第27話 第2の危機
真銀戦の侵攻を阻止した今、殲滅部隊は負傷者らの救護に追われた。
防衛成功と言えどもその被害は甚大なものであった。
星間連合支部前には救護班員や職員などが事態収束のために慌ただしく走り回っていた。
しかし、バッカスとの戦闘を終えた玲人とジョーカーが帰還すると走り回っていた彼らは足を止め、敬礼をした。真銀戦との戦闘に終止符を打ったのは紛れもなく玲人たちであったからだ。
隊員は敬礼を終えると隊長の功績をたたえようとジョーカーに群がった。
ジョーカーは群がってきた隊員らを押しのけてすぐさま支部内の治療室へと向かう。
シーナの状態を見るためである。また、彼自身が治療を受けるためでもあった。
1人取り残された玲人にちょうど司令室から出て来た浩二が駆け寄る。
『大丈夫だったか?』
優しい笑顔を顔に浮かべながら浩二は玲人を抱きしめた。
一度は死の淵を歩いた子が無事にいる。そうなればこんな笑顔をこぼすのだろう。
『うん、ありがとう叔父さん』
互いの無事を確かめるようにそう言った。
『それで、例の【ゼウス】は見つかったのか?』
『多分このキャリーバッグだよ。すぐそこに放置されてたんだ。あそこじゃ何もできないからここまで持ってきた』
引きずって来たキャリーバッグを浩二に渡す。外見からは推測できないほど重く、それがただのキャリーバッグ出ないことを告げていた。
『これは重いな。火薬が入ってるとしたら相当量だな。莫大な殺傷力をもってそうだ』
浩二がキャリーバッグを持って言う。
ただ、さすがに1人では支えきれないのか、それが重いことを確かめるとすぐに地面へと置いた。
『それより、ジョーカーがどこに行ったか知らないか?』
『多分シーナさんのところだと思うよ』
『そうか、会議を開きたいと思ってな』
浩二は扉を開いて支部内に入り、治療室へと向かった。そのあとを玲人が追いかける。
室中には未だ重軽傷の隊員で溢れかえっており、錆びた鉄の匂いが漂っていた。
『ジョーカー、いるか?』
浩二の声に反応した何人かの隊員がこちらを向いたが返事はなかった。
『何処かに行ったみたいだね』
『そうらしいな、まあいい、インカム上で会議を開くか』
そう言って浩二は司令室へ行った。
司令室はパルテノン全体の被害を確認するために職員たちが慌ただしく動いていた。
侵攻を阻止した今でも被害の実態を確認するためにモニターは忙しなくあちこちの映像を映し出す。それを目で追いながら職員はどこかに電話をかけていた。
職員の邪魔にならないように隅へ移動し、使われていないモニターに電源入れる。そしてインカムをモニターに接続した。
『なんでモニターにつけるの?』
『インカムは構造上2人同士でしか通信ができないらしくてな、だからこれにつながないと全員で話せないんだ』
モニターとインカムの接続が完了し、インカムをつけている人の名前が浮かび上がった。
・ベイツ・ジョーカー 接続
・神内浩二 接続
・神内玲人 接続
・ハリス・シーナ 接続
・ハリス・シーナ 接続
映し出された名前を見て、最初に疑問の声をあげたのは玲人だった。
『なんでシーナさんが2人いるのら?』
だが浩二は答えられない。接続の不備だとしても説明がつかなかったからだ。
接続されてある名前が5つ表示されているということは、つまり5つのインカムに電源が入っていることになる。
不安に思った浩二がモニターの電源を切り、インカムの接続を断つ。
『少し待て』
浩二がジョーカーと連絡を取る。
『ジョーカーか? 実は今インカム上で会議を開こうと思ったんだが何故かシーナさんが2人いるんだ。何故かわかるか?』
『ああ、エリア51で点検をしてた時に落としたらしい。その拍子に電源が入ったんだろう。それで、今まで放置されてたわけだ。問題ねぇ。俺は今支部内にはいないからインカム上で会議を開くんだったらそれでいいぞ?』
通信を終える。納得したことで浩二は再びモニターにインカムを接続した
・ベイツ・ジョーカー 接続
・神内浩二 接続
・神内玲人 接続
・ハリス・シーナ 接続
・ハリス・シーナ 接続
やはり画面上には5つのインカムが表示される。
『聞こえてるか?』
浩二の問いかけに各々が短く返事する。
音を拾ったことを示すゲージに光が点灯した。
どうやら通信は良好のようだ。
『今回の襲撃で真銀戦の言う【ゼウス】と言う兵器に心当たりはないか?』
『わたしはありません』
『なら多分バッカスが持ってたキャリーバッグが疑わしいな』
『そうか、なら……』
そう浩二が答えようとした時だった。何も聞こえないはずの2つ目のシーナのインカムのゲージに光がともり、わずかな声が流れた。
『みんな静かに!』
玲人が叫ぶ。
叫び声が耳を貫き、浩二は反射的にインカムを取り外した。
『どうしたんだレイジ?』
ジョーカーが尋ねる。
『シーナさんの2つ目のインカムから声が聞こえるんだ』
そう言われてジョーカーたちは静かに耳を傾けた。
『……………』
『確かに何か言ってんな。だけど全く聞こえねぇ、コウジ、音量を上げられるか?』
『もちろんだ』
浩二が音量キーを上げ、徐々に音量が上がる。
『音量が下がるまで誰も喋るんじゃねえぞ。相手に聞こえるし何より耳が死ぬ』
忠告のようにジョーカーが小さく呟く。
それを最後に、誰も話さなくなった。
音量が上がるにつれ、次第に聞こえなかった声が鮮明になって行く。
そして、ようやく耳で捉えれるほどに声は大きくなった。
しかし最大音量でも声主がインカムから相当遠いのか、会話は細切れになって耳に届いた。
『フェザードか?………ノン侵攻…失敗……。バッカス…陽動部隊………れた。【ゼウス】の行方は………ない、もしかしたら…………が設置した可能性………が中央街外郭で光が消…………多分外郭に野ざらしに……………だろう。……うち回収され…はずだ。そ…な…ば自ず…もう1つの作戦は成功する。ゼウスの爆発による惑条……支部の破壊……。フェザード、お前が来る必要はもうない。私はもう………この星を脱出……40分………』
程なくして沈黙。何も聞こえなくなった。声主がインカムのそばを離れたらしい。浩二が音量を下げてく。
『聞こえたか?』
『……もちろんだ。推測するに声主は参謀のムセイオンだろう。【ゼウス】はそのキャリーバッグで確定。そしてそれは40分後に爆発する爆発物だ。支部を丸ごとなくすほどのな。多分解除は困難だ。今すぐ支部に戻る。シーナ、商業用ロケットを1つ用意してくれ』
やはり鍛え方が違うのか、断片的にしか聞き取れなかった会話をジョーカーは完璧に拾い上げていた。
『なんのために使うのでしょうか?』
『もちろん、飛ばすんだよ。【ゼウス】とやらを星の外までな』
そうして会議は終わり、各々が第2の危機に備え動き始める。
しかし防衛時と違い今や殲滅部隊員らは消耗しきり、もはや動ける部隊は少数である。
その少数の部隊を使い【ゼウス】に備えなければいけない。
乾いた風が司令室の窓から入り込み、小さく鳴いていた。
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