赤い糸(その2)


マスターが作ったオムライスを無邪気に食べる海斗くん。その横で私と加藤さんは雑談して、マスターは後片付けをしていた。


「私、後片付けしますよ」

 裾をまくり上げてマスターの所へ向かった。

「いや、大丈夫だよ。加藤さん達とお話しておいで。たぶん今日はもう来ないと思うから」

 そう言ってマスターは奥に行った。


海斗くんが食べ終わり私はマスターが持って来てくれたオモチャで一緒に遊んだ。

パズルやお絵描き、間違い探しの本もあった。

私は海斗くんと一緒に間違い探しをした。


「ありがとうございます。遊んでもらって」

 加藤さんが申し訳なさそうな顔をして私に言った。

「いえいえ、そんなマスターからいいって言われたので子どもと遊ぶのは大好きです」

 私はニコっと笑って言った。

「朱音ちゃんは彼氏とか居るんですか?」

「え!?....い、居ませんよ!居たことないです」 

 私は突然の質問にビックリして手を横に振って否定した。

「モテそうなのに....」

 加藤さんは首を傾げている。

「ねぇ~、僕もビックリしましたよ」

 奥からマスターが手を拭きながら戻ってきてた。

「優しくて可愛いから居そうなんですけどね」

 マスターが笑いながら言う。

「もう二人してからかわないでください!」

 私は恥ずかしくなり大きな声で言った。


二人は笑いながら謝った。こんな風にからかわれたのは初めてで恥ずかしくして顔が暑くなってきた。好きな人も居たこと無いのに私に彼氏なんて出来るわけ無い。この話はこれで一旦終了した。


加藤さん達はマスターも加わり雑談を少しして帰っていった。「また来ますね」とお辞儀をして出ていった。

律儀な人だとマスターと感心しながら見送った。


「優しくて綺麗な人ですね」

「そうだね。旦那さんが羨ましいね」

 私とマスターは閉まっていく扉を見ながら言った。

「マスターは彼女居ないんですか?」

 さっきの話を思い出して聞いてみる。

 マスターは少しビックリしたような顔を一瞬したがすぐに元の顔に戻り言った。

「僕なんかに居るわけないですよ」

 

マスターはそう言うが私は居ておかしくないのにと思った。顔は普通にカッコいいし、優しいし、素敵な男性だと思う。


「朱音ちゃんは赤い糸って信じますか?」

「それって運命の人と小指同士が糸で繋がっているって話ですよね」

「そうです。本当に赤い糸があるなら僕の運命の人は多分どこにも居ないんですよ」

 マスターが遠い目をして言った。どこか寂しそうな顔している。

「それってどういう意味ですか?」

 私はマスターの言ってる意味が分からず聞いてみる。

「....昔の話です」


「え....」と呟いた時、扉が開く音がした。私はビックリして見ると一人の男が息を切らして立っていた。


「い、いらっしゃいませ」

 私は少し怖くて噛んでしまった。

「いらっしゃいませ」

 マスターは優しく微笑んだ。さっきまでの顔が嘘のように。


男は肩で息しながらこちらに近づいてくる。年齢は私と同じぐらいか先輩かな。年上は苦手で少し怖い。


「見つけたぞ。お前か....俺の彼女を奪ったのは!」

 男はマスターの方に指を指して大きな声で言った。


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