

 ミサイルその他火器は、後方の格納庫にさげてあります」

「よろしい、開始したまえ」

 不恰好な格闘用セントリーは、ゆっくりとワシコングに近づく。銀色の巨大な機械類人猿は、長い手を軽くひらいて待ち構えた。

 しかしセントリーは突如たちどまってしまった。

「どうかしたか」

「さあ、これがアンナの戦術かしら」

 重いワシコングの動きはやや鈍い。なぜか立ち往生している格闘ロボに、近づいていく。

「ステファニー、様子を見たほうがよくはないか」

「ワシコングにまかせましょう」

 まるで無手勝流で立っている改造格闘ロボの二メートル手前で、ワシコングも停止した。相手の出方をさぐっている。

 突如格闘ロボ・セントリーは前のめりに飛びつき、ワシコングを両方のアームでつかんだ。

「はじまったわね」

 しかし格闘ロボはワシコングの胴にしがみつくばかりである。ワシコングは長い腕を交互に振り下ろし、敵ロボを殴りだした。

 格闘ロボはなんの反撃もせず、腕のついている胴体部分は相手にしがみついたまま、機械的で丈夫そうな両足をとりつけた下半身が、百八十度回転した。

 そのままロボ・セントリー改造格闘ロボは、ワシコングをひきずるように歩き出したのである。

 格闘ロボのほうがやや大きく、力だけは強い。ワシコングは殴り続ける。格闘ロボは上部構造を破壊されつつも、ドームの端へとワシコングをひきずっていく。

「ステファニー、なんだこれは」

 他の研究員達も驚き。騒ぎだす。

「これが、アンナの戦法なの、でも……」

「なにをしてるんだ。こんな戦法があるか。ともかく訓練は中止しよう」

 だが格闘ロボは指令にいっさい反応しない。ただドームの端、ミサイルなどを格納してあるコンテナにむかってワシコングをひたすらひきずっていく。

「なんだこれは。中止だ、ただちにとめろ」

 研究員の一人が叫ぶ。

「ダメです! 外からの指令を拒否しています!」

「重火器搬送コンテナにむかっているわ」

「ステファニー、やつをなんとかして止めるんだ!」

 格闘ロボはワシコングの抵抗で変形しつつも、確実な歩みをとめない。ミサイルや訓練用爆弾を収納しているコンテナまで、十メートルに近づいた。

 その時、無人のフォークリフトが突進し、格闘ロボにぶつかった。一瞬動きがとまったが、すぐに太く頑丈な右足で、蹴り飛ばした。

 数トンはあるロボ・フォークリフトは十メートルほど飛び、頑丈なコンテナの防護シャッターに激突して砕けた。

 その衝撃で頑丈なシャッターが破れ前に折れ曲がった。アームで固定されていた長さ二メートルほどのミサイルの一つがはずれ、壊れたシャッターによりかかる。

「まさか! ワシコングごとつっこむつもり」

「いかんステファニー、なんとか……とめるんだ。警備員を」

「おそすぎますし、危険です」

 博士は緊急避難警報をだした。この閉鎖された空間でミサイルが爆発すると大事態となる。

「実験ドームの天頂部と側壁の一部を急いで開放してっ!」

 巨大なドームの天井部分が、カメラのシャッター状にゆっくりと開きだした。太陽がさしこみ、ワシコングを照らす。まるで昇天をさそっているかのように。

 上部のレーダードームなどをほぼ破壊された格闘ロボは、よろめきながらも確実に、壊れたコンテナに近づく。ドーム内の作業員、研究班や警備員は大慌てで、広く開きだした各扉へと逃げていく。

「防護ジャッターとじて!」

 ステファニーが叫んだ直後、巨大なメタリックの類人猿をひきずり、火花を散らしつつ格闘ロボは壊れたシャッターの中へ突入した。

 そのときやっと、ワシコングをつかんでいた二本の太い腕を放した。その腕で近くにあった無反動砲の砲弾を持ち上げ、信管キャップを外してから、床に落としたのである。訓練または実験用の無反動砲弾が次々と誘爆、続いて訓練用ミサイルも爆発しはじめた。

 巨大ドーム内に轟音が響く。それは反響し重なり合い、逃げ遅れた人たちを音の圧力でふきとばした。煮えたぎる火の玉は茸状に伸び上がり、ドーム天頂の「窓」から、救いをもとめる赤い腕となって青空をつかもうとした。

 惨事はやがておさまった。数人がけがをし、ワシコングは半壊していた。


「それでは交渉は決裂ですか」

 エーファ・フランケンシュタインはクラウス博士の丸いメガネに、当惑した自分の姿が映っているのに気付いた。

 広く古風な総監執務室には、少し脂肪のついたフランケンシュタイン工学博士と、怪紳士クラウスしかいない。

 あと一人、連邦参謀本部が派遣したファイト少佐はエーファの隣に虚像で立っている。しかし足の先は消えていて、幽霊のようだ。

「あたりまえだ。情報ブローカーの売り物など信用できないし、第一対戦相手の盗まれたデータを買うなど、卑怯な行為は我々ハイルに相応しくない」

「でも、カイザーが勝つためなら、どんなことでもすべきです」

「ふふふふふ」

 と虚像のファイト少佐は、いつもの不気味な笑い声を低く発した。

「なかなか見上げたものです。たしかにアンナやワシコングのデータは惜しい。アンナの工場になにものかが侵入した事件がおきたのは事実です。

 これが、人の生死にかかわる実際の戦争なら汚いもなにもない。どんな手段をつかっても友軍の被害を少なくする。

 しかしロボットの見世物競技、所詮は賭け事ですからな。オリンピックなみにフェアに戦うのも、いいでしょう」

「カイザーは見世物じゃないわ」

「人に戦っているさまを見せている。しかも賭け事で大金が動く。競馬やレスリングとどこが違うのかな。

 わたしも戦技教官を要請されたとき、空軍はじめ連邦軍内で非難をうけたよ。世界的な見世物に光輝ある軍が協力するのか、とね。しかし我が軍の強さの源泉である、科学技術指導監本部の頼みだと言って、納得させた。

 わたし自身は名誉だと思っている。見世物で悪ければスポーツだと言ってもいい。だから正々堂々と戦うのもいいでしょう。

 特殊空挺部隊の戦闘技法が、あの武装皇帝パンツァーカイザーにどこかまで受け入れられるか、できるだけのことはやってみますよ。

 そしてプロイセン軍人魂も、叩き込めれば奇跡ですな」

 あの皮肉そうな笑みとともに、少佐の虚像は消えた。

 なにか納得できないような表情のエーファは、ため息をついた。総裁は執務机に両肘をついて、手をくんで顎をのせた。灰色の髪は伸び放題でいささか不潔である。しかし旧式なメガネのおくで、眼が炯炯と光っている。

「エーファ。君があの少佐を好んでいないことは判る。

 カイザーを高性能戦闘マシンとしか扱わないからな。しかしわたしは少佐のほうが正しいと信じている」

「それは……わたしも」

「データを売りつけようとした情報ブローカーの背後には、世界平和クラブと言う資産家の利益保護団体がいるらしい」

「あの、世界の株価を強引に操作しているという」

「株価の操作のためには、テロを仕組み戦争を煽る、外道の守銭奴集団だ。

 そんな連中の手先とはかかわらないほうがいい。我々は誇り高い技術騎士団だ」

複雑な表情で、エーファは立ち尽くしていた。


「なに、ワシコングが辞退するじゃと?」

 築地の名門料亭「佳つら吉朝」のはなれでは、定期的な「情報交換会」が行われていた。二十一世紀も半ばになるこの頃、昔ながらの料亭政治を好むのは、この防衛族巨魁の首相、上田哲哉ぐらいだろう。

 この料亭は上田の師でもある故・大物政治家の愛人が経営しており、なにかと融通がきく。上田自身は古風な居酒屋が好みだった。

 二等佐官田巻己士郎は、いつものブルーがかった灰色の、ボタンの見えない一種勤務服に銀色の参謀飾緒をつっている。軍令本部要員の兵科色である。

「ええ。事故がありましてね」

 内閣総理大臣上田哲哉は猪口をもつ手をとめ、細い目を見開いた。

「アンナももうすこしでスクラップにされることでした。同じ情報ブローカーが、同じ手をつかったようでんな。無論後ろで糸引いてるのも同じ。

 対戦相手の基本行動プログラムを売りつける。そのなかにたくみに、自爆プログラムを仕組んでおく。解析不可能な暗号でね。よう考えてはる。

 こっちはあらかじめシミュレーションをしなかったので、危ないところでした。

ユニバーサル・オートマトン社は大変なダメージですわ。しかし不正に入手したプログラムに罠が仕込んであったとは公表出来まへんわなあ」

「国際情報ブローカーはなにをしたいんだね。バトル・ステーションの妨害かや」

 田巻は統合防衛大学校を出ていない、唯一と言っていい参謀だった。京都の私大を出た後、当時の防衛省関係の広報雑誌を担当していた。

 十数年前の「新宇垣軍縮」こと防衛機構大改革で、陸海空の自衛隊が止揚統合された「どさくさ」に、当時の上田国防大臣の強い推しで任官した。その陰険で慎重な性格で、情報部門では重宝がられ、一貫してその方面で暗躍している。

「背後に世界的投資マフィア、例の世界平和クラブがいますな。アンナの事件の直前、オートマトン社の株がダミー会社に買い続けられていたそうです」

「ほう……それは初耳だ」

「凡ては仕組まれていたんですな。やつらの工作が成功してアンナがダメになれば、オートマトン社の株価はさぞあがったでしょうな。

 ワシコングの事件の前には、なにものかが新日本機械工業の株を買い集めていたんです。オートマトン社の試験ドームでの事故がニュースになると、新日本とクライネキーファー重工の株価がはねあがりました」

「……では、実質カイザーとアンナの一騎打ちか」

「案外、中国の地震もやつらの仕業かも知れへん」

「ま、まさか」

「それはさすがに冗談ですが。まあ、大型ハリケーンは某大国が操ってますがね。

 それで、アンナの警備はさらに厳重にしておく必要があります。世界平和クラブは、K社の株をさらに買い増しているようですから。

 現在までの推計で、賭けのレートはカイザー二に対してアンナは一や。圧倒的にカイザーの人気が高いですな、当然ですが」

「なんとしてもアンナに勝ってもらわんと。

 わが国と国民は、アンナに賭けておるからな」

 かつて上田は、新日本機工のライバルである八洲重工のロボット兵器を推していた。ヤシマは武器メーカーとしても世界有数だった。

「ヤシマはんかて今やアンナを推してます。自社の部品が使われていることを、アピールしてますな。

 それに……アンナみたいな完全ヒト型ロボの需要は、ますます増えますし」

 日本の人口はすでに一億二千万人を下回っている。国民の半分は高齢者である一方、少子化には歯止めがかからない。しかし女性の社会進出と定年の延長で、労働人口は足りていた。

 一方で介護や子育ての分野では、ロボットやAI頼りに偏っている。アンナの母体となった看護ロボや、最近では手術ロボまで開発されだしていた。

「そのアンナの勝利の為にも……」

 田巻は猪口をおいて座ったままさがり、頭を深々とさげた。

「なにとぞ追加機密工作費のほう、よろしくお願いします」

「ああ、仕方ない。しかし事件にだけは絶対にするなよ」

「そらようわかってます。

 僕もかつては、アンナを敵に回して国内戦を戦ったもんやけど。

 確かになかなか色っぽいアンドロイドではありますな。あのトレーナーも」

「なにか不思議な女性だそうだね、イオセ君とか言うたな?」

「五百瀬真奈。半年前まで隊におった、今は後備三等曹長ですわ。特殊コマンドかなにかで、ちょっと常人離れ下動きをしよるとか。かわった出自の子ぉですわ」

「ほう……小柄でかわいらしい、まだ十代の女の子じゃろう」

「なんと言うか、山岳民族とも言うべき家柄だそうです。僕は知らんかったけど、部下だったモンが少し知ってましたわ。

 なんでも亡くなった祖父は最後のマタギで、国の無形文化財だったそうですわ」

「マ……マタキ? あの山ン中でクマとかをとる、猟師かや?」

「はあ。でも父親は一種の登山案内人で、人助けしようとして遭難したそうですわ。母親は山の暮らしに耐えられんようになって、早くに下山。

 で、狙撃の腕前はその祖父譲りとか。先祖は朝廷から山奥へ追い立てられ、代々過酷な環境の中で強い淘汰圧を受け続けていたようです」

「そりゃかわった血筋じゃのう」

「一応先進科学大国の我が国の、最高技術を結集したような戦闘型アンドロイドのトレーナーが、我が国最後のマタギの孫やなんて、なんか不思議な話ですなあ」

 上田は手酌で酒を一口飲んでから、「謀略参謀」を見つめた。

「亡くなられた君の御父上が、かねがね言うておったよ。我が国の本質は、科学文明を装った前近代国家じゃと。

 国民の九割以上が進化論を信じつつ、縁起をかついだり願掛けしたりしておる。 占いも信じとる。生活は二十一世紀、精神は江戸時代とあまりかわっとらんと」

「はは、親父の言いそうなこっちや。それならそれでいいやおへんか。

 迷信や信仰を捨て去ることが、いい場合は捨てたらいい。みんなが信じてるのは、信じるほうが適応的だからでしょうな。

 ま、マタギの孫娘にこの国の運命の一部を託すのも、オモロいですな」


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