家族のカタチ(その6)
舞彩さんたちを追いかけ後をついていく。
喫茶店からどれほど離れただろうかもう姿形も見えない。
「おじさんどっち?」
舞彩さんは男の人に聞きながら先頭を行く。
男の人は頭がついていっていないのか、ただただ道案内をした。
さらに少し走ると小さなパン屋があった。
「こ、ここです」
男が言うと舞彩さんは男の腕を離し止まった。
「ほら、行かなくちゃ」
舞彩さんは後ろから男の人を押して急かす。
私たちも後ろから走ってきて追い付いた。
久しぶりに走ったせいか私もマスターも肩で息をしていた。
「舞彩さん、そんな急かすと…」
私が止めに入ろうとするとマスターが腕を伸ばして止めた。
「大人しく見ておきましょう」
「でも、」
「舞彩さんなりの優しさなのでしょう。あの男の人は多分一人ならあの公園から先に、ここに来ることは無理だったから」
「それって…」
「言葉でどれだけ言ってもあの人は余計に悩まされるだけでしょう。けど行動に起こせば悩む前にここに来れる。僕には出来ないことです。人を無理矢理動かし進ませるのも一つの方法です」
「それが舞彩さんの優しさですか」
「そうですね。今回は舞彩さんが居なければ何も出来なかったかもしれません」
マスターは前の二人を見つめて呟いた。
話している間に大事な場面を見過ごしてしまい気づけば義夫婦と子どもが外に出てきている。
男は地に伏せ、涙を流しながら謝っている。義夫婦は優しく手を貸している。子どもが後ろから恐る恐る近づき、男が腕を横に伸ばすと走って抱きついた。二人とも涙を流し強く抱き合っている。
舞彩さんは二人を見つめながら後ずさり私たちの所へ来た。
「これで良かったのかな…」
舞彩さんがぼそりと呟く。
「舞彩さんのおかげであの二人は会えたんです。良いと僕は思いますよ」
マスターはニコリと笑う。
「でも奥さんがかわいそうです」
「目覚めるのをただただ祈るしか僕たちには出来ません。奇跡を信じるだけしか」
マスターは空を見上げた。
「そう、ですね」
「絶対目を覚ますと私は信じてる」
舞彩さんは強く拳を握り強い眼差しで空を見上げた。
連休が終わり、あれから舞彩さんはちょくちょく公園に見に行ってるらしい。
「マスター!聞いて聞いて!」
扉をバンッと開け走って舞彩さんが入って来た。
「どうしたんですか。そんなに急いで」
「見たの!私見たの!」
「舞彩さん、とりあえず落ち着いて」
マスターは深呼吸して、と言い舞彩さんも従ってゆっくりと深呼吸をして落ち着いた。
「あのおじさんと子どもを見たの!」
「…どうでしたか?」
マスターは目を開きビックリしたがすぐに戻り優しく聞いた。
「隣に女の人も居てた!あれって奥さんだと思う!」
「じゃあ、目が覚めたんですね」
私は舞彩さんの話を聞いて喜んだ。
「それは、良かったです。奇跡は起きるものなんですね....」
マスターも安堵の笑みを浮かべた。
「私も嬉しかったなぁー。これで家族が揃ったからまた一歩進めるね」
舞彩さんが満面よ笑顔をした。
「そうですね。次は家族で来てほしいですね」
「連れてきてあげようか?」
「そこまではしなくて結構です」
舞彩さんの反応にマスターは手を出し首を振った。
「でも私たちも見たいですね。三人の笑顔」
私は笑いながら二人に言った。
「忘れた頃にまた出会いますよ。きっと」
マスターはそう言うとコーヒーを炊き始めた。
舞彩さんと私とマスターの三人でコーヒーを飲みながら楽しく会話をしてその日は閉じた。
連休中にも色々あったけど今日はとりあえずあの家族のことを聞けて良かった。
舞彩さんの行動を起こす優しさ。
マスターの人の話を聞き相談に乗る優しさ。
どちらも私には無いモノで少し舞彩さんに嫉妬した気持ちが心の隅にあった。
私もそういう優しさが欲しいと強く思った出来事だった。
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