不確かな未来(その3)
公園に向かう道を三人でのんびり歩きながら軽く雑談をする。
「春樹くんはどこの小学校通ってるんですか?」
私、春木くん、舞彩さんと横に並んで歩道を歩く。春木くんは舞彩さんに手を握られて歩いている。私はその光景を微笑ましく見ながら話を振った。
「○○小学校だよ」
「あ、じゃあ舞彩さんたちはあそこら辺に住んでるんですか」
小学校は私立じゃ無いかぎり基本は自分が住んでいる地域の小学校に通うことになる。だから小学校を聞くと相手が住んでいる地域がだいたい分かるシステムである。
「あぁ、そうだよ。そういえば朱音ちゃんはどこに住んでるんだっけ?」
次は舞彩さんが質問をしてきた。
「私は喫茶店から坂を下った所らへんですよ」
「だからあそこでバイトしてるの?」
「まぁ、家から近いからって理由だけじゃ無いんですけど、なりゆきで…」
あの時のことを思い出すと恥ずかしくなる。人前で泣いたのもあんな相談したのも初めてでなぜか恥ずかしい。
「へーまぁ、何でもいいけど。ブラックなバイトじゃなくて良いじゃない」
「バイトってなに?」
それまで黙っていた春樹くんが舞彩さんの手を引っ張り顔を上げる。
「ん?バイトってのはお仕事するってことだよ」
「母さんや父さんみたいに働いてるの?」
「いや、ちょっと違うけどまぁそうだね」
舞彩さんは首をかしげて悩むが諦めて肯定した。子どもにバイトと仕事の違いを説明するのは難しい。
「お姉ちゃんは高校生なのに働いてるの?」
次は私の方を見上げてきた。
「そうだよー?高校生になると働けるんだよ」
私は笑顔で返事をした。
「でもお姉ちゃんは働いてないよ?」
舞彩さんの顔をジーっと見つめる春樹くん。
「私は良いんだよ。バイトする暇が無いくらい忙しいんだから」
目を見つめず舞彩さんは答えた。
「いつも家でゴロゴロしてるだけなのに」
「ちょ、そんなことも無いから!」
舞彩さんは頬を少し赤らめ声を上げる。
そんな舞彩さんの家での話を春樹くんから聞きながら歩いていると目的地にたどり着いた。
喫茶店から十分ぐらい歩いた先にある小さな公園。遊具もそんなたくさんあるわけではないがその横の敷地にはフェンスが囲んでいて中は何もない。だからたまに親子や子どもたちがボールで遊んだりしていて、夏になると手持ち花火をしたりして遊ばれている。
「うわー久しぶりに来たなー」
私は子どもの頃に友達と遊んだ時を思い出す。
「確かに私も久しぶりに来たかも。春樹はいつもここで遊ぶの?」
舞彩さんも私と同じ気持ちらしい。
春樹くんは首を横に振った。
「いつもは児童館で遊んでるよ」
「あーそういやあそこの近くにも小さな公園とかあるし体育館もあるもんね」
「いつも中で遊んでるよ」
「ゲームとか?」
「色々してるよ。中も少し広いしたまにお菓子とか作ってくれるの」
「へーいいなぁ。私も今度行こっかな」
「舞彩さん...お菓子目当てですか...」
私は呆れた顔をして舞彩さんを見る。
「な、なによ!?」
舞彩さんは恥ずかしさと慌てた様子でこちらを見る。
「おーい!お待たせしました!」
三人とも声のする方を一斉に見た。後ろを振り返るとマスターが手を振って走ってきている姿が見えた。肩には大きめな手提げカバンを持っていた。
「すいません。お待たせしました。まぁ色々持ってきましたよ」
そう言うとマスターは持っていた手提げカバンを地面に下ろし広げて見せた。
中には野球ボールにグローブ、フリスビーにバトミントンのラケットとシャトルなどがあり一番下にはサッカーボールまである。
なんでこんなたくさん持ってるの? いや、それよりよくカバンにこんだけの物が入ったと思う。どこかのアニメの四次元ポケットかな? マスターのカバンスゴい。いや綺麗に詰め込んだマスターがスゴい。
「これだけあれば何か好きな物あると思うし色々出来ますよ」
何よりも自分がやりたいといった様子で笑った。
私は子どものような無邪気なマスターの笑みを初めて見たかもしれない。
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