第三章

 二日後、その「つらい日」がやってきた。

爽やかに晴れ上がったこの日、二体の非対人戦闘ロボは、特殊機によって統合自衛部隊ジャストの東富士演習場に運ばれた。

 銀色のコンテナから出てきた戦闘シミュレーション・ロボ「ヤゴロー」は、バトル・ステーション規定を上回る、三メートル半の高さをもつ「巨人」だった。

 一応良心回路が組み込まれており、人間は攻撃できない。しかしそれをはずせば立派な兵器となりうる。

 それはロボ・セントリーも同じだった。民需用の自動機械は良心回路搭載が法律で規定されており、とりはずした物を販売するだけで殺人未遂になる。

 ワシコングの類人猿的なシルエットにくらべ、ヤゴローはより機械的ではある。

 胴体も脚も腕も、メタリックな円筒状で顔もつくっていない。いびつな球体がそれらしくのっかっている。

 胴体には装甲板のほか、各種モニターが勲章のように並んでいる。アンナと同じく、軽金属弾丸三百発と五十口径単身機関銃だけを持っている。

 初夏らしい軽装の真奈は、最終調整している赤穂技師に近づいた。

「いっそアンナがこんな風にいかにもロボットってつくりだったら、気が楽なんだけどね」

 はじめはアンドロイドを厭い、「機械人形」「木偶」などと呼んでいた真奈だった。しかし文句ひとつ言わず、確実に教えたことを吸収するアンナが、ともに何度も死地を潜った完全人間型ロボットが、今は頼もしい戦友に思えている。

「一つの戦いに勝ったら……より強い敵と戦わされる。その為に生まれたとはいえねぇ」

 椅子に座りキーボードを打ちつつ、浪子は顔をあげた。

「醜いロボットなら、破壊されても平気かしら。どんなに美しくても作り物。プログラムで動く機械よ。生身の人間とは違う。回路一つはずせば立派な殺人マシン」

 整い過ぎた冷たい顔に、珍しく怒気を漂わせている。

「逆に人間は、たとえ最新技術で肉体のほとんどが作り物であったとしても、脳が活動しているかぎり人間よ。精神と人格を持った高等生命体」

 真奈は突然のことに、やや戸惑いながら答えた。

「……まあ、そうだけどね」

 最終検査の終わったあと、南部はアンナに正面からだきついた。特注の個人装甲服「パンツァーヘムト」をまとった機械戦士は、当然無表情のままである。

「結局またあなたは戦うことになる。でも出来るだけのことはした。強敵ワシコングと同じ動きをするヤゴローだが、決して無茶はしないで欲しい」

 真奈はいつもの「儀式」を邪魔するのも悪く、菅野たちとコーヒーを飲むことにした。

 社有のティルトローター後継機と、ケロシン燃料を満載したタンカー・ヘリ、そして医療部もかねた大型VTOL機が並んでいる。

 大型VTOL機の後部格納庫の壁面が開いていて、観測本部となっている。そこに近づくと馥郁たるコーヒーの香りがただよう。菅野がカップにそそいでくれた。

「今日は教官殿の出番はなしだ。ともかく正面からぶつからせる。

 ヤゴローの格闘レベルは下げてあるから、アンナの苦手な格闘戦になってもそれほどダメージはない。しっかりとワシコングの基本動作を覚えて欲しい」


 五十口径の古風な重機関銃に、巨大円形弾倉をとりつけたいささかバランスの悪い武器だけをもって、二体は一キロの距離をおく。

 軽金属弾丸とは言え、人間にあたれば大事だ。弾頭が柔らかく、大穴があく。

 戦闘は少し窪地になったあたり、三機がとまっている本部から一キロ以上はなれたところで行われる。模擬戦闘の様子は現場に設置されたカメラや、はるか上空の静止衛星から観察できる。

 真奈はどうしても現場に近づきたく、パンツァーヘムトにフルフェイスのヘルメットで、窪地の端にたつ。それ以上の接近は菅野に禁じられていた。

 ヘルメットだと電子双眼鏡も扱いづらい。真奈の声は直接アンナに伝わる。

「どう、アンナ。相手をなめてかかっちゃだめだよ」

「わたしに舌はない。舐めることは不可能だ」

「ふふ、いつもの貴様らしい答えだね。かえって安心するよ。

 オーケーアンナ、戦闘開始だ。完全人間型の貴様にはやっぱり格闘戦は不利さ。軟金属弾でも間接部を狙えば、多少ダメージ与えられるからね」

 発砲はまずヤゴローからはじまった。巨人ロボットは連続発砲しつつ、アンナに接近する。アンナは本部側にいるが、その場所から遠くには行けない。後ろには人間がいるのだ。

 アンナは弾丸を浪費せず、相手の接近をまった。真奈は少し興奮している。

「相手が五百まできたら発砲。関節を狙うんだよ。いつも通り火線を集中」

「間もなく発砲開始位置」

 アンナは重さ十キロにはなる機関銃をライフルのように構え、立射をはじめた。ヤゴローの腕や脚に火花が散る。反動もすごいが、アンナは平気である。

 しかし無骨で頑丈なヤゴローは、火花を散らしつつ反撃する。

 相手が攻撃をはじめるとアンナは身を低くして、速力を利用して木々の間をかけぬけ、また別のところから正確に射撃する。

 ヤゴローはやたら発砲する。観察していた真奈は首をかしげる。

「おかしいな。戦術も作略もない。しゃにむに撃ってるだけだ」

 大量の弾丸で木々がなぎ払われていく。木の葉が舞い散り、硝煙が霧となる。ついに弾丸を撃ちつくすと、ヤゴローは円形弾倉をとりはずした。

「なんかへんだよ。まともに戦うつもりがない。

 菅野さん、これが本当にワシコングの動きなんですか」

 菅野も首をかしげる。ヤゴローは弾倉を円盤投げのように、アンナにむかって投げつけた。アンナはそれにむかって弾丸を集中させる。

 火花につつまれた弾倉は、アンナをそれて大木にぶつかった。

 ドスドスと大きな音をたてて、巨人ヤゴローは不恰好にはしってくる。走りつつ重機関銃を思い切り投げつけた。それは水平に回りつつアンナを襲う。

「アンナ、危ない。伏せて!」

 アンナは前に伏せた。頭上を機関銃がかすめる。アンナは伏せたまま、迫り来るヤゴローに射撃を続けようとする。しかし前に伏せたとき、機関銃は四百キロあるアンナの「肉体」の下敷きとなっていた。

 それを構えたが、どこかに不具合が出たのか、撃てなくなってしまった。

 ヤゴローは飛び掛った。十数メートルとんで、そのままアンナに覆いかぶさる。相当な重さがある。アンナは容易におきあがれない。

「なんかへんだ。格闘モードが最大攻撃力になってる。菅野さんどう言うことよ」

「な、なにかの間違いが起きたか!」

 真奈は左手首のユニ・コムに問い詰める。南部が泣きわめいていて、よく聞き取れない。ヤゴローはアンナの右足をひきずって、歩き出した。仰向けのアンナは起き上がろうとするが、立てない。

 ついに窪地を囲む低い土手をのりこえる。移動本部でモニターを見つめていた社長が振り向くと、土煙のむこうに近づいてくるヤゴローが見える。

「す、菅野くん」

「赤穂くん、様子がおかしい。ヤゴローをとめろ」

 赤穂技師はキーボードを操作し、ついには緊急停止装置のキーを抜いた。

「だめです。コントロール不能。停止すらできません。

 ……ワシコングのプログラムデータが、中枢を侵食している」

「なに!」


 ワシコングはアンナをひきずったまま、駐機中の三機にむかってくる。

 周囲は鬱蒼たる森だが、そのくぼ地だけ木々がほぼない。かわりに夏の雑草が生い茂り、緑の香りでむせかえりそうである。そして蝉たちは沈黙していた。温厚な社長は青ざめた。

「危険だ。ここはひとまず避難しよう。我々を攻撃するはずはないが」

 移動観察本部となっている大型VTOL機に、人々は逃げ込みだした。エンジンがかかって、うなりをあげる。技師たちに罵声と悲鳴が飛び交う。

 社有機もカヴァー付きローターを回しはじめた。しかしエンジンを整備中だったヘリ・タンカーはすぐには飛び立てない。

 パイロットはあわててジャイロにとびのった。

「アンナ、アンナああっ!」

 赤穂技師は飛び出そうとする南部をおさえ、ひきずるようにしてVTOL機にのせた。後部格納庫の壁がとじられ、機体は上昇していく。もう一機もとびあがる。

「真奈から社有機へ、あのデクノボーを撃って」

 しかし民間社有機には、警備用の二十二口径の機銃しかついていない。ヤゴローは火花につつまれ、変形しつつも進行をやめない。土煙と硝煙で視界がかすむ。

「五百瀬くん、危険だ。近づくな。奴の進行方向から遠ざかれっ!」

「菅野さん、ヤゴローはなにをしようとしてるんですか」

「わからん。上から見てると、進行方向にはタンカー・ヘリしかない」

「!なにするつもり。まさかケロシンタンクにつっこむんじゃねぇだろうな」

 片足をしっかりと握られているアンナは引きずられながらも上半身を起こした。

「真奈、離れていてください。ヤゴローの予備燃料電池が過反応している」

「どう言うことだよ。爆発するのかよ」

「電力を逆流させている。ほどなく発火する。このまま予備航空燃料タンクに突入すれば、大爆発する。あと百七十メートルだ」

「! 社有機パイロット、なにやってんの!」

「だめだ、こんな警備用弾丸じゃ、ヤゴローの特殊防護鋼に効果は少ない」

「アンナ! 非常手段とるよ。ひきずられている左足の、感覚回路を遮断して」

「企図は理解不能だが、実行した」

「アンナの左足を撃って! 防護機能は弱い」

 通信を聞いていた大型VTOL内では、みなが驚いていた。

「ぐああああああああ」

 と叫んだのは南部である。

「やめろぉぉぉ! わたしのアンナを撃つなあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 座席から立ち上がりかけたのを、赤穂が肩をつかんでおし留めた。すさまじい力である。

「今はそれしかないわ。予備はあるでしょう」

「アンナ、すまん!」

 カヴァーつきローターを両側に持つ垂直離発着機副操縦席の射手は、アンナの細長く美しい左足に照準をつけ、トリガーをしぼった。

 赤い光弾が左の膝に集中、火花と人工皮膚をとばした。

 数秒後、関節のあたりでアンナの左脚は砕かれ、外れた。

「やったよ、ヤゴローから離れた」

 ヤゴローは立ち止まり、ふりむいた。そして残った右脚をつかもうと前かがみになった。

「アンナいまだ、蹴り飛ばせ!」

 アンナは上半身をすこしもたげ、残った右足でヤゴローの腹を思い切り蹴った。

 機械の巨体は後ろ向きに三十数メートルはとび、羽を休めたままだった給油用ヘリコプターのタンクに背中からつっこんでしまった。

 内部予備燃料電池から、火花を散らしつつ。燈油に近いケロシンが、タンクからあふれ出す。

「アンナ!」

 慌てた真奈が、無謀にもかけよろうとする。しかし右足で立とうとしていたアンナは、近づいた真奈に覆いかぶさった。

 その直後、予備燃料タンクが大爆発した。飛んでいた二機もゆれる。火の玉がキノコ状にたちのぼり、炎の固まりはアンナのパンツァーヘムトを焦がした。

「あちちちち」

 アンナの下に抱きかかえられていた真奈も、熱気に焼かれる。

 しかし「二人」とも無事だった。

「菅野だ。五百瀬いおせ君、無事か? 返事してくれ!」

「な……なんとか、生きてますよ。地獄の業火にケツ舐められかけたけど」

「アンナ、アンナアああああ!」

 南部は菅野の持つ受話器にとびつく。

「全体機能二十パーセント低下。メインシステムにダメージはないが、胸郭内冷却装置の電力が不足している。人工ニューロンへの影響はまだだ」

「アンナは無事よ。わめいていないで、予備の脚を急いで用意させて」

 はるかに年下の赤穂浪子に言われると、狂気の天才科学者は気落ちし、何故かおとなしくしたがってしまう。社長の業務命令すら黙殺する大変人がである。

「そ、そうだな。技術部にすぐ連絡しないと」

 アンナと真奈は大型VTOL機に回収された。一切は例によって事故として処理された。


「まさにこちらの落ち度です、室田社長。まことに申し訳ありませんでした」

 田巻先任二等佐官は統合軍令本部の情報統監部会議室で、古風な暗号携帯電話を使っていた。

 統合軍令本部勤務を示す、青みがかったグレーの制服である。陸戦部隊はカーキ色、航空兵はブルー、海上勤務将兵は黒いと白、と兵科で決められている。

「まさか大金払って入手したデータに、そんな自爆プログラムが仕組まれているとは。一応こちらでも解析はしたのですが、どうやらいわゆる遅効性トラップが暗号化してしくまれていたようですな。

 もっとじっくりと精査すればよかった。ほんま申し訳ない」

 田巻は恨めしそうな顔で言った。

「この復讐は必ず。すでに奴らの口座は探し出し凍結しました。

 いや後心配なく、こちらの問題ですから」

 田巻は電話をきって、机を叩いた。

「おんどれ~~~~、今に見てけつかれ!」


 株式会社新日本機械工業本社工場は、夏の松林と夜の帳につつまれている。

真奈は敷地内北部の幹部宿舎で、シャワーをあびて寝ようとしていた。小柄だが肩のはった体型である。脚は長く、胸は不釣り合いなほど大きい。

 一応美人に属する童顔で、眼がどこかネコを思わせる。

「アンナ、早くよくなってね。また訓練だよ。

 やれやれ、怪しげなデータなんかに便るから、このざまさ」

 同じ頃、かまぼこ型の中央棟地下の研究室。作業台の上には長身のアンナが、全裸でよこたわっている。すでに新しい脚が取り付けられていた。

 南部はメガホンのような装置をさかさまにもち、接合部分を確かめている。

 うしろから赤穂技師が近づいてきた。絹製の特製白衣の下は、黒い下着とブラだけである。

「接合具合は、どうかしら」

 妙齢の女性技師は、恥ずかしそうにもしない。南部その恰好を気にもしない。

「もちろん完璧さ。

 今は仮取り付けだが、あとは神経回路と人工運動神経の同調だ。

 基本はロボ・ナース用だが、アンナの脚はもちろん戦闘用に特化させている」

「普通のロボット脚にしておけば、強いのに」

「アンナはロボットじゃない。何度言ったらお前は判ってくれる」

「そうでしたわね。新時代の女神。理想の女性かな」

 赤穂技師は新しい足を見て、さみしく微笑む

「野生動物は、足をやられると命を失う。競争馬は薬殺よね」

 アンナの脚を撫でる。

「……あの子も、不思議ね。興味ぶかいわ」

「イオセか。はじめはがさつな山女だと思ってたが、アンナにはいい教官だ。

 アンナを守ってくれる。そして愛してくれているらしいな」

「そう。そしてわたしは、博士を守る」

 少し焦るが、うれしそうな南部。

「あ、ありがとう」

「彼女、マタギの娘ですって? いまどき珍しい。

 菅野取締役が楽しそうに話してましたわ。母は逃げ父は事故で死に天涯孤独。 無料の統合幼年術科学校を出て統合自衛部隊任官。特別措置で成人扱い。山岳戦のプロで三等曹長まで進んだけど、防衛力の無人化をきらって除隊。

 それでアンナのトレーナーですってね。数奇な運命って言ってもいいわね。

 なかなか興味深いわ。言葉づかいは荒くてなにごとにもぞんざいだけど、怖いものなんてないみたいね」

「………雷が、怖いそうだ。アンナが教えてくれた」

「かみなり? 雷鳴が怖いの? 意外ですね」

「あと、化学調味料口にすると、おなかを壊すそうだ」

 赤穂技師は小さく噴き出した。


 アジアの経済ハブと言われる摩天楼街も、何度かの不況によってかなり荒廃していた。しかし高層ビルのあいだに広がるスラムは、活気をおびている。

 アジア最大の人口と密度を誇るその都市でも、もっとも豪華なハイパー・インテリジェントビルの最上階では、赤毛も美しい端正な中年男が沈痛な面持ちで座っている。

「そうです、作戦失敗は計算外です。申し訳ありません」

 左手首にはめられた個人多機能通信装置「ユニ・コム」からは、きれいなキングズ・イングリッシュがきこえてくる。

「博士も今回のことは憂慮しておられる。

 計画の失敗はもとより、日本の情報部が復讐を誓っている。きみたちは日本のエージェントと接触したとき、撮影されていたのに気付いていなかった」

「それは……人ごみでしたし、その」

「スイスの秘密口座が封鎖されたのも痛い。日本には気をつけろと、言わなかったかな」

「申し訳ありません。タマキは噂以上に執念深いですね」

「責任はとってもらうが、その前にそこから身を隠してもらう。

 すでに日本の情報機関がそちらに潜入している」

「本当ですか、ですがここは」

「その情報機関内部の通報者が報せてくれた。今から地図を転送する。

そこで案内人にあって指示をうけろ」

 赤毛の男は忌々しそうに通信を終え、傍らの二人に言った。

「俺たちはスケープゴートかもな。行こう」

 三人は無人自動タクシーで「整頓されたスラム街」の中心近く、あやしげな歓楽街へとむかった。路地のさらに奥、危険な一角に指示通りの階段があった。

 階段を慎重におりる三人。赤毛男は銃を後ろ手にかくしている。

「案内人でしょ。なんで銃なんか」

「案内人が味方とは、限らないぜ。EMP手榴弾はもっているか」

黒人が、ショルダーバッグからとりだした。

「これ一つだけです」

「ともかく失敗した俺たちは命がない。名誉挽回なんて無理だ。今は逃げるしかない」

赤毛氏は古いドアをあけた。地下は秘密のカジノのようだが暗くて人はいない。

「おい、誰かいないのか」

 奥からゆっくりとした動きの人影があらわれる。男たちは緊張する。

 かろうじてついている明かりの中でみると、銀色の戯画のような顔に、タキシードを着ている。給仕ロボットだった。

 赤毛は安心して銃をおろした。ラテン系はため息をつく。

「市販ロボットか。人間は攻撃できない。

 まさかおまえが案内人じゃないだろうな」

 能面のような給仕ロボットは右手に盆を捧げている。その盆が落ちた。右手に自動拳銃を握っている。即座に三発発射した。赤毛の男が、何が起こったのか判らないまま倒れる。ラテン系と黒人は、とっさに伏せた。

 ラテン系がなまりの強い米語で叫ぶ。

「な、なんでロボットが!」

「くそ! EMP手榴弾だ!」

 ロボットは突っ立ったままである。アフリカ系の男はあわててバッグをまさぐり、手榴弾のピンを抜いてそれをロボット投げつけた。

 EMP手榴弾はロボットの手前で小さな爆発を起こした。轟音が耳をつんざく。電磁パルスが四方に走り、小さな電球もすべてきえた。あたりは漆黒の闇につつまれる。一切の電子機器は無力化されたはずだ。

「ホセ、どうだ?」

「お前さんの手榴弾が効いたな。ロボ野郎はこれで沈黙だぜ」

 二人は闇の中で立ち上がった。耳鳴りが残り、硝煙にせき込む。

「ボブ、なんか明かりはないか」

「全部だめだ。ライターぐらいかな」

 黒人はポケットをまさぐった。

「あった」

 大型のオイルライターの火をつけた。わずかに周囲が明るくなる。ホセもよってきた。

「くそロボはどうしてる。なんで市販ロボが攻撃を。良心回路が狂ったか」

 ボブはライターを持つ手をのぼした。数メートル先に、給仕ロボが立っている。市場に出荷されるロボット、オペラートルのたぐいはすべて古典的な「ロボット工学の三原則」に基づき、人間が攻撃できないよう「良心回路」が組こまれているはずだ。しかしこの給仕ロボはたった今、人を殺した。

 今やその殺人ロボも、EMP爆弾によって完全に沈黙したはずだった。

 突如給仕ロボはライターの光に淡く照らされた二人にむかって、銃弾を連続発射したのである。二人は悲鳴もだせずに立ったまま絶命し、崩れ落ちた。

 三人の人間を射殺した給仕ロボットは、ゆっくりと裏口へと去って行った。



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