迷子のマイゴ(その2)


長く感じた先週の土日が終わり、今週から連休が始まった。私たち高校生が学校に行くのはたったの二日だけそれからは五日間の休みが待っていた。


加藤さん達は家族でどこかへ出掛けると言っていた。舞彩さんは彼氏さんの所へ遊びに行くらしい。マスターはというと特に何も考えてないと言っていた。この連休も店を開けてるのだろうか?

私は土日しかバイトに行ってなく、それはこの連休も変わらない。マスターに入ると言うと「たまにはのんびり羽を伸ばして来なさい」と言われてしまった。

優しさで言ってくれたのだろうけど私はなぜか悲しくなった。


今日は久しぶりに友達と出掛けていた。

大きなデパートに買い物しにきたり、食べに来たりした。


「ねぇ?…ねぇってば!」

「え?!、なに?」

 友達が大きな声で呼び掛ける。

 私はハッ!となり友達の方を見る。

「ボーっとしてどうしたのよ?」

「え? ボーっとしてた?」

「してたよ。どこか上の空で」

「そうそう。呼び掛けても空返事しかしないし」

 友達二人が私を心配そうな顔で見つめる。

「そ、そんなことないよ」

 私は苦笑いした。

「やっぱりバイト大変とか?」

「何か悩みごとでもある?」

 友達二人が心配そうに聞いてくる。

「いや、本当に何もないってば。ごめんね」

 心配してくれるのは嬉しいけど特に悩みなんてない。ただ時々、喫茶店のことを考えてしまうだけだ。

「それならいいけど」

 友達がホッとした顔をする。

「朱音と遊べるの久しぶりだから楽しみにしてたのに朱音が乗り気じゃなきゃ意味無いよ~」

 片方の友達が机に顎をつけ膨れっ面をする。

「そんなことないよ。私もスゴく楽しみだったよ」

「ならいいけど~」

「次はどうしよっか?」

「私、服みたい!ここいこーよ!」

 友達がスマホを開きお店の名前を見せてくる。

「いいね。行ってみよっか」

 私と友達も賛成して、ご飯を食べたらそこに行くことが決まった。


そこから服を見たり、クレープを食べたり、雑貨屋を覗いたり、本屋に寄ったり、たくさん歩き回った。


「疲れた~」

 友達がベンチに力が抜けたように座り込む。

「たくさん回ったもんね」

「私何か飲み物買ってくるよ。何かいる?」

「私は何でも良い~」

「炭酸系なら何でも」

「りょーかい。行ってくるね」

 友達二人は手を振って見送ってくれた。

 皆、喉が渇いて声がカスカスだ。


私は近くに自販機があるか辺りを探す。

大抵は端っことかにありそうだけど。

私は少し歩いて自販機を見つけた。

炭酸系なら何でもと言っていたしコーラでいっか。もう一つは無難に紅茶かな。私はお茶でいいや。

飲み物を持って私は友達の元に戻った。


「お待たせ~。はいこれ」

「サンキュー」 

「ありがとー」

 二人に飲み物を渡すとすぐに蓋を開け、口に淹れた。

「はぁー。生き返った~」

「炭酸が喉に染みる~」

「それは良かったよ」

 私もベンチに座り買ってきたお茶を飲んだ。


「あ!聞いて聞いて。隣のクラスのあの子とウチのクラスの子が付き合ったらしいよ」

 一人の友達が笑顔で話題を振った。

「え?ホントに?」

「うん。SNSで回ってきたから」 

「あの二人良い雰囲気だったもんね~」

「うんうん。羨ましいね」

「そうだね」

 二人は深く首を縦に振り共感していた。

 

二人が恋ばなを始めた時は大抵私は発言せず二人の会話を聞いた。私は二人と違いそんな情報は入ってこない。皆、どうやって知ってるのかが不思議なくらい。


「ねぇ?朱音はいないの?」

「…え?、何が?」

「好きな人とか気になってる子とか」

「いないよ。男子の友達なんて少ないし」

「あの子は違うの?たまに一緒に話してる子」

「あの人は委員が一緒だからたまにその話をするだけでちゃんと話したことなんて無いよ」

「朱音もそろそろ恋しよーよー」

「私はまだいいかな」

「恋は楽しいのに?」

「そして辛いな」

 友達が苦い顔をする。もう片方もうんうんと頷く。

「辛いのは無しで」

「そんな恋なんてあるわけないって」

「あったら私もその恋がいいよ~」

 二人は私の発言に笑って答える。

 


恋愛は楽しいけど辛い。それなら私は恋愛する気は起きないな。好きな人自体まだいないし。


「じゃあ、朱音目を閉じて」

「え?なになに?」

「いいからいいから」

 言われるがまま私は目を閉じた。

「貴方が今思い浮かぶ身近男性は?」

「…?」

 私は目を閉じ想像する。今も一人で喫茶店に居るのかと思うと自然にその光景が目の裏に浮かび上がった。

 思い浮かんだのはコーヒーを作っている優しいマスターだった。

「どう?誰か浮かんだ?」

 興味津々に友達が聞いてくる。

「いや、誰も浮かばなかったよ」

「えーマジかー」

 友達がガクっと肩を落とした。

「まぁまぁ、そのウチ出来たら教えてよ?」

 片方の友達が肩を落としている友達の肩を叩きながら私に言う。

「できたらね」

 私は笑顔で返事した。


マスターの顔が浮かんだのはたまたまだろう。今どうしているんだろうか。上を見つめふとそんなことを考えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る