不確かな未来(その2)


扉を開け勢いよく入ってきたのは私と同い年の舞彩さんだった。たまにお客として来てくれるけどいつも騒がしく入ってくるからいつもビックリする。しかもタイミングが良いのか悪いのか変な時に来ることが多い。


「いらっしゃいませ。舞彩さん....と後ろの子は?」

 マスターが舞彩さんの方を向いて挨拶しようとして舞彩さんの後ろの影に首をかしげる。

「舞彩さん後ろの子どもは?」

 私も後ろの子に目を向ける。

 まだ小学生だろうか小さな子が舞彩さんの後ろな隠れてチラチラこちらを見ている。

「ほら挨拶して」

 舞彩さんは後ろの子を前に押しだそうするが子どもは舞彩さんの服を持って頑なに首を横に振っている。

 中々離れなく舞彩さんは諦めてため息をつく。

「私の弟の春樹。まだ小学校に上がったばかりなの」

「舞彩さんの弟さんですか~」

 私は椅子から降りゆっくりと近づいていく。

「初めまして。私は笹倉朱音です」

 腰を低くして春樹くんの近くに寄り挨拶をする。が更に舞彩さんの後ろに隠れてしまった。

「ほら、春樹こんにちわは?」

「こ、こんにちは」

 舞彩さんの背中に顔を埋めて春樹くんは小さく声を出した。

「うん。こんにちは。可愛い弟さんですね」

「まさか小学校に上がって更に元気に暴れて家じゃホントに大変」

 舞彩さんはやれやれといった顔で横に振る。 

「元気があるのは良いことじゃないですか。子どもが元気でいるのが親にとっては幸福なんですから」

 マスターは優しく笑って舞彩さんに質問をした。

「ところで今日はどうしたんですか?弟さんも連れて、散歩か何かの途中ですか?」

「あ、そうだった。マスターに相談があったんだ」

「相談?」

 私は首を傾げて頭の上にハテナマークが浮かんだ。


▼▼▼


 舞彩さんと春樹くんはカウンター席に座って飲み物を頼んだ。

「舞彩さんはいつもので?」

 マスターは注文を聞く。舞彩さんはコクりと頷いた。

「春樹くんはジュースでいいかな?」 

 マスターは優しく聞く。春樹くんは恐る恐る頷いた。

 

人見知りが激しいのかな?まぁ、まだ小学校に上がったばかりって言ってたからなぁ。と私は後ろから二人を眺めた。

二人が飲み物を飲んで一呼吸ついてたから舞彩さんは口を開いた。


「ほら、私には話せなくても知らない人なら話せるんじゃない?」

 春樹くんを見ながら話すが春樹くんは口を閉じたまま顔を背けた。

「最近、家じゃ悩んだような顔をしててさ。話を聞いてみるも首を横に振って一向に話さないの。マスターならどうにかなると思ってつれてきたわけ」

「相手が話す気が無いなら僕では何もできませんよ」

 う~ん、と考え込む舞彩さん。

「学校で何かあったんですかね?」

 私は舞彩さんに聞いてみた。

「たぶんそうだと思う。さすがに何日も元気が無いと姉としては心配だし」

 私は頷いて春樹くんの側に近づいていった。

「何か悩みがあるならお姉さんに話してくれない?力になれるかもしれないよ?」

 私はしゃがんで春樹くんと同じ目線に立って聞いてみた。

 春樹くんは目がチラチラと泳いでいる。迷っているのか、緊張しているのかは私からじゃ分からない。

「よし。とりあえず遊びますか」

 マスターは手をパン!っと大きく叩いた。

 いきなり大きな音をたてたせいで舞彩さんも春樹くんも、私も肩がビクンッと動いてビックリした。

「マスター急に何を…」

「話したく無いなら話さなくてもいいじゃないですか。せっかく来てくれたんです。辛気くさい話なんかしてないで子どもは子どもらしく遊びましょうよ」

 マスターはニコッと笑った。これは有無を言わさぬ笑顔だと私と舞彩さんは思った。

「じゃあ、公園に行きましょう!」

 マスターはカウンターから出てエプロンを脱ぐ。

「あ、春樹くんは何かしたいことありますか?」

 脱ぎながらマスターは聞く。

 春樹くんは現状がどういう状況なのかよく分かっていない様子っぽい。

「これから皆で遊びに行くけど何かしたい遊びとかある?」

 舞彩さんは春樹くんの肩をちょんちょんと叩いて耳元で訊ねる。

「何でも、いい」

「何でもいいってさ!」

 舞彩さんはマスターに聞こえるよう大きな声で返事した。

「じゃあ、適当に何か持っていきますね!」

 マスターは奥にエプロンを置きに行った。顔だけひょっこり出して続けて言う。

「あ、先に行ってても大丈夫ですよ。すぐに追い付くので」

 そう言うとすぐにまた奥に戻っていった。

「じゃあ、先に行こっか」

「そうですね」

 舞彩さんは春樹くんの手を取り一緒に並んで歩く。私はその後ろを追いかけるように歩き喫茶店を出て公園に向かった。 

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