第五話

家族のカタチ(その1)

冬の寒さから春の暖かさに変わったとつい最近までは思っていたのに気づいたら春の暖かさが消えていき夏の暑さに変わっていく。

昼間の気温は20℃を越え、歩く人たちは皆半袖に変わっている。

かくいう私も今日は半袖で此処に来ている。


「あっついですぅ」

 力の無い声が私の口から漏れた。

「最近になって一気に気温が上がりましたからね」

「マスターは暑くないんですか?」

「暑いに決まってます」

 

即答するマスター。じゃあ、何で半袖じゃなくて長袖の黒いシャツを着てるんですか。いつも通りで変わっていない。見てるだけで暑い。

私はマスターを見ると顔を下げ深くため息をついた。


「暑いし人は来ませんし何もない」

 窓から外を見るが人が来る気配が全然しない。

「来週からは連休ですからね。皆さん忙しいんですよ」

「連休が始まる前は忙しいんですか?」

 私は首をかしげてマスターに聞く。

「連休が始まると仕事がストップしてしまうから先に片付けてしまうんです。連休開けに仕事量が増えないように」

 私はマスターの言ってる意味が分からず余計に首を傾げてしまう。

「えっと....?つまり?」

「朱音ちゃんに分かりやすく言うと、連休が始まるから教師は課題や宿題をたくさん出すでしょう?」

「はい」

「でも連休に宿題をするのは嫌と言う人もいます」

「あー私は嫌ですね」

「そう。じゃあ連休が始まる前に宿題を渡されたら?」

「連休が始まる前に終わらして連休は楽をしますね」

「つまりはそういうことです」

 マスターは頷いた。

「あーなるほど」

 私は納得して首を縦に振った。

「ウチは連休も人は来ないと思いますけどね」

 マスターが小さく笑った。

「何でですか?休みなら人も増えるはずなのに」

「皆、遠出するでしょ。ウチみたいに町外れの喫茶店なんて来る人居ないと思いますよ」

「えーずっと暇ですか?」

「朱音ちゃんもバイトは休んでも大丈夫だから連休は遊んでおいで」

 マスターは笑顔で言ってくれた。


連休は確かに遊びたい、けどその間マスターはずっと一人で此処に居る。私だけ楽しむのは申し訳無いというか…悲しいというか…そんな気持ちがモヤモヤと膨らんでいった。


カランカランと扉が開いた。私は扉の方を見ると女性と子どもが扉の前に立っている。

子どもは扉が開くと走って私の方へ向かってきた。私は走ってくる子をそのまま抱き止め脇を持ち上へ持ち上げた


「こら、走っちゃダメでしょ」

 女性が叱る声と子どもの笑う声が店内に響いた。

「いらっしゃいませ。加藤さん」

 私は子ども抱いたまま加藤さんの方へ向き、続けて抱いている子どもの方を見た。

「海斗くんもいらっしゃい。久しぶりだね」

「うん!」

 海斗くんは大きな声で言うと私に抱きついてきた。子どもに好かれるのは嬉しい。

「ごめんね。ウチの子が…」

 加藤さんが申し訳ない顔で言ってくる。

「いえいえ、そんな私も好かれるのは嬉しいので」

「いつもありがとうね」

 加藤さんは優しく笑った。

「好きな所へどうぞ」

 マスターは店内に腕を広げて加藤さんを見る。加藤さんも好きな所へ、というかいつもの定位置に座った。

「いつものでいいですか?」

 マスターが聞くと加藤さんは「はい」と頷いた。


私も海斗くんを抱き抱え加藤さんの所へ運んだ。

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