第六話
迷子のマイゴ(その1)
男の人が子どもに会いに行った時、私とマスター、舞彩さんもその近くに居た。というよりも舞彩さんが全てを引っ張ってこの瞬間が出来ていた。
私たちはあの雰囲気を壊すのが申し訳なく黙って帰った。
「会いに行けて良かったですね」
「そうですね。きっと舞彩さんに感謝してると思いますよ」
「私?!」
「はい。だって舞彩さんがあの人をあそこまで引っ張って行ったんですから。舞彩さんがいなければ行くのはもっと先になっていたか、いつまでも行けなかったと思います」
「そ、そうかな」
舞彩さんは褒められて少し恥ずかしがっている。
「ちょっと強引だったと私は思うけどなぁ」
私は少し嫌味っぽく口にしてしまった。
「それは…否定できないかも…」
舞彩さんも自覚があったのか目をそらして頬をかいている。
私は少し驚いた。舞彩さん、自分が強引だと自覚してたんだ....決してバカにしているわけではない。あそこまで行動したら自分のことを褒めてもいいのに、ましてや悩みを解決して何も悪いことはしてない。
自覚していると言うことは自分の行動を振り返り決して良いとは思ってないから私の言葉を肯定したんだと思う。
私は少し舞彩さんを尊敬した。
「ま!解決できたんだし結果オーライよ!」
舞彩さんはニコッと笑った。
「そうですね」
つられて私とマスターも笑った。
私たちは喫茶店までの道のりをゆっくりと歩いた。後ろでは夕日が沈もうとしている。気づけば時間は五時を過ぎていた。あの男の人が店に来てから二時間は過ぎていることになる。
私はふと後ろを振り返り夕日を見た。
青かった空が赤く染まる。久しぶりに夕日を見たと思う。
「こんなに綺麗なんですね」
感想が私の口から自然に溢れた。
「そうですね。僕も夕日を見たのは久しぶりです」
「いつも見てるはずなのに記憶に残らないよねー。夕日って」
「空や時計を見ると時間が分かるからですかね。暗くなる空を見たり、時間を確認すると次第に夕方だと分かるから夕日を眺めることなんてそうそう無いと思います」
「あー確かに、時間見たら大体わかるもんね」
私たちはそんなたわいない話をしながら、加藤さんたちが待つ喫茶店に帰った。
加藤さんには本当に申し訳無いと思い、私とマスターは一緒に頭を下げた。
加藤さんは「大丈夫ですから。そんな頭を下げられても」と手がオドオドしていた。
それでは気がすまないとマスターは言って今回のお代を無しにした。
「そんな、ちゃんと払いますよ」
加藤さんが鞄から財布を出す素振りをする。
「いえ、本当に結構です。今日は僕の奢りです。こんなことではダメなのでまたお礼を指してください」
マスターは手を前に出し首を振った。
なんとか納得してもらい加藤さんは申し訳ないと言う顔をして帰っていった。
「それではありがとうございます」
加藤さんと海斗くんは頭を下げ出ていった。
「バイバーイ」
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
舞彩さんは笑顔で両手を振り、私とマスターはお辞儀をして見送った。
「色々な一日でしたね」
私は疲れがきたのかカウンターに座り、前にもたれた。
「僕も久しぶりに走って疲れましたよ。体力が落ちたかもしれません」
食器の片付けをしながら自分の身体を見ている。
「歳なんじゃない?」
舞彩さんが悪い顔をしてマスターに聞く
「マスターはそんなに老けてませんよ」
私はマスターの代わりに舞彩さんに答えた。
「いや、本当にそうかもしれませんね」
私の代弁をマスターはあっさり否定した。
「せっかく否定したのに」
ムスっと口を尖らせマスターを見る。
「ハハハ、ごめんなさい」
苦笑いで謝るマスター。
「そんなことよりもうすぐ連休だけど二人はどこか行くの?」
舞彩さんは唐突に話題を変えてきた。
「私は友達とお出掛けかな」
「僕は特に何も考えてませんね」
「じゃあ、マスター私と旅行する?」
舞彩さんはニヤニヤしながら聞く。
「彼氏さんの所についていくのは勘弁して下さい」
「あれ?何で分かったの?」
舞彩さんがビックリした顔をする。
「昨日、メールで言ってたじゃないですか」
マスターは呆れ顔で舞彩さんを見る。
「そうだっけ?」
テヘッ、笑って誤魔化す舞彩さん。
私とマスターは疲れのせいか呆れてモノも言えなかった。
そこから舞彩さんの彼氏トークはマシンガンのように止まらなくなり、一人でずっと話している。
私とマスターはどうすれば止まるのなヒソヒソと話合い止める方法を考えた。
舞彩さんに解放されたのはそれから一時間は過ぎていた。
よくもまぁ彼氏とのノロケ話やら色々と止まらず口から出てくるものだと思った。
その分、舞彩さんがどれほど彼氏さんのことが好きなのか分かったような気がした。
恋愛してる女の子はスゴいと私は関心し、いつかは自分のこうなるのだろうかと考えると色々と悩まされる。
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