第16話 傍受内容
遡ること一ヶ月、エリア51へと向かう玲人達と別れを告げた浩二はジョーカーの私邸を訪れていた。スラム街路地の人目に付かない場所。そこに扉はある。ジョーカーが例の扉の位置まで移動すると浩二に扉のロック解除キーを教え、開門用の声紋を登録した。
ジョーカーが扉を開け、中に入る。6枚のモニターだけが室内を照らしているせいかやはり中は薄暗い。それを見て浩二が驚いた声を上げた。なぜならばそれに見覚えがあったから。そう、機密用I.E.R【unknown】だ。
しかし、浩二が持っていたunknownとは違い、それの性能は1段先を行っていた。
浩二のunknownは元支部長の立場もあり、世間に漏れたことも考えやや控えめに作ってあった。
しかしここは秘密の私邸。バレることもなければジョーカー以外使うこともない。つまり手加減などされていない。
様々な違法行為の集大成。まさにunknownの名にふさわしい情報収集装置だった。
それに加え私用の情報収集衛星をジョーカーは有していた。これらふたつを使えばで捕まらない情報はないに等しく、現にジョーカーはこれまで様々な通信を傍受していた。
『使い方ぐらいわかるよな?』
頷く代わりに浩二はモニター前まで近づくと乱雑に置かれていたキーボードに指を置いた。真銀戦、と入力し、その項目を調べる。
情報はすぐに出てきた。
【真銀戦、正式名称真蓋銀河統一戦線、刑務囚惑星バベルへと運び込まれた250億もの囚人で構成された宇宙テロ組織。600年前に成立。バベル職員を皆殺しに宇宙へ散開。200年もの間息を潜めていたが420年前に突如頭角を現し
星間連合側に宣戦布告。その頃には構成員は1000億を超えているものと思われる。
―――情報ロック―――
―――情報ロック―――
―――情報ロック―――
―――情報ロック―――
主犯格はまだわかっておらず、幹部クラスさえも不明。逐一星間連合側に捕らえられているのは末端のメンバーで重要な情報の漏洩を警戒しているものと思われる。主な襲撃事件に惑星ティータス
案の定、情報ロックは未だ健在だった。おおよそアクセス者のIPアドレスを解析しそれに応じた情報だけを提示しているのだろう。
情報ロックの欄をクリックする。
《情報ロック中。閲覧権限がありません》
と出た。
そこまでがI.E.Rの限界だ。解除には正式な手続きを踏むほかない。
しかしunknownは違った。
アクセス端末の表示を《一般》から《特別》に変える。すると《特別》の項目が細分化され、様々な候補が出てきた。その中でも一番上に表示されてあった《星間連合本部超》にチェックをつけ情報ロックを再びクリックする。
すると瞬く間に情報ロックが解け、中の情報が浩二の前に現れた。
中に書いてあったのは衝撃の事実だった。
【真銀戦、正式名称真蓋銀河統一戦線、刑務囚惑星バベルへと運び込まれた250億もの囚人で構成された宇宙テロ組織。600年前に成立。バベル職員を皆殺しに宇宙へ散開。
200年もの間息を潜めていたが420年前に突如頭角を現し
星間連合側に宣戦布告。その頃には構成員は1000億を超えているものと思われる。
カザ歴442年、惑星ティータス襲撃事件において、星間連合機関軍の殲滅部隊長ロナウドが幹部クラスの敵と衝突。激闘の末相手方を撃破。
すぐさまに脳髄を確保し精神潜行【アクセスダイブ】を実行。遊撃隊であったため本拠地は分からず。代わりに真銀戦の通信解読コードを取得。
コードは円周率を乱数表と見立てたアナグラム暗号通信。
しかし真銀戦の通信は一度も受信できず。既出以外の波長と周波数を使っている特別な波で通信している可能性あり。
アクセスダイブにより断片的な構成メンバーも把握。主犯格は不明。
幹部は4人構成。そのうち1人を今回撃破。
残る3人。それぞれ
【バッカス】 アクセスダイブにおいて頻繁に出てくる。惑星ティータス襲撃事件で主力メンバーであり、林立する建造物を木っ端微塵にしていった。
怪力の持ち主であり、身体中に施術痕あり。
【ムセイオン】 惑星ティータス襲撃事件の参謀。力量は不明。類稀なる演算能力を持ち、その腕は確か。真銀戦に関する全ての作戦を組み立ていると推測される。頭に手術痕あり。
【フェザード】
惑星ティータス襲撃事件の主力メンバー。武器を持たずしてターミナルを制圧。信じがたいことに映像より空間への干渉が可能と思われる。超能力者である。頭に施術痕あり。手術の結果能力を得た可能性が高い。顔に大きな傷あり。紫色の髪が特徴。
主犯格はまだわかっておらず、幹部クラスさえも不明。逐一星間連合側に捕らえられているのは末端のメンバーで重要な情報の漏洩を警戒しているものと思われる。主な襲撃事件に惑星ティータス
秘匿されていた情報を全て読み終わった時、浩二はなぜこれほどにも重要な情報がロックされていたのかに疑問を持った。しかしそれは真銀戦との絶望的戦力差を知った瞬間に消え去った。そしてこれほどにも強大な敵に玲人は勝てるのかと感じ、浩二は打ちひしがれた。しかし玲人は強くなるといった。ならば信じることしか浩二にはできない。
そう切り捨て、次の思考を開始する。それは真銀戦の通信傍受であった。
今ある情報収集手段、unknownだけだと知れることには限りがあるし、それに加え敵の動向を知らなければ復讐などできない。
だからこそ浩二は真銀戦の使用する《特別な波》を受信するべく、情報収集衛星とunknownを駆使して宇宙空間を飛び交う全ての波を受信していった。
幸いにも特別な波という表記から宇宙を飛び交う既出の波の大部分を占める電波を除くことができた。しかし、それを除いた後でさえも残るものは膨大であり、浩二1人にとっては荷が重かった。それに、見つけても解けなければ意味がない。そこで浩二は自前の円周率照会プログラムを演算装置と繋げてあった自宅のunknownとリンクさせた。
情報収集衛星で得たそれらしき波を片っ端からunknownに打ち出して処理が終わった結果を見て行く。それを続けること一ヶ月。ようやく浩二は真銀戦の通信らしきものを傍受した。真銀戦が使っていたのはやはり奇怪な波長と周波数のマイクロ波だった。
マイクロ波は収束率が高く拡散しにくい。その特性を生かして真銀戦はそれをすべての通信で使っていた。出発地点から到着地点までの距離を設定し、その距離でいくらマイクロ波がダークエネルギーや星間重力で引き延ばされるかを測定し、それを元に圧縮されたマイクロ波を打ち出す。打ち出した直後は圧縮されていて解読不能だが、目的の星に到着する頃には引き延ばされて解読可能となる。誤差10万キロの範囲で真銀戦はそれを可能にしていた。
そしてその暗号化された通信を現地の末端メンバーが受信し、その星で工作を開始。
同時進行で仲間を何らかの手段で呼び寄せていた。
浩二がこれを受信できたのは奇跡に近かった。だが、その仕組みさえわかれば圧縮解凍プログラムによって打ち出された直後のマイクロ波さえ解読可能になる。
浩二は受信できたことに歓喜した。そして受信できた理由に気がついた時初めて絶望を浩二は感じた。
誤差10万キロメートル内。
目的の星に向けての送信。
それが指し示すのはつまり、この星パルテノンこそが真銀戦の標的であるという事実であったからだ。
すぐさま浩二は受信内容に目を通した。
【真銀戦本部"バルキュリア"より通達。次回目標は神聖都市惑星パルテノン。決行はこの受信日より15日後。近くの構成員は直ちに集まり、【ゼウス】を配置せよ】
簡潔でいてまとめられた2行の命令文。たったこれだけの文字が何万人と言う死者を生み出し、星を荒廃させる。恐ろしいほどの未来に浩二はつばを飲み込んだ。
受信内容を理解した時点ですぐさま浩二はこれを伝えるためにエリア51へと向けて出発した。疲れた体に鞭を打って。
―――
浩二は傍受した内容を玲人達に話した。
皆が黙り込む。心に整理がつかないのだ。
各々が考え込む中、玲人だけは違っていた。
【バルキュリア】……その言葉が玲人の中で反芻される。
"あいつ"がいるところ……。つまりは復讐の場所。その事実が決意を固くさせて行く。
『ってことは実行日は2週間後か?』
ジョーカーが尋ねる。
浩二は静かに頷いた。
『おいおい、そりゃ幾ら何でも早すぎるだろ。玲人の調整がまだなってないぜ』
『僕はもう大丈夫だよ!』
玲人がジョーカーを睨む。
睨まれたジョーカーは軽く笑っただけだった。
『そうか、それならいい。実行日まで全力で休んでおけ。』
ジョーカーが言う。
もちろん、といわんばかりに玲人は頷きで返した。
しかし調整が整っていないのは玲人自身も感じていた。
2週間の猶予。その期間でどれほど調子を上げれるかが問題だった。
『それでコウジ、【ゼウス】ってのはなんなんだ?』
傍受内容の未知の言葉にジョーカーが触れる。それはみんなが思っていたことだった。が、浩二は【ゼウス】についての情報だけは傍受できなかったらしく静かに首を振った。
『いや、わからない。それについてだけは通信すらされていなかった。ただ字面からしておそらく殺戮兵器か何かだと思うが注意してくれ』
浩二の発言に皆が頷く。
『充分だ。1週間後、ここにもう一度集まるぞ。作戦会議だ』
ジョーカ―がまとめるようにそう言いその日の集まりは解散となった。
2週間後の開戦。それは玲人にとってあまりにも早すぎる実戦だ。
しかし玲人は覚悟を決めていた。一ヶ月前の玲人はもうここにはいない。そこにいるのは強く成長した別人だった。
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