極貧鍛冶屋ですが、一つ道を間違えたら神剣を造る羽目に陥っちゃいました

@minoriya

第1話 美少女キララ

 ぼくの名前はキララ、名字はない。

 アークランドと呼ばれる大陸の、隅っこも隅っこの片田舎で14年間木々に囲まれ生きてきた。

 そんな退屈な人生が、ついに!

 今日、ぼくの選択で、生まれ変わるんだー!


「…では、キララ。何になりたい? っていうか分かっておるじゃろな?」

「分かってら! ぼくが選ぶのは――」


 焚き火の周りで数十人もの大人が躍り狂い、音頭を取る太鼓のテンションも最高潮。

 ぼくの前に何十人も並んでいた同年代の子供たちが、15才になったら行われる成人の義により大人へとなって、自分の人生を決めていった。

 だからぼくがトリ役を任されたのは、目の前でぼくの返事を待つ長老の思いがあるからだっていうのも分かってる。

 それでも、ぼくは。


「ぼくは、――鍛冶職人になります!」

「よくぞ言った! …え!? キララ、今なんと?」

「ぼくは村長になんてならない。鍛冶職人になるんだ!」

「ま、ま、ま、待て、考え直せ!」


『ウオオオオオオオオオオオ!!』


 言っちゃった、言っちゃった!

 これで成人の義は終わり。満面の笑みを浮かべてお祭りから走って抜け出す。

 後ろから引き留める声は聞こえるけれど、これでぼくの――長年の夢が叶うんだ!




「……なーんて夢を見た私が馬鹿でしたよ、二年前の私にこう言いたい。『村長になっとけ』ってね」

「はい」

「はいじゃないが。勇者ってなに? 秘匿義務でもあるの? だから自分の言葉を喋れないとか?」

「はい」

「はいじゃないが」


 カウンターに寝そべって、勇者見習いのカードを首からぶら下げた勇者くん(希望)が品定めを終えるのを待つ。

 待つといっても、今店にあるのは田畑で扱うくわやスコップが目白押しで、戦闘で使うようなものは処女作である剣が隅っこに置いてある程度。

 悩むほど選ぶ品、ないんだけどなー。


「ねえ、久々のお客さんを急かすようで悪いけど……うちって品揃え悪いでしょ?」

「はい」

「喧嘩売ってんのかぁ!? ……いや、ごめめん。私が言うように仕向けたんだけどね。仕方ないじゃん…」

「はい」

「……私にも夢があってさー、そのためにこの仕事始めたんだけど。この仕事は思ったより大変でね。木こりと掛け合って燃料の木材集めたり、養蜂場へ焼き入れ用の蜂蜜を取りへ行ったり……」

「…………はい」


 万感の思いを込めて、過去二年間の苦労を愚痴ろうとした瞬間。

 カウンターに寝そべっていた私の目の前に、ガシャンと音を立てて麻の袋が置かれる。

 ……なに、これ。


「……見て良い? お金じゃなさそうだし」

「はい」


 承諾を得てから、袋の口を恐る恐る開けると――凄まじい臭いに、思わず袋を手に持って外に飛び出す。


「くっさ!! なにすんだよー嫌がらせかー!?」


 思わず、空に向けて大声を出してから振り返る。

 店の中からぼくを見つめている勇者くん(希望)は、行動はさておき……表情こそ真面目だった。

 問題は袋の中身。それこそ、アークランドに蔓延る魔獣――魔猪【輝けるアテン】。魔獣王パトラの一番槍とも呼ばれている魔物の“毛皮”が、袋一杯に詰められている。

 恐る恐る毛皮を手に取ると、袋の底にはゴロゴロと石のような金属があった。


 こ、これはまさか――!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る