第15話 傍受
浩二は倒れてからすぐに小屋の一室へと運ばれた。幸いにもけがや病気の類ではなくただ疲れから来る衰弱だと分かった時点で玲人は安堵し、肩から力が抜けていた。
ジョーカーも同様に力が抜けたのか今は玲人の目の前で、脚色が加えられた様々な過去の戦闘やら事件やらを話していた。
『だから信用すべきはやっぱ銃だな』
自身のある部分へと突入したのかジョーカーがそう言いながら自身の中性子銃を回す。しかし誇らしげに語るジョーカーとは裏腹に玲人は今にも間違えて発射されそうな銃弾におびえていた。けれどもやはり実体験から来る話なのかそのほとんどの話は玲人の興味を駆り立てた。
丁度その時小屋に一台しかないキッチンからシーナの呼ぶ声が聞こえた。シーナは、衰弱した浩二を早く回復させるために、調理をしている最中であった。どうやら持ち込んだ保存食を煮たり砕いたりといろいろな方法で調理しなんとか食べやすいものにしているらしかった。声を聞き、ジョーカーが席を立つ。保存食の追加がほしいのかと思ったジョーカーは近くの保存食を数個とるとシーナのところへ向かう。誰もいなくなった部屋で最初、玲人は外を眺めたり、銃を触ったりと暇を潰していたが、予想外にも退屈は早く訪れた。手持ちぶたさになった玲人は浩二の様子を見るべく部屋を出た。
倒れてから数十分後、ベッドに寝かされていた浩二がようやく目を開けた。
体調が回復したようだが、未だ疲労の色が顔には浮かんでいる。
『叔父さん!』
丁度起き上った浩二を見て、玲人は声を上げ、すぐに駆けよった。そして回復したことを確認した玲人は別室にいるジョーカーたちを呼んだ。
『目が覚めたか? シーナが迷惑かけたな』
ジョーカーは開口一番そうつぶやいた。若干謝罪の色が浮かんでいるあたり浩二が倒れた理由に大方の予想がついいているのだろう。シーナは、私は悪くないと主張するかのように目をそらしていた。
事の発端はジョーカーに会おうとして乗った浩二のリディールが壊れたことにあった。
リディールが壊れる、それはつまりエリア51へといけなくなることであった。
どうするべきかと迷っていたところ、偶然にもシーナが立ち往生していた浩二を発見した。
シーナもジョーカーに会いに行く途中というので浩二は頼んで後ろに乗せてもらったらしいのだ。
そこで事件は起きた。ジョーカーに会いたい気持ちを蓄積させていた彼女は1秒でも早く会おうとまたしてもリディールのスピードを限界まで上げたのだ。
情報収集をするべく徹夜だった浩二にそのスピードは毒でしか無く、玲人と同じ惨劇をシーナは繰り返した。
そしてそのまま到着とともに浩二に限界が訪れ、倒れたらしいのだ。
『叔父さん、大丈夫?』
玲人が浩二に話しかける。
外見はそのまま、しかし余分な脂肪は削ぎ落とされ、体の内には必要な筋肉がついていた。
加え、体のあちこちにキズやアザができており、鍛錬の物々しさを語っていた。
玲人の劇的な変化に最初浩二は目を疑った。しかしそれが努力の結果であることに気がつくと厳しい鍛錬にも折れなかった玲人に感心した。
『久しぶりだな、見間違えたよ玲人、強くなったな』
浩二が優しく語りかける。
『それより叔父さん。情報収集はどうだったの?』
『ああ、バッチリさ。まさかジョーカーが私用の情報収集衛星を持ってるなんて思いもしなかった』
『お前を見習ったんだ』
ジョーカーがおどけて言う。
浩二が薄く笑った。しかしすぐに顔から笑みが消えた。
そして、忘れたい重要なことを思い出したかのように深呼吸をした。
『それより、よく聞いてくれ。この一カ月で私は真銀戦の通信を傍受することに成功した』
その言葉とともに部屋に緊張が走った。
真銀戦の通信の傍受。それが意味するのは起きる予定のテロ攻撃をすべて把握できるということだ。その事実がどれほどの価値を持つのかは言うまでもない。
堪らずジョーカーが苦笑する
だがそれで空気が和らぐはずもない。
浩二がここまで急いできた理由。
聞かずとも玲人にはもう分っていた。
だから緊張は解けない。浩二がそれを言うまで。
沈黙が長く続いた。
次第に浩二の顔にわずかばかりの汗が滲んできた。
おそらく心の中で気持ちが固まったのだろう。
意を決した浩二が重々しく口を開いた。
『そして、それによるとこの星は近い未来に真銀戦の襲撃を受ける』
予想通りの答えだった。しかし確証として輪郭を与えられた事実に玲人が身震いをする。
やはり、寒さのせいではなかった。
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