迷子のマイゴ(その3)
連休の内、三日間を友達と過ごした。
最近遊んでいなかった分、ハメが外れたのかカラオケに行ったり、ご飯を食べに行ったり、買い物したり、映画を観に行った。
この三日間はずっと友達と居た。
そして、残り二日間はマスターの居る喫茶店でバイトだ。
何でだろう。いつもと一緒で約一週間ぶりなのにもっと来ていなかった気分になる。マスターにもずっと会って居ないように思えて喫茶店に行く足取りが重くなる。
重い足を動かして、ようやく扉まで辿りついた。
いつもより道のりが長く感じたけど気のせいかな?
私は来た道を振り返った。特に何も変わっていない。いつも通りの道だった。
「スーハー、スーハー」
なぜか入るのに緊張してしまい扉の前で深呼吸をして心を落ち着かせる。
大丈夫、大丈夫と心で言って思った。
何が大丈夫なんだろう?今日の私、どこかおかしいような気がする。と考えて首を傾げた。
モタモタそんなことを考えていると扉がガチャンと開いた。
「やっぱり朱音ちゃんだ。なにしてるの?」
マスターは前屈みに扉を開け笑顔で聞いてきた。
「あ、えっと。おはようございます」
私はビックリしてとりあえず朝の挨拶をした。
「おはよう。そんな所で立ってないで入りなよ」
マスターは数秒瞬きして笑顔で返してくれた。
「は、はい」
私はマスターに言われるまま足を扉に向ける。
その足取りはもう重くはなくスムーズに喫茶店に入った。緊張もいつのまにか無くなっていた。
マスターはカウンターに戻り私は奥にあるロッカーを開けてモップと雑巾を取り出した。
それからはいつものように私は店の掃除を、マスターはコーヒーを作っていた。
会話は無く店は酷く静かだった。
いつもなら私が元気に話ながら仕事をしてるのに今日はなぜか話題が出ない。頭の中で考えては消えて、真っ白になる。
私は黙々と机を拭いていった。
「そういえば…」
マスターが口を開いた。
「は、はい!」
私はなぜかビックリして拭いていた手を止める。
「....朱音ちゃん今日少し変じゃない?大丈夫?」
マスターが首を傾げて心配そうに聞いてくる。
「そう…ですか?」
私は雑巾をテーブルに置いてマスターを見た。
「いや、僕の気のせいかもしれないけど。緊張してないかな?」
マスターは私をじっと見つめる。
「変…かもしれないです。時間の感覚がおかしくなった気がするんですよね」
「……?」
マスターは私の言ってることがよく分からないのか頭にハテナが浮かんでいる。
「なんかここに来るのがスゴく久しぶりに感じちゃって、いつもと一緒一週間ぶりなのにもうずっと来てない気がして、マスターに会うのも久しぶりでなぜか緊張しちゃって…」
―おかしいですか?。私はマスターに自分でもよく分からない質問をした。
「いいえ。おかしくないですよ」
マスターは首を横に振って答えた。
「僕もそんな風になったことあります」
「あるんですか?!」
「えぇ....大学の頃、通っていたサークルがあったんです。毎日通ってたんですがあるとき一週間行かない日があって翌週に行くときは酷く緊張したのを覚えてます」
マスターは懐かしいといった顔をしていた。
「マスターはどんなサークルに入ってたんですか?」
私はそっちの方に興味を持ってしまい質問した。
「あれ!?緊張の話じゃ無かった?!」
マスターは少し驚いた顔をしたがすぐいつもの優しい顔に戻り話始めた。
「僕は…サークルというか一人の先輩が勝手に部屋を使ってサークルにしてたんです。『心理研究』と名前をつけて」
「心理研究ですか?」
「まぁ、名ばかりのよく分からない実験をしているサークルです」
マスターが苦笑いをした。
「マスターは何でそのサークルに入ったんですか?」
「その先輩が、僕のことを理解してくれたから....ですかね。まぁ、自分勝手な人でしたが」
マスターは懐かしい顔をしている。
「理解…ですか?」
私はマスターの言葉に首を傾げた。
「この話はいいじゃないですか。辛気臭くなるので話を変えましょう。この連休どうでしたか?」
マスターは優しい顔で私に聞いてくる。
マスターはあまり自分のことを話さない。話したとしてもすぐに話題が変わる。ただ、話したく無いだけなのか、それは私にも分からない。
マスターがこれ以上踏み込んで来るなと言われたら私は踏み込めない。マスターと私の間に線がひかれてる。そんな気がする。
だけどマスターは常に優しい顔で接してくれる。
―いまだに私はマスターのことを理解していない。―
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