第2話 勇者見習いフジオ
「これ、なに? …まさか噂に聞く、魔猪の胃石?」
「はい」
袋の底にあったもの。
それは変色した何の変哲もない石ころと――銀に輝く鉄片が混ざりあっていた。
その内の一つを手に取ると、まるで純銀かのような輝きで……厚みから見て、盾か鎧だったもの?
「これ、魔猪に噛まれた痕もあるからメッキじゃないと思うけど、どう見ても――」
「………………」
どう見ても、冒険者の遺品である。
遺品は相当希少価値も高そうで、この勇者見習いくんの師匠がやられた――という
問題は、ですよ。
「これ、なんでぼ……私のところに持ってきたの?」
「………………」
沈黙。沈黙。また沈黙。
こういうケースを、ぼくは知っている。
「……はああああ。怪しいと思ってたんだよね、こんな片田舎のほぼ農業用具専門店(笑)に訪れる冒険者さまなんて。あ、勇者見習いだっけ」
「はい……」
「で。この遺品――かどうかは知らないけれど、当然“冒険の掟”は知ってて依頼してるんだよね?」
“冒険の掟”……。
それはいくつかあるけれど、一番忌避されているのが、今まさに少年が行おうとしていること。
パーティーメンバーの遺品を再利用するという、『負の遺産』である。
「「旅に持たすな負の遺産」って言うのは決してジンクスだけじゃなくて。魔物に共鳴してしまう、魔力を持つ品に
「……いいえ!!」
「うわ、ビックリした」
ぼくのマイホームが揺れるかと錯覚するほどの大音声で、イエスマンの口からノーが出た。
外に出てなかったら鼓膜やぶけてたし!
「我が師匠は常々言っておりました。『フジオ、魔力を恐れるな。未知を恐れる者が未知なる魔物を倒せるはずがない』――と」
「うわだっせ、フジオって言うの? 名前?」
「――! ……はい」
「フジオ(笑)」
思いがけず勇者見習いくんの名前を知ったところで、なんとなーく覚悟のほどが伝わった。
掟の件は正直、普通のお店なら『負の遺産』を造ったという風評被害のせいで店の売上や信頼が落ち込むという明確なデメリットがあるから引き受けない。だからフジオくんはこんな田舎くんだりまで旅をしたのだろう。
まあ、正直に言えば――
「フジオくんの意思さえ確認できたら、『負の遺産』。造るのはやぶさかではなかったんだよね」
「……はい?」
「こんな片田舎だよ? 風評被害以前に、“冒険の掟”なんて村長くらいしか知らないだろうし。実はぼく――も、以前に一度造っちゃってるしね。二度目だし、怖いものなし!」
「はい!!!」
「うるさいっての。じゃ、日が明ける頃には出来ると思うし、どうする? 村で泊まる?」
「いいえ!!」
え。なに。
カウンターの前で突っ立っていたはずのフジオくんは、カウンター奥にある工房にずかずかと踏みいっていく。
「ちょちょちょ、ちょっと待って。神聖な工房になに無断で入ってんの!?」
「はい!!」
「はいじゃないが~!!」
一応、臭いのキツイ毛皮だけを捨ててフジオくんの後を追う。
これ絶対、手伝うとか思ってる奴だ!!
面倒くさい依頼に面倒くさい奴コンボ。追い討ちがなければいいんだけど――。
「こらあ! 勝手に道具に触んな! けーがーれーるー!」
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