第17話 準備
――とある飛翔船――
パルテノンへと向かっている2人の男。片方は口をつぐみ目を瞑り、もう片方は静かに窓の外を見つめていた。外に広がるのはどこまでも続く暗い宇宙だけであり、別段目新しいものや目を引くものは存在しない。けれども彼には見えていた。目的の星が。
自動操縦で宇宙を漂う飛翔船内にいたのはムセイオンとバッカスであった。彼ら以外、船内にはだれもいない。フェザードは前作戦の都合上別行動をとっていた。
『なぁ、ムセイオン。俺はよぉ、久しぶりに暴れるんだ。だからあまり口出しするなよ?』
バッカスが睨みながら言う。暴力のみを生きがいとするバッカスの性格が冷静に作戦をこなす自身の性格と相いれないのは百も承知なのか、目を瞑っていたムセイオンはうるさそうに目を開くと少しだけ開いた口から声を静かに発する。
『するわけがないだろ、お前はその【ゼウス】を星間連合付近に配置すればいい。それさえできれば文句は言わない。2度とティータスでのような失敗は繰り返すな。計算が狂う』
それだけ言うとムセイオンは窓の外を見た。そこには今さっき破壊したばかりの旅客飛翔船の残骸が漂っていた。見るも無残になったこの船はもはや原型すら思い出せない。
そしてその残骸にムセイオンはパルテノンの未来を重ねていた。
真銀戦は破壊する。
罪なきモノも、邪魔するモノも。
そこに意味など介在しない。
だからこそ、厳密に言えば彼らはテロリストなどではない。
ただの【破壊者】なのだ。
彼らを乗せた飛翔船は静かにパルテノンへと向かう。
彼らの起こす行動。
それはティータス襲撃事件の再来。ジュラポリスディザスターの残骸。
つまりはまだ見ぬ理不尽な破壊。
―――パルテノン到着まで、後2週間―――
――惑星パルテノン――
エリア51の利用期間はシーナによってもう一ヶ月延長された。
真銀戦襲撃に備えた会議のためである。
街中では誰が敵の工作員なのかわからない以上盗聴や情報漏えいの危険を危惧し誰の目も届かないここでやることにしたのだ。
エリア51の小屋の中。
そこに集まっていたのはシーナ、ジョーカー、浩二、玲人の4人だけであった。
『では、私から説明をさせてもらいます。まず、独自に今月のパルテノン入星者、および出星者を調べました。結果、例年よりも若干数増えています。統計学上の誤差として片付けることも出来ますが、この時期、このタイミング、明らかに不自然です』
プロジェクターに映し出された棒グラフを見ながらシーナが説明をする。
『集まりつつあるってわけか……』
ジョーカーがうなった。
室内が重々しい雰囲気に包まれる。窓を撫でる風の音が静かに響いた。
『星間連合側への連絡はしたのか?』
浩二が尋ねた。長年敵対してきた真銀戦の襲撃を予測したとなれば星間連合も動くだろう。加え、その予測に絶対的な根拠と確証が加われば星間連合による迎撃準備が行われるはずだと浩二は期待した。
しかし、ジョーカーが呆れ顔をして首を振る。
『したぜ。結果は「そんな不確かな情報では軍は動かせない。現地の殲滅部隊で対処せよ」とのことだ。一緒に傍受内容も報告したが音沙汰なし。援軍は絶望的だろうな』
プロジェクターの映像が切り替わり、敵の予測勢力図が映し出される。
『俺たちの戦力は2000弱、対して過去の例から真銀戦側は2万弱だろうな。この戦力差は絶望的だ。けれど、負けたわけじゃねえ、勝機はある。俺たちが防衛、真銀戦が侵攻ってとこだ。通常ならば防衛側の方が数段有利になるはずだからな』
『確かにそうだが、真銀戦の侵攻に防衛成功した事例があったか?』
『私の調査ではそのような報告は存在しておりませんでした』
真銀戦の通った後には何も残らない。s現実を告げるシーナの報告が部屋の重々しさを加速させる。
絶望的戦力差。
前例なしの防衛作戦。
成功するはずがない、生存者が出ればいいところ。
そうジョーカーたちが考えていた時、切り裂くように玲人が叫んだ。
『そんなの関係ないでしょ! 僕が! 僕たちが! あいつらに勝てばいいんだよ! 僕は強くなった、ジョーカー並みに! だから勝てるし負けるはずがない!』
それは希望的観測だった。若さゆえの希望論。根拠などないただの虚勢。だけれど、さきほどと違い、室内の空気は軽くなっていた。
『その行きだレイジ。俺も弱くなったもんだぜ。今回の作戦には自信があるんだ。概要を
説明するぞ』
画像がパルテノン地図に切り替わる。
中央街中心に建つ星間連合支部を中心に同心円状に形成されているスラム街外郭までがその地図にはおさめられており、パルテノンの地形構造が俯瞰できた。
『この星、パルテノンには拠点が1つしかない、それがここ中央街だ。』
ジョーカーが地図の中央を指しながら説明する。
『その周りを囲むようにこの星にはスラム街が形成されている。そしてここエリア51はさらにスラム街の外にある。作戦概要はこうだ』
中央街が拡大された。
『中央街外殻を拠点を構えてシーナと俺の殲滅部隊で真銀戦に応戦する。俺とレイジはずば抜けて強い。ならば本部隊と固まらずに遊撃していったほうが効率的だ。シーナ、お前に殲滅部隊の全権を委ねる。中央街の防衛はお前に任せた』
シーナが了解した、と言わんばかりに頷く。
『次に浩二。お前は支部長の経験があるんだろ?星間連合支部で随一シーナ達と俺たちに連絡、命令を出してくれ。』
『了解した』
浩二も頷く。
『そしてレイジ、お前は俺と一緒に来い。敵幹部を後ろから攻撃する』
『わかったよ』
玲人も頷いた。
『作戦の概要は以上だ。実行開始は真銀戦襲撃と同じ1週間後、それまでにシーナは殲滅部隊を纏め上げ、浩二は星間連合の中枢に入ってくれ。俺とレイジは万全を期すために準備をする』
そういってジョーカーはインカム【小型イヤホン】を人数分取り出した。
驚くほど小型で気をつけなければ落として踏んでしまいそうだ。
『これを奥歯と耳に嵌め込め。これの電力は5日しか持たない。だから作戦開始の前日に電源を入れておけ。これは通信に独自のマイクロ波を使う。だから傍受される心配はないはずだ』
マイクロ波。それを聞いて浩二は一抹の不安を感じた。
真銀戦の暗号通信と同じ波。だけどそれを使っていたのは星間通信だ。こんな至近距離での通信には使わないはず、と考えて言葉にはしなかった。
各々がインカムを受け取る。
そしてその日、前代未聞のパルテノン防衛作戦が始まった。
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